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#写真が存在しない日々 #3

 私はスマホでよく景色を収める。収めたがる。些細な景色でも撮ってしまうので、ストレージは直ぐにいっぱいになってしまう。そんな私でも、写真を撮らない日がある。そんな日を私の「日常」と定義できる気がした。そんな日こそ愛したい。なので、そんな日だけを取り出した日記をここに載せようと思う。

2022.10/22

 朝から帰省。大阪駅から滋賀県の北、長浜へ向かう。補助席に座る。土曜日だからか、カップルが多い。京都駅で降りていくあまたのカップル。滋賀県へは行きませんか!あと、もう少しで滋賀です!県庁所在地の駅にはびっくりするほど何もないけど!新幹線が止まる駅は、ゴーストタウンみたいになってるけど!電車から感じとることのできる田舎の風情はなかなかいいですよ。
 滋賀県に差し掛かった途端、とある男性が乗車。柿の種を取り出すや否や、袋の開け方を盛大に失敗。からの大爆発。1メートル以上離れた私の足の前にも、一粒の柿の種が。衛生的に拾おうとも思わないため放置。複雑。そのおじさんが「柿の種」と書かれた袋を持ってくれているから、犯人は私ではないと多くの人は理解してくれているが,それよりも、私が気を抜いたとたん、粉砕されている未来も十二分に考えられてしまう。私の実家に近づくにつれて,窓の景色は田んぼが中心になり、電車の仲間たち達は減っていく。電車に生き残る人の数がどれだけ減っても自分の意志で動けない柿の種はそこから動こうとしない。どうせ私が降りたとて、清掃のおばちゃんにこれだけの長旅を行っていることなど考慮されずに塵取りの中へ消えていくのだろう。けど、どこか期待してしまう。またこの車両に乗ったとき、生き残ったお前と会えるんじゃないのか。期待させてくれよ。柿の種をじっと見つめてから、私は電車から離脱した。
 実家に到着。することがない。親族が続々とくると聴いていたのに。中1の従兄弟と二人きり。しかも女性。ニンテンドーSwitchもないし、話したいことも特にない。「寒くなったよなぁ」「最近,部活楽しい?」提供できる言い出しはこれくらいでした。ごめんな…なんもしてやれんくて。
 わたしの実家は寺である。今回の帰省は1年に1回のお寺の大行事。毎年親族が一同に集まる。年末年始よりも出席率が高い。そして,その夜には地域の子どもたち・そのご両親・ご近所さんがお寺の本堂に集まる大イベントが開催される。かつては、大道芸人の方や、アマチュア落語家など、パフォーマンスを楽しんでいたが、コロナ禍の不景気や感染症対策もあり、パフォーマンスからレクリエーションに変わった。そして,私は参加者から司会者になった。しっかりと段取りを確認し、リハーサルも行い,いざ本番。いやいや待て待て。なんでこんな大仕事やってるのに、写真が一枚もないんだよ。こんなの「日常」じゃないよお。今の時点で、1170文字くらいまで来てるよ。まあいいか、続けます。
 本番は、大成功に終わった。ビンゴ大会の参加者を上手に巻き込みながら、誰よりも声張り上げた。「なんの数字出てほしい?」「まだリーチにもなっていない運をここで使って溜まるかという方いらっしゃいますか?」「イカサマの疑いようがないくらいに私は穴が空いていません」「39!サンキュービンゴの方!おお!おめでとうございます!」頑張った。かなり広い空間でマイクを使わずとも,ビンゴの数字を全員にお伝えしたエネルギーは、我ながらあっぱれだ。一種のハイ状態だったと言える。そしてご近所さんから褒められた。司会上手いなぁ〜。ありがとうございます。そんな言葉、幸せすぎるよ。

 ただ、「66!66出ました!悪魔の数字ですね!!」と、ちょいと口走ったこと。あれだけは反省しています。仏の世界で大変失礼しました

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