見出し画像

Yes「Heart Of The Sunrise」:個性の衝突と企みの交錯から生まれたスリリングなアンサンブル

Yes「Heart Of The Sunrise」は、Rick Wakemanが加わった直後のスタジオ・アルバム『Fragile』に収録されています。幕開きの役を担った「Roundabout」とともにアルバムを象徴する曲であり、一方でこちらは終幕を担当しました。この曲の最大の特徴は、なんといってもイントロの頭をはじめとして随所に登場するフレーズでしょう。高速かつ強力なスネアとベースとギター、その間を埋めるHAMMOND。いくつものセグメントをつなぎ、10分以上ある曲の軸となるフレーズです。

メインのフレーズを軸にしたバンドの演奏は実にスリリング。序盤にドラムとベースとMellotronで展開するところが特に好きです。そこにギターが加わり、やがて前に躍り出て曲を支配する展開も素晴らしい。衝突するミュージシャンの個性、交錯する各パートの音楽的企み。一歩間違えれば崩壊して不協和音と化しそうですが、そうはなりません。ひとつの流れを編み上げ、強力なロック・アンサンブルを打ち立てます。

ライブ盤『Yessongs』で「Heart Of The Sunrise」の演奏が聴けます。冒頭から束になり、畳みかける音の群れは実にゴージャス。ときに暴れてアグレッシブに、ときに渋くブルージーに響き、緩急もダイナミックです。Chris Squireが弾く太いベース、Steve Howeによる硬くて鋭いギター、Rick Wakemanの多彩なキーボード・サウンドが聴く人を音の渦に突き落とします。Jon Andersonの美声が主役を演じるパートでは、鮮やかな陰影が生まれます。移り変わる展開に聴き手は魅せられ、要所で響くテーマがその心を捕らえ続ける。僕らは終わらない音の世界に吞み込まれます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?