Steve Aoki「Waste It On Me [feat. BTS]」Remixes:歌声の魅力を多角的に照らし出すリミックス、多様なエレクトロニック・サウンドが光る
2018年12月、Steve AokiとBTS(방탄소년단)がコラボレーションした「Waste It On Me」のリミックスが毎週金曜日に公開されました。リミキサーはSlushii、Cheat Codes、W&Wという、いずれも人気のDJ/Producerです。そしてSteve Aoki自身もリミックスを手掛け、年末休暇の時期に配信が始まりました。
リミックスを聴く醍醐味はオリジナルとの違いを感じることです。オリジナルの要素を残しながら、どのような価値を新たに加えるか。オリジナルから逸脱するのであれば、それに代わる魅力を提供できるかどうか。リミキサーが見せるアプローチは、もちろんすべてを好きになることは不可能ですが、ぴたりとフィットしたときの心地好さは格別です。オリジナルもリミックスも存分に楽しめたら、それは深くて広い音楽体験として記憶に残り続けます。
一連のリミックスで最初に公開されたのはSlushii Remixです。Steve AokiとSlushiiのツイートに貼られた十数秒の音を聴いて、これはおもしろくなると確信しました。オリジナルはBTSの歌声の美しさを存分に楽しめるアレンジですが、リミックスではその歌声を素材としてSlushiiのサウンドで料理します。
イントロの段階では、サウンドは薄くて軽いように思えます。けれども、ベースが入ると途端にサウンドは深みを増し、やがてドラムなどが加わって厚くなります。Chorus部分ではボーカルをミュートして、オリジナルで鳴っていたブラスのような音を強調している。この音が実に叙情的で、歌声とは異なる哀愁を漂わせます。
Slushii Remixを聴いて期待が高まる中、一週間後にCheat Codes Remixが配信されました。このリミックスではBTSの歌声を軸にしており、そこにはオリジナルの輪郭が見え隠れします。オリジナルのイメージを残しつつ、キックの音を強めて重ねるアプローチです。
全体的にエレクトロニック・サウンドがボーカルやラップの裏で鳴っていて、サポートの役割を果たします。オリジナルよりもポップというべきか、オリジナルの繊細な部分を、密度の大きいキックの音で上書きして太くしています。僕はオリジナルに対してR&Bのような印象を抱きましたが、Cheat CodesのリミックスはEDMとポップスの中間に位置すると思いました。
三番目に登場したのはW&W Remixです。このリミックスは上述のアプローチと異なって、ストレートにEDMへの作り変えを試みており、印象が大きく変わります。EDMらしさを全開にして展開するサウンドは原型を留めずに、ある意味では曲の形を破壊している。それがまたおもしろいのも事実であり、このパンキッシュな改造に熱くなります。
W&WのYouTubeページでは、二人のワールド・ツアーの様子を収めた映像に、W&W Remixの音を重ねたビデオが公開されています。煽るWillem van HanegemとWard van der Harst、ヒートアップする観客。この光景を生み出す音に、これからW&W Remixが加わっていくのでしょう。クラブやスタジアムを大いに盛り上げることは必至です。
最後に登場したのはSteve Aoki The Bold Tender Sneeze Remixです。Steve Aokiが自ら作り上げた「Waste It On Me」を解体して、再構築しています。オリジナルの時点でEDMからは離れたアレンジだったこともあり、リミックスでは大きくEDMに寄せた印象を受けました。オリジナルの制作者がリミックスすると、同一の感性から生まれる振れ幅を楽しむことができますね。
こうして多種多様なエレクトロニック・サウンドでのリミックスを聴くと、BTSの歌声が活きる音はヒップホップやポップスに留まらないと思えてきます。EDMとの相性が良いことは、The ChainsmokersやSteve Aokiとのコラボレーションなどを通してすでに証明されています。今回のリミックス企画で実現したように、EDMアーティストたちが彼らの歌声を求める場面は今後もっと増えるのかもしれません。