メモの魔力
「人生でいちばん楽しかった思い出は?」
「人生でいちばん苦労したことは?」
私がいちばん苦手な質問。だってそんなこと、すぐには思い出せないから。
お笑い芸人さんは特殊能力の持ち主だと思っていた
私は、お笑い芸人さんをとても尊敬している。理由はいろいろあるけれど、ひとつに「何気ないエピソードを覚えている」というのがある。
そもそも私は、「アメトーーク」や「すべらない話」といったトーク番組が大好きだ。
普通の人ならつまらなくなりそうな話も、お笑い芸人さんが話すと、たちまち面白い話になる。それがまるで魔法のようで、物心ついた頃から、お笑い芸人さんの話に熱心に耳を傾けるようになった。
「なんでお笑い芸人さんって、こんなにエピソードトークを覚えているんだろう」
大学生のある日、トーク番組を見ながら、ふとそんな疑問が頭をよぎった。というのも当時、私は就活生で、「人生で苦労を乗り越えた経験を教えください」とか「人生で忘れられない思い出を自由に表現してください」とか、そんなことが書かれたエントリーシートに、日々向き合っていた。
苦労を乗り越えた経験といわれても、高校生の頃の受験とか、そんなことしか思い浮かばない。でも、なんかもっとあるような気がする。でも、全然思い出せない。
私にとってエピソード探しは、まとめ方どうこうよりも、何百倍もしんどい作業だった。お笑い芸人さんのような、些細なことを覚えている特殊能力がほしいと何回思っただろう。
「もし、私に『すべらない話』のオファーが来ても、話を面白くする以前に、話すことがそもそも見つからないだろうな」
そんなありえないことを思いながら夜な夜なおぼろげな記憶を遡っていく。何も覚えていない自分を、人生で初めて悔しく思った瞬間だった。
寝たら忘れる出来事が私を形成している気がして
就活以外に、思い出を必要とする場面というのは、案外出くわさないものだ。だから就職以来、自分で過去を思い出す作業みたいなことはしていなかった。
きっかけは、noteでエッセイを書くようになったこと。はじめこそ、自分の考えやずっと書きたかったことを気のままに書いていたが、それではだんだん話題がなくなってくる。
とりあえず私は、日々の発見や思いついたことを、noteの下書きやLINEのKeepメモに書き残すことにした。日記とかそんな大したものじゃなくて、たった一行の独り言のようなメモ。
そんなメモでも続けていると、「案外、日々の中に忘れたくない瞬間というのは、沢山あるんだな」ということに気づいた。
友人に言われた「この道でいいのかなと思っても1年やってみると何かにはなってるかも」という言葉。星空を見て「普段は見えない星がこんなにあるのか」と感動したあの日の光景。
学生の頃の文化祭とか、大切な人と行った旅行とか、そんな大きな出来事に、記憶の容量は奪われてしまいがちだけれど、寝たら忘れてしまうような些細な出来事こそ、今の私の価値観とか行動につながっている気がする。
そう思うとメモというのは、大切なことをずっと覚えておける、魔法の道具なのではないか。
そういえば、最近知ったのだけど、お笑い芸人さんはトークのために、日頃からメモをとっている人も多いらしい。私が特殊能力だと思っていたのは、日々の蓄積の賜物だった。
メモをはじめてから、まもなく半年が経つ。以前より、些細なことを覚えていられるようになった。
あともう少し経てば、「人生でいちばん楽しかった思い出は?」という問いに、臆することなく答えられるようになるだろうか。
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