【短編小説】眠る街
目が覚めた。時計の針は3時を指していた。日付が変わる頃に布団に入り、目を瞑った、はず。ここ最近こんなことが続いている。
悪くいえば「眠れない」、良くいえば「早起き」なのだが、いずれにせよ睡眠時間が短くなっているので、気持ちの良いものではない。目を覚ましたといえど、猫も杓子もどうでもよく感じて、いつもベッドの上で自分の心臓の音と秒針の音だけが聞こえる部屋でボーっとしているだけだ。
だが今日は何か違う。僕は徐にベッドから出て、寝間着に一枚薄いウインドブレーカーを羽織った。
「少し外に出てみるか。」
そう思うだけでなく、小さな声で呟いた。久しぶりに自分の声を聞いた気がする。
僕は乱暴に、裸足のままスニーカーを履いて、玄関のドアを開けた。
外に出てみると、遠くはうっすらと明るくなり始めていたが、僕の頭上の空はまだ月と星が支配していた。街は雨の匂いで包まれていて、ついさっきまで雨が降っていたようだ。雨の水滴のせいなのか、街灯の灯りが生き生きしているようにも思える。
20分くらいふらふらと歩いて、公園のベンチに座った。さっきよりも空が白んできた。
太陽が顔を出さないうちにと思って、僕は最後のタバコに火をつけた。タバコを吸う気力さえ湧かず、勿体ぶって残していたのか、一本だけ取り残されたタバコの煙に一吸い目でむせってしまった。一本だけ吸ったタバコが僕の血管をぎゅっと締め付けるのが分かった。
ベンチから立ち上がった時、早朝ランナーの小気味良く刻むランニングシューズの音が、鳥のさえずりと共に聞こえてきた。もう朝か。帰ろう。少し遠回りをして、だらだらと歩いた。
家に着いた頃には、街灯はすべて消え、頭上の空ではもう太陽が月たちを隅っこに追いやっていた。太陽の光が体を包み込むのではなく、チクチク刺してくるように感じられた。
なるべく光を入れないようにと、カーテンを閉め切った部屋のベッドに戻り、目を瞑った。たった一時間かそこらの外出。それが僕にとってどれほど貴重な時間になっただろうか。夢を見ているような感覚だった。大袈裟か。僕はまだ眠れない。