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【連載小説】傘とブラックコーヒー ④

「すみません。自己紹介が遅れました。中山葉月と言います。改めて、昨日は傘をお借りしてしまって申し訳ありません。」

今更になっての自己紹介。

「僕は森翔太です。本当にもう謝ってもらわなくて大丈夫です。」

マスターがコーヒー豆を挽く音が鳴り続けている。

「葉月さんは同じ学科だったんですね。すみません、一度もお見掛けしたことがなかったもので。」

「そりゃあ会わないですよ。私、留年してるんです。恥ずかしながら。」

先生、宿題忘れてきちゃいましたと言わんばかりのテンションで自身の留年のことを話した。こんなに重要なことをサラッと言えるのだから、傘を貸してください、くらい簡単に言えるじゃないのかと思ったが、もう責めるのはやめようとも思った。やはり僕は良い人なのか。

「葉月ちゃんさ、また何も言わないでここに連れてきたでしょ。翔太君、だっけ? ごめんね、この子そういうところあるんだよね。」

マスターにはすべてお見通しのようだ。

「そうなんです。いきなり話しかけられて、いきなりここへ連れてこられました。」

「ははっ、ダメじゃないか知らない人についてきちゃ。小さい頃教わらなかったかい?」

「僕もさっきそう思ったんですけど、あまりにも強引だったもので、つい。」

マスターは僕のこともお見通しのようだ。

「私はただ、お詫びしなきゃ。と思って必死だったんです。」

「必死なことも、本当に悪いと思ってることも、もう十分に伝わりましたから、僕で最後にしてくださいね。」

さっきまで物凄くイライラしていた奴がよくもこんなセリフ言えたなと思ったが、さんざん振り回されたことを優しく注意できる僕はやっぱり良い人だ。いや、思ってもないことをつらつらと並べられるのだから悪い人なのか。

マスターが、そうだよ、君は悪い人だよ。と、答えるようなタイミングで、香ばしく真っ黒なコーヒーを差し出してきた。

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