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【短編小説】長いものには巻かれよ


 ブルーハーツに憧れてバンドを始めた。ありがちな理由だろう。シンプル、ストレート、メッセージ性の三拍子そろった歌詞、幅広い楽曲、そして魂のライブパフォーマンス。「こうなりたい」と思って楽器に初めて出会った中高生は全国にどれほどいただろうか。俺もその一人だ。かっこいいバンドマンになりたい。いや、かっこいい男になりたい。
 そう思ってコピーバンドから始め、曲を書き、ブルーハーツさながらのパフォーマンス(ただのモノマネ)で、パンクバンドをがむしゃらにやっていた。が、そんなコピーバンドよりあからさまなモノマネバンドが売れる訳もなく、1年そこらで解散した。

 バンドの夢を諦めきれなかった僕は新しいバンドを組んだ。もう1年くらいは活動している。
 下北のライブハウスでバイトをしているベース、新宿の無駄にお洒落な居酒屋でバイトをしているドラム、御茶ノ水の楽器屋で働いているギター、そして池袋のコンビニのバイトリーダー兼バンドリーダー兼作詞・作曲兼ボーカルの俺。肩書が多いがどれを取ってもパッとしない。というかメンバー全員パッとしない。普段はパッとしないが、ステージに上がれば違う。暑苦しいほどのライブパフォーマンス、魂に語り掛けるような歌詞。下北沢の地下のライブハウスはある程度埋められるようになってきた。いわゆる「ファン」という存在も少なからずいる「メジャーデビュー」という目標に向け頑張っている。

 ということなら良かったなあ。ただの妄想だ。だが、すべてが嘘ではない。パッとしない俺達がステージに上がれば、気持ちはロックスターだし、「ファン」が増えてきているのも事実だ。「メジャーデビュー」という目標も。じゃあ何が妄想なのか。俺達のライブは暑苦しくもないし、魂に語り掛けるような歌詞の曲はない。パンクのそれとは真逆の、お洒落エモラブソングばかりを唄うバンドだ。
 このバンドを組んだ時に他のメンバーに、「今の時代、こんなバンドは売れないでしょ。」と前のバンドの悪口をさんざん言われたのがきっかけで辿り着いた答えだ。
 よくもまあこんな歌詞をつらつらと書けるなあと、自画自賛なのか自己否定なのかよくわからないことを今でも思う。

 「初めて会った時から 僕は君に惹かれたんだ 今すぐ君に会いたい 会いたい」:引用 俺の曲

なんとも中身のない使い古された歌詞なのだろうか。ある意味ストレートな歌詞か。さあこのバンドで売れよう。


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