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【連載小説】傘とブラックコーヒー ③

「やあ葉月ちゃん。お客さん連れてきたのかい。」

マスターだ。蝶ネクタイにエプロン、丸眼鏡。おまけにコーヒー豆を挽いている。一目でわかった。

「はい! 昨日私が傘を借りた方を連れてきました! お礼に!」
ちょっと待て。少し違うな。傘を、盗んだ、お詫び、だろ。
「また、人の傘を借りたのかい。」

「いやあ、恥ずかしながら。」

「その度にお客さん連れてきてくれるから、お店としては嬉しいんだけどね。」
分かったことが二つある。彼女の名前は葉月。それから人の傘を盗む常習犯だということ。

 「さあ、こちらへどうぞ。」マスターに案内され、カウンター席に座った。
 店内は非常に落ち着いた雰囲気で、質の良いジャズとコーヒーの香りで満たされている。路地裏の奥にひっそりと店を構えているところから「隠れ家」的な喫茶店なのだろうか。

「君たち何か飲む?」

「私はホットコーヒーで! 豆はマスターのおすすめ!」

「僕も同じのを。」

「分かった。ちょっと待っててね。」

 そう言ってマスターは黙々と豆を挽き始めた。

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