お酒片手に、訂正・判定から漂う争いのかほりを楽しむ🍺

 本記事は 知財系Advent Calendar 2022 参加記事です。

 特許の争いごとといえば訴訟である。無効審判も「当事者系」と言われるとおりあからさまだ。もう少しマイルドに争いのかほりを楽しみたい方はおられようか。そこでこの記事では訂正審決と判定を覗いてみよう。お酒でも片手に気軽に参りたい。

訂正2021-390027(コナミデジタルエンタテインメント)

 訂正審決である。訂正審判は特許権者が自身の特許の内容について自発的に訂正しようとするものであるが、無効にされる危機感が高まったときに行うことが多く、つまりは特定の相手を見据えて審判請求することが多い。

 「22 訂正後の請求項7に係る発明の独立特許要件について」の「(2)特許無効の抗弁」の項を見る。

“本件特許に関し、東京地方裁判所において特許権侵害差止等請求事件(令和元年(ワ)第34572号)(以下、「別件侵害訴訟」という。)が係属中であるところ、当審からの当該別件侵害訴訟について無効の抗弁の状況についての審尋に対する回答書によれば、当該別件侵害訴訟において本件特許にはつぎの特許無効の抗弁がなされていることから、以下、当該特許無効の抗弁の理由の存在により、本件訂正発明が独立して特許を受けることができないものであるか否かについて検討する。”

 やはり特定の相手があり、権利行使を試みているようだ。そしてその相手から無効の抗弁(この特許は無効だから私に権利行使できないよ、という反論)がされ、対して特許の無効性を解消すべく本件の訂正をしたようだ。

 令和元年(ワ)第34572号は裁判所ホームページの裁判例検索でも出てこないし、我が寡聞の範囲では報道等もない。訂正審決を見ればこのような争いのかほりを嗅ぎつけることができるのである。嗅ぎつけてどうするというとどうもしないのだが、一部の者(筆者含む)にとってはなんとなく面白い。

 さらに「【理由】第1 手続の経緯」の項を見ると、

“……本件特許の通常実施権者である●(省略)●からの承諾書が提出された……”

とあり、ライセンスしていることがわかる。もしかしたら特許権者からライセンスの提案をしたかもしれないし、ライセンスの提案とは警告書と紙一重であるから、当事者の関係性・取り様によってはここにもかつて争いがあったのかもしれないなどと思いを巡らせる。訂正に通常実施権者の承諾が不要になっては、こんな知り方もなくなると思うと少々寂しい。

 ……長いぽんね。ここからはさくさく行きたいと思いますぽん。酒はちびちび、筆はさくさく。

レシートハキダスチャンとスタックチャン

訂正2020-390073(ニプロ)

“4-2 請求人の主張
(1)請求人は、本件特許に基づいて、特許侵害訴訟を提起している(東京地方裁判所令和元年(ワ)第27053号 特許権侵害行為差止請求事件)ところ、被告の主張する無効の抗弁(甲4、甲5、甲11)は、理由はなく、訂正後の請求項2及び3に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。”

 争ってますね。
 上記の地裁判決も、続く高裁判決も閲覧できる。相手方は株式会社トップのようだ。
   地裁判決 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=90735
   高裁判決 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=91022

 審決の発行日が2021年4月30日、地裁判決の言渡日が同年8月31日。ウェブで閲覧可能になった正確なタイミングはわからないが、数か月は早く争いの存在を嗅ぎつけられそうである。嗅ぎつけてどうするというとどうもしないのだが以下略。

ぐびっ(酒)。

訂正2021-390184(日東電工)

 裁判の番号がなくぼんやりした情報であるが、この特許権者・日東電工も係争中のようである。

“ア 無効の抗弁の根拠となる証拠
令和4年1月11日付け上申書とともに提出された証拠である乙第1号証の1ないし乙第44号証のうち、本件訂正発明1、6に最も関連した書証は、上申書の「4 上申の理由」欄に「本件特許権に基づく特許侵害訴訟において、これまでに被告側から提出された全ての書証(乙第1号証~乙第43号証)(当審注、乙第44号証の誤記と認められる。)の写しを提出します。被告が無効抗弁の根拠としている主要な証拠は、乙第1号証、乙第2号証、乙第24号証の3文献です。」とあるとおり、次の乙第1号証の1、乙第2号証及び乙第24号証と認められる。”

 日本の特許は殆ど権利行使されないという。大多数が訴訟に使われないのは事実であるが、一部ではしっかり使われていて(使おうと試みられていて)、そのために訂正の制度も利用されているのだなあと、しみじみ。ちびちび(酒)。酔いが醒めたら内容をよく読み、権利行使や訂正のテクニクを学びたいと思います。かちっ(タブを閉じる音)。

 さて続いて判定も眺めてみよう。

判定2020-600001(凸版印刷)

 判定の制度も使われているのだな! こちらはしみじみで済まずいささか驚いた。

 請求人は凸版印刷株式会社、被請求人は株式会社タカラトミーアーツ、内容はタカラトミーアーツの「ビールアワー極泡スマート」が本件の特許発明の技術的範囲に属するか否かで、結論は否、というものだ。

 被請求人があれば被請求人の答弁書も登場し、判定の手続きとは筆者が思っていた以上に当事者系の様相である。

シリーズ展開!

 本件特許、請求項1は比較的短い。

“【請求項1】
A 飲料を収容する容器であって注ぎ口を上部に有する前記容器に取り付けられるように構成された超音波振動付与装置であって、
B 前記容器の上部に嵌められるように構成された環状の嵌合部と、
C 前記容器と前記嵌合部との嵌合によって、前記注ぎ口の下方にて前記容器の側面に接する位置に配置されるように構成された超音波発生部と、を備える
D 超音波振動付与装置。”

 要するに、ビール容器の注ぎ口あたりで超音波振動させ、中のビールを泡立ちよく注げるようにする装置の発明のようだ。

 ここらでビールに切り替えよう。

 イ号物件の説明が面白い。

“・・・イ号写真によれば、缶の飲み口が9時の方向にあるとき、持ち手を3時の方向に配置すると、超音波発生部300は10時の方向にある・・・”

 筆者は物の形状や位置関係をテキストで表す推理小説が好きで、なんだか似たような面白さを感じる。そしてまさしくこの位置関係が特許発明の構成要件を充足するか否かの判断のポイントである。気になった方は是非ご一読を。

 充足の論点の後ろには均等の論点が続く、丁寧な構成。4-2(1)から(4)に飛ぶように見えたが、酒が回って目が滑ったのやもしれない。

“4-3 むすび
 以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。

 5.むすび
 以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。”

 4-3は「4.対比・判断」のむすびで、5は全体のむすびであるが、つい「2度も言わないでも」という気持ちに。争いのかほりは、ホップのそれに似て苦し。

 争いのかほりなど嗅ぎつけてどうするというと。こちらは何度でも言おう。
 どうもしないのだが、一部の者(筆者含む)にとってはなんとなく面白い。

 本件特許、特許権者は凸版印刷だけでなし。特許権は凸版印刷とサントリーホールディングスとの共有である。そこから思い起こされるは「神泡サーバー」。ほほーって感じである。しかし判定の請求人は凸版印刷のみ。おやおや、三者の関係を思い巡らせ酒が進む。

 ぐびっ。

おしまい。

筆者 @sylacwa(たぬき)

ぐびっ。


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