女性取締役を採用すると業績が上がるのはなぜか?
近年では世界的に女性取締役の採用が奨励されるようになってきている。しかし、女性取締役の数はまだまだ少ないのが現状であり、日本も近年役員クラスの女性の数は増えているものの、日本の上場企業の監査役を含んだ女性役員の割合は2017年で3.7%と先進国の中でほぼ最下位の水準であるという。
女性の取締役の研究において広く研究されていたトピックは、女性の取締役を採用することで企業の業績が向上するのか、ということである。この点に関しては、良い影響が及ぼされる、という結果とマイナスの影響がもたらされる、という結果が両方とも存在しており、業績との関係は学術界で議論の的になっていた。
Post and Byron (2015) は、この状況を打破するメタ・リサーチをAcademy of Management Journal に発表している。彼女たちは140もの女性取締役と財務業績の研究を調べている。ここでは二つの発見を紹介する。
第一に、女性取締役の採用とROEなどの会計上のパフォーマンスとの間には正の関係があるものの、Tobin's Q などで測定される市場パフォーマンスとは有意な関係が見いだせなかった、という点である。よって、女性取締役の採用は企業の効率性に貢献するといえる。
第二に、女性取締役の採用によって、モニタリングと戦略への関わり合い、という二つの重要な取締役会の機能が促進されることを明らかにしている。彼女たちは既存研究から女性の方が男性よりも厳しい倫理基準を採用し、リスク回避傾向にあり、取締役会への準備を行う傾向にあることを主張している。実際、彼女たちのメタ・アナリシスの結果、女性取締役を採用している企業の方が、モニタリングの機能が働いていたことを明らかにしている。
また、女性取締役は男性とは異なる経験、知識、スキルを保持しており、分析の結果、女性取締役が多い企業ほど取締役会の戦略的意思決定への関与が高まっていたことが明らかになっている。すなわち、女性取締役の多い企業の場合、戦略的意思決定がより多角的な視点で行われていることを示唆している。
こうした結果から、女性取締役の採用と会計上のパフォーマンスが正の関係にあるのは、女性取締役が企業のモニタリング機能を改善し、意思決定において多角的な視点を導入するようになるからといえるだろう。
この研究は、女性のビジネスにおける役割がますます重要になってきていることを示唆するものであり、日本の多くの企業も女性が活躍できるような仕組みを導入していくことがますます強く求められるようになるだろう。
Reference
Post, C. & Byron, K. (2015) Women on boards and firm financial performance: A meta-analysis, Academy of Management Journal, 58(5), 1546-1571.