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最後のマスカラ (毎週ショートショートnote)

「次、マスカラせずに来て。」

メーカーの化粧品部門で働く彼から言われた。
彼からすると下手なのか…。でも、どうせなら教えてもらおうと開き直った。


数日後。彼の車に揺られて着いた先は、趣のある旅館。泊まるなんて…と言いかけると
「おかえり。」
と、着物姿の女性が現れた。

「ただいま。母さんね。例の彼女。」
「は、はじめまして。」
「話の通り、可愛らしいお嬢さん。」
「調理場の奥借りるよ。」
「どうぞ。落ち着かないだろうけど、ごゆっくり。」


「驚いたよね。」
「うん。でも素敵。」

調理場の奥で彼は方眼紙を広げ、細長い棒を1番右下のマスに置き、少し動かした。その後、棒を触っては違うマスに置いて動かす、を繰り返した。


「太さ・長さ調整可、未使用の中身は食べられるってマスカラどう?
サンプルがひじきに見えて…家での最終試作品。」

彼は私に合うように試作品を塗ってくれた。その残りを鍋へ混ぜ入れ、落ち着く香りのお味噌汁を出してくれた。


最後のマスカラを最後のマスから塗ってみせる…最後飲ますから…か。

(432字)

※当記事は、こちらの企画への参加記事です。

考え始めると様々なネタが浮かんできたのですが、一部しか盛り込めませんでした…。
さすが、ひじき。水で戻せば約10倍になりますものね…。

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