メガネ初恋　(毎週ショートショートnote)

洗練された雰囲気の店構えに、透き通るほど磨かれたショーケース。居心地の良さから、将来ここの主になろうとまで思っていたはずなのに。


「どうぞ、色々お試しください。」
「あ、軽めのフレームってどのへんですか。」
「そうですね。あちらのスポーティタイプが1番軽くて、その次は今ご覧のタイプですね。」
「ありがとうございます。」

20代半ばぐらいの男性は自分のメガネを取り、サンプルを試し始めた。端正な顔立ちに物腰の柔らかさも相まって、つい見惚れてしまう。この人が今まで見てきた世界も、これから見る世界もきっと素敵なものに違いない。そう勝手に想像する。

「すみません。これにします。」
「ありがとうございます。こちらへどうぞ。」

どうやら私は、妄想していた世界を共に見ることになるらしい。もし顔があれば赤らんでいて、胸も高鳴っているだろう。ショーケースの中で得た知見とは比べ物にならないほど、人間社会が壮絶なものであるとは、このときは知る由もなかった。

(414字)

たらはかにさんの企画、毎週ショートショートnoteへ
このたび初めて参加させていただきました。
note初心者でもあり、ショートショートについての知識もほとんどなく
ただ「楽しそう！」という理由のみで…。

何事も場数を踏んで
良いものを早く創ることができるよう
精進してまいります。