漫画、山本直樹「田舎」について
山本直樹の漫画「田舎」を読んだ感想を書きたいと思います。
この作品に興味がなかった人に興味を持ってもらうこと、この作品をすでに読んだ人と解釈や疑問点を共有することを目的としています。
作品の展開について書かれているので、何も知りたくない人は読まないようにしてください。
「田舎」の公式サイト
http://webcomic.ohtabooks.com/inaka/
まず、この漫画に興味を持ったきっかけについて書きたいと思います。
「田舎」という作品を初めて知ったきっかけは、全連載話を収録した単行本の取り扱いについてのニュースを見たことです。
具体的には、公式サイトにも書かれている通りAmazonでの販売がされていない状況です。
当然Amazonは海外資本なので、日本では許容されている表現がグローバルな視点から見ると許容されていない、ということが考えられます。
山本直樹については、公式サイトにも書かれている「レッド」という作品を一部読んでいたので、前から知っていました。
あらすじを簡単にまとめると、「クソ暑い東京から逃れて勉強に集中する」ために田舎の親戚の家に滞在している受験生のフーちゃんが年下のキーちゃんとひたすら性的体験をする、というものです。
漫画の冒頭からキーちゃんはフーちゃんに対して積極的に性的に迫っていきます。
冒頭から性的な会話、性的な行為をすることがごく普通なものとして提示されます。
この漫画を読んでいて最も興味深かったのは、キーちゃんの瞬間瞬間での変化です。
積極的にフーちゃんに対して迫るキーちゃんですが、実際に行為に及ぶ時になると、明らかな戸惑いの表情を浮かべます。
自分が想定している行為や欲望に対しては、平然とした態度を示すのですが、自分の予想を超える行為をフーちゃんが求めたり自分が期待している以上の体験をしたりすると、彼女は表情や言葉で不安であることを表現します。
この変化は中盤以降、2人の関係が深くなって性的体験のバリエーションをどんどん増やしていこうとする展開まで一貫して描かれています。
逆にいうと、中盤以降2人の関係が後戻りする気配すら見えずエスカレートする一方の展開になってからは序盤ほどの面白さを感じることができませんでした。
そして、よく分からなかった描写があります。
フーちゃんは終盤に二回短いスパンで夢を見ます。
一回目の夢では親戚のおじさんに"深志(フーちゃん)君菊子(キーちゃん)が見えるんか?"と言われ菊子と母親らしき人が一緒に写っている遺影が描かれます。
二回目の夢では一年ぶりにフーちゃんがキーちゃんに会うのですが、キーちゃんは一年前にフーちゃんと過ごしたこともしたことも全く覚えていないのです。
この二つの夢でわかるのは、現在2人がしている体験がまさしく"夢"のような体験で実際に起きたこととは思えないほどであるということです。
この描写から読み取れるのはこれくらいで他の意味は読み取れませんでした。
ここの部分の解釈をすでにこの漫画を読んだ人に質問してみたいです。
最後には、フーちゃんが田舎から東京に帰ります。
その時、車に乗っているフーちゃんが振り返ると、キーちゃんは冷静で落ち着いた表情を浮かべています。
ここの部分は現実なのですが、彼女の佇まいは一回目の夢でみられた死後に幽霊となった姿のようにも見えます。
まとめると、漫画「田舎」の最大の魅力はキーちゃんの表情の移り変わりであり、終盤の夢の描写がよくわからなかったということです。
このノートを読んでこの漫画に興味を持っていただけたら嬉しいです。