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君と映画を見るのが夢だったんだ #秋ピリカグランプリ

マッチングアプリで知り合った彼との初めてのデートで、映画を見に行くことになった。名前は「マコト」。メッセージのやり取りはユーモアがあり、気さくで感じが良かったので、会ってみることにした。

当日、待ち合わせに指定されたのは、よく利用する都会のシネコンではなく、街はずれの古びた映画館だった。彼は既に入り口で待っていた。プロフィール写真だけで見つけられるだろうか…と不安だったが、すぐにわかった。

「はいこれ!チケット買っておいたよ」と言って、マコトは紙のチケットを渡してくれた。え?QRコードじゃなくて、今時、紙?手に取ると、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と書かれている。どうしても見たい作品がある、当日までのお楽しみ、と言われて任せてしまったが、40年近く前に公開された映画の再上映なの? こんなのサブスクサービスで見れるじゃん…?少しもやもやしたが、久しぶりに大画面で観るのも悪くないと感じ、席についた。

映画が始まると、彼はずっと真剣な表情でスクリーンを見つめていた。まるで初めて観るかのように、息をのんだり、時に声を出して笑っている様子が伝わってきた。こちらもつられて、物語に引き込まれていった。

クライマックスのシーンでは、彼がそっとハンカチを取り出して涙をぬぐっていた。それがなんだか微笑ましくて、彼の感性の豊かさに心が温かくなった。映画が終わり、感動の余韻に浸りながら立ち上がろうとすると、隣の席には彼の姿がなかった。

「マコトさん?」そう呼びかけても、返事はない。慌てて周りを見回したが、どこにもいない。出口まで急いで行っても、トイレの前でしばらく待ってみても、彼の姿は見当たらなかった。

首をひねりつつ、ふとポケットを探ると、彼がくれた紙のチケットが残っていた。改めて見ると、チケットには明らかに古びた感じがあり、日付は1985年、バック・トゥ・ザ・フューチャーが初公開された年が印字されている。

心臓がひやっとした。

え…どういうこと?私、夢でも見てる?彼は何者だったの?彼がいないという事実と、1985年の紙チケットが今ここにあるということが、頭の中でうまく繋がらなかった。85年って、私が生まれた年なんだけど…

彼のプロフィールを再確認しようと、すぐにスマホでマッチングアプリを開いた。ところが、彼のアカウントはすでに消えていた。まるで最初から存在しなかったかのように、彼の痕跡はどこにもなかった。


「ね〜ほんと訳わかんないんだけど〜お父さん。何だったの、あいつ…こわ」
帰宅後、残された紙のチケットを、父の遺影の前に何気なく置いた。ソファに沈み込んでしばらく放心した後、そういえば、と思い出す。無類の映画好きだった父の部屋に、もしかしたらバック・トゥ・ザ・フューチャーのパンフレットがあるかもしれない。今度、探してみるか。


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