【読書雑記】佐藤優『資本主義の極意』(NHK出版新書、2016年)
このところ、宇野弘蔵の著作が立て続けに文庫化されている。2010年には岩波文庫の白で『恐慌論』、昨年はちくま学芸文庫から『資本論に学ぶ』、今年になって岩波から『経済原論』。そして、これに呼応するかのように、最近、佐藤優がNHK出版から新書であるが『資本主義の極意』(NHK出版新書、2016年)を出版した。
一見タイトルからは分からないが、この本は、宇野経済学あるいは宇野理論を参照しながら、わが国の資本主義の発展プロセスを説明し、その論理の延長線上で現代日本の問題を読み解く……。まさに日本の資本主義の「極意」を示したものとなっている。昨日、都心の本屋さんで平積みされているところを帰りの電車で読もうと思い、買ってしまった。さすがに帰りの電車で新書一冊は読めなかったが、翌日の通勤電車で読み終わってしまった(こうやって、あっという間に本を読んでしまうと、なんだか本代がとても惜しい気がする……)。
来年度の講義にすこし参考になればと思って、最近ちょうど宇野弘蔵の『経済政策論〔改訂版〕』(弘文堂、1971年)を図書館から借りたばかりであった。もしかすると、ここ数年の本屋の風景(棚に反映された出版動向)が、なんとなくインプットされていたのかもしれない。
宇野弘蔵といえばマルクス経済学の泰斗(マルクス主義経済学者ではないところがミソ)。おそらく、この業界で知らない人はいない。とはいえ、1977年に鬼籍に入っており、すでに死後40年近く経っている。戦前戦後と影響力のあった研究者ではあるが、今ではマルクス経済学を大学で履修しないかぎり、なかなか耳にすることはなくなってしまった。
いつも思うが、佐藤優氏の目のつけどころは面白い。古典に属するものを、今様に、いや今でも適用可能なアナロジーを提示しリバイバルすることに長けている。しかも、それを誰もが理解可能なくらい簡単・容易なものに片付けてしまうのだ。対象は違うけれども、どこか池上彰氏にも似ているような……。ウケているのは、そういうことなのだろう。ただ、本ならば、考えるために少し立ち止まらなければならないくらいであってほしい。結論だけがほしいわけではない。読書によって著者の思考を追体験したいのだ。
いま、最近購入した宇野弘蔵『経済原論』を読み進めている。これはそれほど厚い本ではないが、深い読みを感じさせる好著である。それこそ、頻繁に立ち止まり、考えなければ、先に進むことができない本である(2016年2月1日記)。