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【作品と私】写真という魔法──『アレック・ソス 部屋についての部屋』東京都写真美術館
写真というものはつくづく不思議だ。目に見えている世界を切り取り、流れていく時間を堰き止め、未来に持続させていく。それは我々の脳裏に記憶として残り続けるよりももっと鮮明で、恣意的な美化の入り込む隙間もなく、ある意味、残酷とも言える所業かもしれない。けれど、カメラを持つ者がそうした残酷さに対して自覚を備え、愛を持って被写体へと向かえば、見えている現実をより美しく、貴いものとして切り取ることもできる。
見方を変えれば、世界は美しい。不条理な社会の中で、新たな視点や世界と向き合うための方法を提示することこそが芸術の価値だと思うし、そうした意味で写真は、最もシンプルで、直接的に芸術の価値を示し得る表現形態である、と言えるだろう。
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東京都写真美術館で開催されているアレック・ソスの展覧会「部屋についての部屋」は、素朴なテーマのようでいて、写真というものの先に書いたような本質的な価値を信じたソスの、情熱的な試みが発揮された、素晴らしい展覧会だった。ホテルのベッドの上にバスタオルで作られた2羽の白鳥が織りなす、小さな愛の形。作家の書斎に無造作に積まれた、努力や苦悩の蓄積とも取れる大量の本の山。それらを見つめるソスの視線は優しく、複雑ながらも対象への愛で溢れている。普段は見逃しがちな当たり前の風景も、見方を変えれば、美しい色彩で満ちている。自宅に帰って電気を点け、散らかった部屋を目にして思わず、カメラのシャッターを切ってしまった者は、きっと僕だけではないだろう。