うろ覚えむかしばなし 人魚姫

あやふや度 ★☆☆☆☆

むかし、海の底には人魚たちが住んでいました。
人魚というのは、上半身が人間で、下半身が魚の姿をした者たちです。
人魚たちは、歌がうまいと素敵だとか、しっぽに牡蠣やふじつぼがたくさんついていると偉いとか、そんなことを気にしながらのんびり暮らしていました。

ある日、人魚の娘が海の上の世界を覗きに行くと、海の上は大嵐でした。
船が転覆して、人々が波にのまれています。
人魚の娘は溺れるということがないのでよく分かりませんでしたが、苦しそうな若い男がいたので陸まで連れて行ってやりました。男の面倒をみるうちに、人魚の娘はその男のことがすっかり好きになってしまいました。
そのうち、人間たちがやってきて、ぐったりとした男を連れて行きました。

人魚の娘は、海の底に戻っても人間の男のことが忘れられませんでした。
どうしてもあの人の傍にいたい、そう思った人魚の娘は、人魚の魔女の元を訪れました。
事情を聞いた魔女は言いました。
「人魚の足を人間の足にする薬を売ってあげよう。
 お代はお前の美しい声だよ。お前はもう声が出せない。
 それから、お前の足は歩くたびにひどく痛むようになるよ。
 それに、王子に愛されることができなければ、お前は泡になって消えてしまうのだよ」
人魚の娘はそれでもかまわないと言って、薬を買いました。

人魚の娘が薬を飲むと、ひどく苦しくなりました。
気が付くと娘は、海辺に倒れていました。人魚の足は人間の足になっていました。
そこに、以前溺れていた若い人間の男が現れて、娘を介抱してくれました。
娘はお礼が言いたかったのですが、声が出せません。
その様子を見て、声の出せない気の毒な娘なのだと思い、男は娘を連れ帰り召使にしました。
男はこの国の王子だったのです。
人魚の娘は歩くたびにガラスの破片を踏むように足が痛かったですし、好きだという気持ちを伝えることができずに苦しい思いをしていましたが、それでも幸せでした。

ある日、王子に結婚の話が持ち上がりました。相手は隣国の姫君です。
二人のために、大きな船でパーティーが開かれました。
出会ったとたん、ふたりは驚いて言い合いました。
「あなたはあの日、海岸に倒れていた私を連れ帰り助けて下さった方ではありませんか」
「あなたは、あのとき海岸に倒れていた方ですね。ご無事で良かったです」
なんと、隣国の姫はあの嵐の日に王子を連れ帰った人間のひとりだったのです。
王子は、連れていかれた先で介抱してくれた女性にどんなに感謝しているか、どれほど好きになってしまったか何度も人魚の娘に語っていました。人魚の娘は、どれほど「嵐の海からあなたを助け上げたのは私です」と言いたかったことでしょう。でも、声を失っているので王子にそれを伝えるすべはありませんでした。

王子と隣国の姫は、あっという間にお互いを好きになりました。
愛し合うふたりを召使として間近で見守ることは、人魚の娘にとってとてもつらいことでした。
人魚の娘は、船のへりに行って泣きました。
そこに、人魚の娘の姉たちがやってきました。
姉たちは、妹が海の底に戻りたくなった時のために、魔女から魔法の道具をもらっていたのです。
そのために、姉たちは美しい長い髪を切って魔女に渡していました。
「この魔法のナイフで、あの恩知らずの人間の心臓を刺しなさい。
 その血を浴びれば、あなたはもとの人魚に戻れます。
 泡になって消えることはなく、私たちとまたずっと楽しく暮らしましょう」
姉たちは、そう言って人魚の娘にナイフを渡しました。

人魚の娘は、ナイフを持って王子の枕元に立ちました。
王子はすやすやと眠っています。きっと、ナイフで心臓を一突きすることも簡単でしょう。
でも人魚の娘はそうしませんでした。
娘は、愛する人を傷つけることはできないと思い、泣きながら海に身を投げました。
娘は海に落ち、泡になりました。
そして気が付くと、空気の精となって、たくさんの仲間たちと一緒に海の上を渡っていました。

空気の精は、人々のために働いてくれるやさしい、徳の高い者たちです。
世界中の子供たちが良い子にしていれば、空気の精になった娘はいつかまた人魚に戻れるのです。


昔話の好きな子供でした。でも、あの頃読んだ昔話は今や記憶の中でうろ覚えのあやふやになり、混ざり合いごちゃごちゃになっています。
きちんとした話を目にしてしまう前に、うろ覚えの状態の自分の中の物語を書いておこうと思いました。
きちんとしたものを目にしてしまえば、うろ覚えの状態には戻れないのですから。

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