雑記「帰省」
兄弟がいないから早く結婚して欲しいと父親に言われて、無理をしないで良い人を探しなさいと母親に言われた。二人とも俺のことしか考えていなかった。愛に産まれていた。
親友と海に入った。海の中で全裸になった。有名な漁港で食べた海鮮丼が微妙だった。車に戻って「不味かったな」と言って悪い顔をして笑った。そいつは帰りにコンビニのサーモン丼を食べていた。車で有吉のサンドリを聴いて死ぬほど笑った。
地元の友達と電話をした。少し面倒くさそうにされて逆に嬉しかった。会いたいことを伝えられて良かった。気づけばみんな大人になっていた。男女とかどうでもよく、ただ好きな友達がこんなに生きていることが嬉しかった。
飲みながら帰省できなかった友達のことを話した。主に悪口だった。でも悪口を言う度、あいつはかわいいよな、いいやつだよな、としんみりした。ただ寂しかっただけだった。この時間を共有したかった。三人でいたいだけだった。
従姉妹が中学二年生になっていた。背はもう越されようとしていた。祖父母は見るたびに小さくなっていて、「東京で稼いでんの?」とけらけら笑っていた。川原で遊んで、虫取りをして、夜中にトイレについてきてもらったことを思い出した。もう俺の順番になっていた。
両親と映画を観た。小中の時に初デートをした場所だった。プリクラを撮ったゲームセンターが無くなっていた。父はキャラメルポップコーンを全然食べれなくなっていた。iQOSのイルマの一台を譲ってくれた。母はタバコを吸う僕らを見て「人体実験だよ」と冷やかした。
飼い猫は可愛いままだった。依然俺には懐いていなかった。昔使っていた部屋には、日に焼けたCDプレイヤーがあった。それでバンドやアイドルの歌を聴いていたことを思い出した。乃木坂の写真集や弾ききれなかったバンドスコアを見て、もう一度戻れたらと思った。過去に縋り付く悪い思考の癖だと思った。
祖父に大学の卒業証書を見せた。笑っていた。拳は力強かった。祖父母の話を父親に聞いた。大人になってから聞こうと決めていた。17.8で聞いていたらよく分からない話ばかりだった。漫画みたいな展開だった。親も過去を抱えて生きているのだと思った。
「お前はもう東京の人になるんだ」と父が言った。なりたくないなと思った。「ならないけどなるんだろうね」と返した。母は眠っていた。この人たちはもっと幸せにならなきゃいけないと思った。朝の新幹線に乗って、ふやけた心のままで東京に戻った。