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彼女の思う、かわいさの条件
初めての矯正歯科は診察台の足元がほとんど余ってしまうほど小さい5歳の時だった。診察台に寝かせられて、歯医者さんが自分の口元を覗き込んだ様子を今でも覚えている。
5歳で矯正歯科を訪れてから、16歳でワイヤー矯正が外れるまでほぼ月に1回、矯正歯科に通い続けた。定期的な通院のほか3回の日帰り手術も経験した。
長い時間をかけて成長と共に歯並びを直してもらった。
一つ一つは大変な思い出ばかりだし、歯が動く痛さは本当に辛かった。
それでも歯列矯正をして本当に良かったと思う。
費用や労力を費やしてくれた親には本当に感謝している。
***
大学時代、自分にやや攻撃的な子がいた。
彼女はじんわり私が傷つくことをチクチク言ってくる子だった。
あるときは友好的に接してくれると思ったら
「ゆかはさ〜、こういうところがあるよね」と少し悪意が滲むことを言ってくる。
共通の友人もいたので、ほどほどの距離で付き合おうと腹を括っていた。
ある日彼女が共通の友人と話しているのを聞いた。
「結局、歯並びが綺麗な人は、かわいく見えるよね。」
社会人になったら歯列矯正をしたいと言っていた彼女。
もちろん、私のことをかわいいと言いたかった訳ではないと思うが、
「そうか、ただ私のことが羨ましかったのかもしれない。」と思えた。
そこから、彼女の少し悪意が滲む発言もちょっとピリ辛のスパイスが効いた発言くらいに捉えられるようになった。友好的に接してくれると思ったら、やや攻撃的な態度をとってくる彼女との距離感もなんだか楽しめるようになった。
去年、久しぶりに友人の結婚式で彼女と再会した。
彼女は歯列矯正をしていた。
彼女が思う、かわいさの条件を満たそうと努力しているのだなと思った。
そこからしばらくして、彼女が入籍したと報告のLINEを受け取った。
あぁ、もっとかわいくなりたかった理由はこれだったのね、と彼女の気持ちがわかった気がした。