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『人質の朗読会』小川洋子


彼らの語りは私に小川のせせらぎを思い出させた。それは岩々の間をすり抜け、いくつもの障害物をやり過ごし、光のきらめきを受けながら、遠いどこかの一点に向かって辛抱強く流れてゆく。

『人質の朗読会』p.223


いわた書店さんの一万円選書のうちの一冊。

表紙の子羊の瞳に惹かれ、二番目に手に取った。

南米でテロに巻き込まれた8人が自らの人生の物語を順番に語っていく物語。それらはささいな物語だけれども、ささいだからこそ、その人の人柄や人生の重みを感じさせる。

人は、案外簡単にいなくなってしまうのだとおもう。

そして、一人という個はどこまでも「個」であるとともに、人間という「全」でもあるのだともおもう。

だから、一人が失われることはかけがえのないことであるのはもちろんだけども、人間という大きな営みのなかでみればささいなことなのだろう。

だからといって一人が軽んじられても良いという話ではない。みんな平等に人間で、一人として数えられるというはなし。

本書の人質たちが語るようなささいな日常こそを愛していかなければならない。

そして、ささいな日常こそが私たちが人間であり、一人として生きているということの存在証明なのだろう。


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