コスメカウンターで「ピンクの呪い」が解けた話

私はピンク色の物を持っていなかった。
服から小物、そしてコスメまで１つもピンク色の物を持っていない。
中学生から今まで、１つも。
なぜか。
「ピンクが似合うような顔でも、性格でもない。」と思いこんでいたからである。
とにかく、私にはピンクが似合わない。
鮮やかなマゼンダも、透明感あふれる青みピンクも、フレッシュなピーチピンクも、少しだけ大人の表情を魅せるピンクベージュも、温かみのあるオレンジが感じられるコーラルピンクも・・・全部全部しっくりこなかった。
淡い期待を抱いて買ったピンク色のリップを塗ると、ピンク色の唇だけが明らかに浮いていた。完全にピンク色の唇が悪目立ちしている顔を鏡で見て、「やっぱり全然似合わない。私に、ピンク色はダメなんだ。」と思った。
そのピンク色のリップは、すぐに捨ててしまった。
それをきっかけに私は本格的に「ピンクの呪い」にかかってしまった。
こういうわけで私はピンク色の物を１つも持っていなかった。

そんな私が先日、ファンデーションだけを買うつもりでシュウウエムラのカウンターを訪れた。
お目当てのファンデーションを見ていると、シュウウエムラの綺麗なお姉さんが声をかけてくれた。

「何か、お探しですか？」
「ファンデーションを・・・。
　実は、ちゃんとしたファンデーションを持っていなくて。
　それで今日は買いに来たんですけど、色とか何も分からなくて・・・。」
「そうなんですね！よろしければ、付けてみませんか？」

ドレッサーの前に座らせていただくと、お姉さんが普段のメイクについて色々と訊ねてきた。
そして私の肌の色と好みの仕上がりに合ったファンデーションを見繕ってくれた。
（ファンデーションの仕上がりはとても綺麗で、ちょっと感動してしまった。）
ファンデーションのタッチアップが終わると、お姉さんが「よかったら、リップとチークもつけてみませんか。」と言ってくれた。
続けて「普段は何色を付けますか」と訊いてくれるお姉さんに、私は思い切って言ってみた。

「実は、リップも探しているんです。出来れば春っぽい、女の子らしいリップを。」

こんな風に言えたのは、担当してくれたお姉さんが無知な私に対しても優しく、そしてとても丁寧だったからかもしれない。

私の要望を訊いたお姉さんは、限定色のリップを出してくれた。
そのリップはサクラ色をモチーフにした、可愛いコーラルピンクのリップだった。
私の希望の「春っぽい」も「女の子らしい」も揃っていた。
しかし正直に言えば、その色を見たとき「私の苦手な色だ。」と思ってしまった。

それでも、とりあえず唇にのせてみた。
貸していただいた手鏡を見ながらうつむき加減で塗り、塗り終わったあと顔をあげてドレッサーの大きな鏡に映る自分をみた。

自分でも驚いてしまう程、綺麗だった。
つやがあるコーラルピンクを唇にのせるだけで、顔色や肌の質感がパッと美しく見えた。
こんなに一瞬で顔の印象が変わることがあるんだ、と思った。
本当に感動してしまった。

そうしているとお姉さんは次にチークを勧めてきてくれた。
それも同じシリーズの限定色のチークらしい。
私はチークも苦手だった。
「どんな風に付けたらいいのか」「どのくらいの濃さでつけたらいいのか」などが分からなかったし、チークにはピンクのイメージがあって苦手だった。
だから一度もつけたことがなかった。
「大丈夫かな。変にならないかな。」と思いながら塗ってみると（ブラシの使い方やどこの位置に塗るのが私には合っているのかなどの塗り方も丁寧に教えてくれた）、また私は驚いてしまった。
先ほどよりも顔色が綺麗に見えるし、リップもさらに顔に馴染んでいるのだ。
お姉さんは「チークをすると、よりリップの色が顔に馴染みますね。」と教えてくれた。
私の長年の「ピンクの呪い」がとけた瞬間だった。
私は仕上がりに感動し、予定していたファンデーションだけでなくリップも買った。
（チークも欲しかったけれど、手持ちが少なかったので諦めた。でも本当にすごく綺麗だったからやっぱり欲しいなんて思っている。）

こうして「ピンクの呪い」が解けた私は、今とてもピンク色のコスメが気になっている。
こんなに素敵な色を今まで避けていたのだなんて。
似合うピンク色も似合わないピンク色もあるだろうけど、
とにかくシュウウエムラのあのピンク色は、絶対に私の運命のピンク色だった。