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ウクライナも宮城も埼玉も今日は快晴

宮城の震災孤児が「当たり前は当たり前じゃない」とテレビで言ってた

午前9時半、天気は快晴。僕はインコを肩に乗せ、夫を起こした。
連日、やりたいことをめいっぱい詰め込んだせいで疲れていたのだろう。思ったよりぐっすりと眠れてしまった。

台所のシンクには、僕がマヨネーズトーストを2枚食べた名残があって、さっき観た宮城の震災孤児のテレビを思い出す。
号泣こそしなかったものの、「当たり前」が壊された人たちのそれぞれを聞き、目が熱くなって霞んだ。
可哀想の気持ちよりはメンタルの強さへの驚嘆が感極まったのだと思う。到底耐えられない壮絶な経験を乗り越えざるを得なかった、そして実際乗り越えつつあることに憧憬と尊敬がやまない。

きっと、やれることをきちんとやってきたのだ。
何をやっても後悔はするけれど、何もしないで泣き叫んでいては事態は一向に良くならない。

震災から11年。報道される地域もされにくい地域でも、悲しい出来事はうんざりするほど起きている。
でも悲しい出来事だけじゃなかった、彼らにとっては。10年以上経っているのだからよく考えたら「当たり前」なのだけれど、それって結構すごいと僕は思う。

ウクライナの妊婦がストレッチャーで運ばれてった

会計エリアの隅で行われた入院手続きは、仰々しい書類がたんまりあるわりにずいぶんあっさりと終わった。
手続きしている間、僕の荷物(大きな袋が3つ!)の中で埋もれ、所在なげにしている夫。彼は時間が空くとすぐにゲームをしだすのだけれど、スマホを取り出しもせずじっと待っていたようだ。

ここ8年、2日以上離れたことのない僕らは内心恐れおののきながらも普通の顔をして、足早にナースステーションについた。
担当の看護師さんが現れたらあっという間に夫は帰らされてしまった。
コロナでなかったらきっと病室まで来れたのだろうけれど、無慈悲である。
もう少し一緒にいられると思った僕は慌てて、「じゃ、」と一言だけしぼりだして彼と別れた。まったく、実に、無慈悲である。

入院や手術自体初めての僕は、そのまま病棟の施設についてオリエンテーションを受け、採血し、ノンストレステストなるものをやった。

40分のモニターの間、実に暇だったのでYouTubeを開いて昼間のニュースを観た。
ストレッチャーで運ばれる妊婦が大事そうに腹をさすっている映像。彼女の額には汚れなのか傷なのか判然としない影があった。

ウクライナにある小児病院空爆のニュースはすでにネット上でものすごい勢いで拡散されており、それぞれがそれぞれの見方や知識量や思慮深さで意見を連ねている。
僕も、「この妊婦さんはどうして国外に避難しなかったんだろう」とか「停戦合意されてたんじゃなかったかな」とかいろんなことを考えたけれど、結局「この親子にとっての3月10日は当たり前じゃない日になっちゃったんだな」と、茫洋とした感想を持つにとどまった。

ドッドッドッと心拍が急激に早くなる。
このニュースに動揺したのもあるが、実は僕がモニターを受けている場所は分娩室のすぐ横であり、カーテン越しに僕の担当医師の叫びや、助産師さんたちの駆け足、陣痛を迎えた妊婦の息づかいが聞こえるせいもある。

僕のメンタルのゆらぎをすかさず感知したからか、腹の子は飛んだり跳ねたり、ずいぶんはしゃいでいる。
この様子だと明日、自分が生まれることなんて知る由もないのだろう。

おぎゃあ、という声が聞こえてすぐ、大人たちそれぞれがそれぞれの言い方で「おめでとうございます」を言う。
僕も思わず、「おお」と独りごちた。すると、腹の子は何かを察したのかぴたっと動きを止める。その様子がさっき荷物に埋もれた夫を思わせ、「顔は僕に似てると思ったけれどやっぱ親子だな」と思ってちょっと泣いた。

埼玉の妊婦が見上げる快晴の空

「弁護士に会いに行って高い焼肉食べてガチャ神引きした、予定帝王切開前々日の話」とタイトル入力したところで、やる気がなくなって少し眠った。

その後、入れ代わり立ち代わりでいろんな人が病室に入ってきて、麻酔やら薬やら今後の入院生活やらの話をしてきて多少混乱した。
僕も腹の子も元気だから一切問題ないが、切迫流産だのなんだのだったらめっちゃしんどくないか?

と思ってたら、時間が経ってから再度同じ説明をしてくれたり、必要な時にもう一度指示してくれたり、不明点の確認を逐一してくれた。
うーん、手厚い。もらえないかもと書類の盗み撮りをしたり、スマホのアラームを設定する必要はなかったかもしれない。
(それでもすぐ把握できた方が気楽だからやるけどね!)

病室には大きな窓がついていて、奥に森が見える。
この辺りは僕の家周辺も含めて、本当に植物が多い。眼下が鬱蒼としているから、空がずっとくっきり青い。

ふと、さっき観た人たちがいる場所の天気が気になって調べた。
うお、めっちゃ晴れてる。
僕がいる場所よりずっと寒いけれど、同じ、晴れた空だった。
だからどうしたって思うだろ?でも僕にとっては「うお」だったのだ。

宮城の人たちも、ウクライナの妊婦も、さっきおぎゃあと泣いた子にとっても、今日は全然「当たり前」じゃない。 
僕にとっても「当たり前」ではない。なんていったって自分の子を産む前日である。

ついに明日、特別な人に会うのである。




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僕はいつまでも飽き性ちゃん
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