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「選ばれること」は幸せか。(劇団四季「コーラスライン」鑑賞記録)

学級委員長、クラスのいきもの係、日直、入試、アルバイト、就職、好きな人の好きな人になれるかどうか。
これまでの人生で、何回選抜されることがあっただろうか。

選ばれればうれしかった。自分は特別な一人になれた気がした。


選ばれないときは悲しかった。「自分は特別な人じゃないんだ」「自分は求められていない人間なんだ」と思ってきた。

でも本当にそうなのだろうか。選ばれるのは常に特別な人なのだろうか。選ばれるのは幸せで喜ばしいことばかりなのだろうか。選ばれないことは悲しいことなのだろうか。

劇団四季「コーラスライン」を観て、「選ばれること」が「特別」と結びついていた自分に気が付いた。

コーラスラインはミュージカル出演者を決めるオーディションを描いたブロードウェイ・ミュージカルだ。


ブロードウェイの舞台に引かれた1本の白い「コーラスライン」。そこに立つのは17人の若者たち。彼らは新作ミュージカルのコーラスダンサーを選ぶオーディションの最終選考に挑む。


ダンスの審査を通り抜けた彼らに演出家ザック語りかける。

「履歴書に書いてないことを話してもらおう」

若者たちは戸惑いながらも、ダンスを始めた経緯、体の悩み、性の悩み、複雑な家庭の思い出、落ちこぼれから這い上がった経験といったそれぞれの人生を語った。一人ひとりの特別な思いを話し合ううちに、かれらは最終選考に残ったライバルから仲間となっていく。


そしてコーラスラインに並ぶメンバー、コーラスラインから去るメンバーが決まる。

ミュージカルを観ているはずなのに、ミュージカルのオーディションを観ている。ミュージカルで描かれている時代は1970年代だが、まるで「虹プロ」みたいだな、と思いながら観た。

特に印象に残った場面はザックと元恋人・キャシーが2人でやりとりする場面だ。


キャシーはかつてブロードウェイで2度主役を務め、喝采を浴びたスターだった。しかし映画出演を機に芝居が出来ないことに気が付き、仕事を求めダンサーに戻るためオーディションにやってきた。

かつての輝きを知るザックは彼女にこう呼びかける。
「君はコーラス・ガールにはなれない。君は特別なんだ」

キャシーは言い返す。

「ここにいる人達はみんな特別よ」

さらにザックが問う。
「金が欲しいのか」

キャシーは答える。
「お金は誰だってほしいわ。でも施しはいらない。私が欲しいのは仕事なの」

特別な存在だからその他大勢に選べないザックとその他大勢の一人ひとりが特別な存在だと言うキャシー。金のためかと問うザックと仕事が欲しいというキャシー。

この若者たちは特別なのか、特別じゃないのか。
このオーディションは特別を落とすのか、残すのか。

オーディションとはなにか、と考えているうちに、いよいよ合格者が発表となった。

コーラスラインに並んだ合格者8人をみてハッとした。

背格好がまるで同じなのだ。

このオーディションが選んだのは特別な8人ではない。
普通の8人なのだ。

それもそのはず。コーラスラインの役目は前に立つスターを引き立たせること。スターよりも目立たないことだ。

「コーラスラインに選ばれるのは皮肉なことだな」

観劇直後に私は思った。特別な存在ではく、目立たず、スターを引き立たせる凡な人と認定されているのだと思ったからだ。

でもそれは私が「選ばれる=特別な存在になる=幸せ」の価値観に縛られていたからだ。

彼・彼女らにとってコーラスラインに選ばれたことは、欲しい仕事が手に入り、人に必要とされたということだ。手を組み天を仰ぎ見るほどの喜びなのだ。

そしてコーラスラインを去ることとなった9人。彼らはコーラスダンサーには選ばれなかった。だがそれは、コーラスダンサーの器には収まらないスター性や個性があることの裏返しかもしれない。

選ばれるのはいつも特別な人で一番の人。
選ばれないのは凡人。


そう思って、私は選ばれない自分を憐れみ、選ばれた自分を誇ってきた。

もちろん選ばれた自分のことは誇っていきたい。でも選ばれない自分を憐れむことはやめよう。私がのびのびできる場所は他にあるということだ。

選ばれるのも必ずしも良いことではない。そこに選ばれたことで他のチャンスを逃すこともある。

大事にしたいのは、自分が選んだ道を歩いているかどうか。誰かが羨む会社、誰かが褒めてくれる仕事ではなく、私がしたい仕事、私が進みたい道を選んでいるかどうか。コーラスラインに選ばれた8人は自分が選んだ道を歩いていけることに喜んでいるはずだ。

私は、自分が選びたい道を選んでいるだろうか。
私は、私に選ばれる私を生きているだろうか。

自分が選んだ夢や目標に選ばれることほど幸せなことはない。他人に選ばれるかどうかでくよくよするのはやめよう。他人に選ばれることももちろんすごいけど、それに縛られていては自分を見失ってしまう。

自分で自分を選び続けたい。
私に選ばれる私でありたい。

自分で自分を選ぶ。

そんな生き方を心がけたいと思えたミュージカルだった。

劇団四季「コーラスライン」公式サイト
https://www.shiki.jp/applause/chorusline/

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