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同居しないという選択

第730条(親族間の互助義務)直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない。

民法

第64話。梅子が光三郎と共に婚家に連れ戻され、口うるさい姑に仕え、夫の介護をしながら、三人の子供たちの成長を見守ってきた(姑が子育てをしてきたと言っており、口出しは許されなかったろう)10年間。地獄の日々に、梅子が終止符を打った。

梅子「(天を仰いで笑い)……あぁ〜」
一同「!?」
徹次「母さん」
梅子「(笑い終えてから)もう駄目。降参。白旗を振るわ」
よね「……」
徹太「なにを訳のわからないことを」
梅子「だから負けを認めると言ってるの。私は全部失敗した。結婚も家族の作り方も、息子たちの育て方も、妻や嫁としての生き方も全部!」
(中略)
梅子「いいのよ、光三郎。あなたは自分が選んだ道を進めばいい。それをとやかく言うつもりはないわ」
梅子「……私は全てを放棄します。相続分の遺産も、大庭家の嫁も、あなたたちの母としての務めも、ぜ〜んぶ捨てて、私はここを出て行きます!」

『虎に翼』シナリオ第64話 吉田恵里香

この場面のために平岩紙さんを起用したのか、と、納得する高笑い。今までの人生における負けを認め、すべて失うことと引き換えに、自分を取り戻すことを決断した笑い。

梅子「お義母様のことは兄弟3人で話し合いなさい。育ててあげられなくてごめんね。でも、お互い誰かのせいにしないで、自分の人生を生きていきましょう。ごきげんよう!」

同上

姑の常も三人の息子たちも、スンッとしている梅子しか知らなかった。ちょっとおどけてて、世話好きで包容力があって、明るく前向きな、法学部の学生たちには(そして視聴者の私たちにも)よく知られた、素顔の、そして本来の、梅子さん。

梅子「私は腹が立った。扶け合うって言葉で、また全部私のような人間に面倒を押し付ける気だなって。だから息子たちに押し付け返してやったの。法律は本当に使い方次第だわね」

『虎に翼』シナリオ第65話 吉田恵理香

再会した竹もとで、寅子と花江に漏らした本音。亡き夫も、姑も、三人の息子たちも、梅子さんがこんなに賢い女だったとは知らなかったでしょう。

お帰り!私たちの梅子さん!

☆★☆★

『虎に翼』は自分の人生の中で似た経験とその時の感情を掘り出してくれる。

梅子さんの笑いと「ごきげんよう!」に思い出したのは、自分が25才の時に実家を出て一人暮らしを始めた時のことだ。父・母・弟と同居家族でいることを止めようと決断した。

理由は、主に父。今でこそパワハラ(パワーハラスメント)・モラハラ(モラルハラスメント)・フキハラ(不機嫌ハラスメント)という概念が広く知られるようになったが、当時はそういう言葉がなかった。物理的な暴力をふるったり、酒を呑んで暴れたり、ギャンブルや飲み屋通いに散財したりしなければ、家族の一員として批判するのは難しかった。だが、口を開けば自分以外の誰か(私以外の家族のこともあれば、会社の上司や同僚、さらにはテレビ画面に映る誰か、と対象は尽きない)の悪口というか罵詈雑言を言い続ける父に、私はもう我慢ができなくなった。

ある時、不動産屋で物件を決めた私は、まず母に言った。
「私、家を出てアパート借りて住む」
母は、都内で実家暮らしの娘がアパートを借りて別居するというのに理由は聞かなかった。。寂しげに「……そう」と頷くだけだった。

それ以降、諸事情から実家に戻って一緒に生活した2年ほどを除いて、私は「同居しない、生計を共にしない家族」という選択をしてきた。民法第730条の規定は『虎に翼』第13週を見るまで知らなかったが、同居しないことで「扶け合う義務」を免れてきたのだと気づいた。





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