同居しないという選択
第64話。梅子が光三郎と共に婚家に連れ戻され、口うるさい姑に仕え、夫の介護をしながら、三人の子供たちの成長を見守ってきた(姑が子育てをしてきたと言っており、口出しは許されなかったろう)10年間。地獄の日々に、梅子が終止符を打った。
この場面のために平岩紙さんを起用したのか、と、納得する高笑い。今までの人生における負けを認め、すべて失うことと引き換えに、自分を取り戻すことを決断した笑い。
姑の常も三人の息子たちも、スンッとしている梅子しか知らなかった。ちょっとおどけてて、世話好きで包容力があって、明るく前向きな、法学部の学生たちには(そして視聴者の私たちにも)よく知られた、素顔の、そして本来の、梅子さん。
再会した竹もとで、寅子と花江に漏らした本音。亡き夫も、姑も、三人の息子たちも、梅子さんがこんなに賢い女だったとは知らなかったでしょう。
お帰り!私たちの梅子さん!
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『虎に翼』は自分の人生の中で似た経験とその時の感情を掘り出してくれる。
梅子さんの笑いと「ごきげんよう!」に思い出したのは、自分が25才の時に実家を出て一人暮らしを始めた時のことだ。父・母・弟と同居家族でいることを止めようと決断した。
理由は、主に父。今でこそパワハラ(パワーハラスメント)・モラハラ(モラルハラスメント)・フキハラ(不機嫌ハラスメント)という概念が広く知られるようになったが、当時はそういう言葉がなかった。物理的な暴力をふるったり、酒を呑んで暴れたり、ギャンブルや飲み屋通いに散財したりしなければ、家族の一員として批判するのは難しかった。だが、口を開けば自分以外の誰か(私以外の家族のこともあれば、会社の上司や同僚、さらにはテレビ画面に映る誰か、と対象は尽きない)の悪口というか罵詈雑言を言い続ける父に、私はもう我慢ができなくなった。
ある時、不動産屋で物件を決めた私は、まず母に言った。
「私、家を出てアパート借りて住む」
母は、都内で実家暮らしの娘がアパートを借りて別居するというのに理由は聞かなかった。。寂しげに「……そう」と頷くだけだった。
それ以降、諸事情から実家に戻って一緒に生活した2年ほどを除いて、私は「同居しない、生計を共にしない家族」という選択をしてきた。民法第730条の規定は『虎に翼』第13週を見るまで知らなかったが、同居しないことで「扶け合う義務」を免れてきたのだと気づいた。
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