
JLPT配点の秘密:公表されない理由とその意図
日本語教育において、もっとも広く普及し、多くの受験者を抱える試験といえば、日本語能力試験(JLPT)です。最近では、スピーキング能力の測定や、CEFRに基づいたCan-do評価が注目されているため、この試験の重要性が以前ほど高くないと感じるかもしれません。しかし、それでもなお多くの学習者がJLPTを受験しており、その需要の高さから教育機関や学校では試験対策が必須となっています。
模擬試験を作成して対策を行う学校も多いでしょう。その際、教師たちがよく直面する疑問があります。
「問題ごとの配点がわからない…」
「公式ページにも配点が公表されていない…」
こうした疑問に対し、理由や配点の仕組みを詳しく知っている人は少ないかもしれません。私自身も、大学院で試験理論を学ぶまで理解できませんでした。そこで今回は、JLPTの配点の仕組みについて簡単に解説します。
JLPTと項目応答理論(IRT)
JLPTは、**項目応答理論(IRT: Item Response Theory)**と呼ばれる試験理論に基づいて設計されています。IRTとは、試験問題の「難易度」や「識別力」、そして受験者の「能力」を統計的に測る方法です。この理論では、各問題が持つ特性(簡単か難しいか、優れた問題かどうか)が非常に重要であり、それに基づいてスコアが計算されます。
ただ、こう聞いても分かりづらいですよね。具体例を挙げてみましょう。
配点の仕組みの例
たとえば、ある試験で全体の問題数が100問だったとします。その中に、過去に実施したことがある問題を10問混ぜておくとします。(JLPTが過去問を公表しない理由もここに関係しています。)この10問については、すでに受験者の解答データがあり、「難易度」や「識別力」が把握されています。そのため、この10問の正答率を基に、受験者が過去の合格者や不合格者と同程度の能力を持っているかどうかを推測できるのです。
次に、新規で作成した90問について評価を行います。これらの問題には過去データがないため、「難易度」や「識別力」が分かりません。しかし、最初の10問のデータを基に受験者の能力が推定できるため、その能力に応じた解答傾向を分析します。たとえば、
高い能力の受験者でも間違える問題 → 難易度が高い
低い能力の受験者が正解し、高い能力の受験者が間違える問題 → 識別力が低い(=悪問の可能性が高い)
このようにして問題の評価を行い、その結果に応じて配点が決められます。つまり、JLPTでは事前に「簡単な問題は2点、難しい問題は5点」といった配点を設定するのではなく、試験データを分析した後に配点を決定するのです。この方法は膨大な受験者データが必要であり、大規模な試験でなければ実現できません。
詳しい説明はJLPTの公式サイトでも確認できます。
模擬試験、どうやって配点を決めたらいい?
JLPTが配点を公表しない理由とその仕組みが理解できたところで、学校単位で模擬試験を作成する際、どのように配点を決めれば良いでしょうか。
まず、各出版社が発行している模擬試験の参考書に付属の採点表を参考にするのも良い方法です。ただし、その配点を学習者に伝えると誤解を招く可能性があるため、内部用として利用するのが良いでしょう。
また、私の提案としては、細かい配点を決めずに、すべて「正答率(%)」で評価するのも一つの方法です。模擬試験の目的は、本番前に自分の実力を把握することにあります。したがって、細かい点数よりも「正答率」という大まかな目安で十分役割を果たせますし、採点作業も簡単です。
ただし、JLPT形式に倣い、分野ごとの正答率を算出することが重要です。たとえば、以下のように分けます。
言語知識(文字・語彙・文法):50問中30問正解 → 60%
読解:10問中5問正解 → 50%
聴解:30問中22問正解 → 73%
これらをもとに評価を行い、必要なら「%」を「スコア表記(60点満点中〇点)」に変換することも可能です。これで本番形式に近づけつつ、誤解を防ぐことができます。
まとめ
JLPTの配点が公開されていない理由は、試験の質を保ち、受験者の能力を正確に測るためです。また、過去問が非公開であることも同様に試験の信頼性を維持するための措置です。
日本の他の試験文化とは異なるため、誤解や批判があるかもしれません。しかし、教育者としてこの仕組みを理解し、その背景にある意図を尊重することが大切だと考えています。