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教師のみなさん、この読解問題で"読解力"、測れていますか?

今まで私達は主に国語、また英語などで読解力を測るテストを受けてきました。そして私も教師という立場で読解のテスト問題を作ってきました。その経験から、多くの方が誤解していると思われる”読解力"と"知識力"の違いについて述べようと思います。


読解力と知識力の混同

中間テストや期末テストなどのいわゆる到達度テストでは、授業で扱った教科書や補助教材から直接問題を作ることが一般的です。例えば、教科書に載っている物語や説明文をそのまま使い、そこから問いを作ることが多いでしょう。私自身が学生だった頃も、ほとんどの国語や英語のテストがこの形式でした。
一見すると、この形式は合理的に思えます。授業で学んだ内容を問うことで、学習内容の理解度を確認できるからです。しかし、ここに大きな落とし穴があります。この方法では、読解力そのものではなく、過去に学習した内容をどれだけ記憶しているか、つまり"知識力"を測る問題になってしまうのです。

知識力テストの問題点

知識を確認すること自体が悪いわけではありません。授業内容の定着を図るには必要なプロセスです。ただし、読解力を測ることを目的としたテストで知識力を測ってしまうと、本来の目的を見失います。
読解力とは、新しい情報を理解し、それを自分の中で整理・解釈する能力です。そのため、既知の文章を使った問題では、本質的な読解力を評価することは難しくなります。
さらに、この形式に慣れていると、高校や大学受験の統一模試、また語学試験であるTOEICや英検、JLPTなど、範囲の指定がされていない熟達度テストの場合に、一気に読解の点数が取れなくなるという問題があります。私自身も中高の時、先生が作る国語の中間テストなどは学校で習ったことを覚えていればできるので、ある程度点数が取れたのですが、模擬試験など、読んだこともない素材を扱った読解問題だと急に点数が取れなくなり、「初めて見る文章読解の解き方の練習・勉強は別物だ」と気付かされた経験があります。

テストを間違えると学習者も勉強方法を間違える

知識問題で解けるテストを作ってしまった場合、学習者は点数を取るために教科書の読解素材を丸暗記してしまうことがあります。実際、私自身も英語のテストで点を取りたかったので、この方法に頼った経験があります。
もちろん、暗記すること自体は全く無意味ではありません。しかし、それは読み取る力を伸ばすことには繋がりません。例えば、英語の読解素材を丸暗記する場合、”メアリーさんが休日に何をした”とか、”ケンが彼女にふられた”といったストーリー、会話のスクリプトを覚えても、英語力という観点では全く役には立ちませんよね。
一部例外として、古典など、その文章自体に価値があって丸暗記させるという意図があるものもあります。「枕草子」の序文とか暗記しましたよね。それは一般教養の知識として、または日本語のきれいな音として記憶にとどめておく、などという別の目的がありますので、これはこれで問題ないかと私は思います。
話を戻しますと、言いたかったのはテストによって学習者の勉強法も必ず影響します。本当に学習者の読解力を伸ばしたかったら、読解力を試すテストを作るしかないと私は思います。

読解力を測るテストを作るには

では読解力を正確に測る問題を作るにはどうしたらいいでしょうか。まずは以下の2つのポイントを意識してみましょう。

①新しい文章を使用する

授業で使用していない、初めて見る文章を素材に選びましょう。これにより、学生が文章をどのように読み解くかを直接評価できます。素材は授業で扱ったテーマにできるだけ近いもの(これが難しいですが)を選びます。例えば、意見文、日記、手紙文、など構成などある程度似ていて、内容だけ異なるというものだと、授業で扱った読み方などが活かされている、いい問題になります。

②背景知識に依存しない設問を作る

学生の背景知識によらず、文章そのものを読む力を問う設問を心がけます。特に英語や日本語など外国語のテストでは、ある程度上級レベルになってくると、なるべくリアルな(真正性の高い)素材を使いたくなります。これ自体はいいのですが、例えば実際のネットにある記事などをそのまま使うと、その記事を読んだことがあったり、ニュース自体を既に知っている人が中にはいます。その不公平をなくすため、学習者全員が背景知識を持たないような内容にしなければなりません。

読解力を測る問題かどうかをチェックする方法

読解問題が本当に読解力を測れているかどうかを確認するには、とても簡単なやり方があります。それは文章部分を隠して解いてみるという方法です。
できれば自分以外の誰かに試してもらうのがいいですが、まず読解の本文を隠します。残った質問の文章や選択肢だけを見て、答えが導き出せないかを確認します。もし、文章を読まずとも答えがわかる場合、その問題は知識や経験だけで解けてしまい、読解力を測れていないということになります。
例えば、「渋沢栄一は何をした人物ですか」という問いは、歴史や金融などについてよく知っている人は読まずとも自分の知識で答えが書けてしまいます。一方、「筆者はどうして渋沢栄一が偉大だと言っていますか」という問いは、どうやっても本文を読まないと答えられませんよね。とても簡単にチェックできるので、一度作ったらチェックでやってみることをおすすめします。

まとめ

読解問題を作る際には、当たり前ですが「読解力を測る」ことを明確な目的として意識することが重要です。”読解力”と”知識力”の違いを理解し、テストの目的に合った問題を作ることで、学生の本当の力を評価できるようになります。よく教師の嘆きとして、「学習者の読解力が不足している」とか、「本をたくさん読めと言っているが、効果的な読解力の伸ばし方が分からない」という声を聞きます。その前にまずは教師としてぜひ一度、自分の作る読解問題を見直してみてください。それが、学生の学びをさらに豊かにする第一歩です。


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