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灰皿

有刺鉄線の張り巡らされたフェンスの向こう、草ばかりの道端には古い潰れた空き缶が転がっていて、フェンスのこちら側には潰れた煙草の吸殻が落ちていて、それが歩けど歩けど続いていて、夏にはパピコの片割れが中身を少し残して死んでいて、そうやって季節が死んでいく。茹だるような熱気と共にあの夏を傷ごと焼き殺してくれるから煙草は好きです。沢山の灰をゆっくり時間をかけて自分にも馴染ませて、傍から見たらただのゴミみたいな季節のひとかけらをだいじにだいじに 或いは諦めたように胸に置き、今日もただ日を浴びて月明かりを探す叢の隣を歩いていると、まもっていたものはちっぽけだったなって憶うのだ。ルールやマナーを守ることの大切さを説いたあの人はきっと私がこんな惨めな大人になってしまうことを知っていて、惨めになった私を無様だと笑うのではなく、一緒になれたねって愛したかったのかも知れない。煙を吐く事は一日の中のただの作業で、いつか私があなたに毒を吐く時に、あなたはきっと目を細ませて微笑んだことだろう。吐いて、捨てるほどに代わりが居るので、その私が私ではない事さえあなたは気づかない。服、一つ、変えるだけで目が合うことさえ無い。唯一で、絶対に、なれなかったのならルールもマナーもこころもまもることに意味を為さない。あなたの為だから私は吐いた。私の為だからあなたは説いた。共感は毒である。何も無かったけどただ産まれてしまった芽に共感の煙を浴びせれば、それはそれはもう大層立派に図太い花が誇らしげに咲いてしまう。私はそんな花にもなれなくて、ただ枯れる一途を辿る中で、今日も共感の煙を自ら浴びることさえできず、この叢に吸殻と寝そべって植え替えの手を待っている。いたずらに空があおいのを仰いで自分の業の深さを許してくれないかと祈っている。そんな花を避けるように、横の吸殻くんに追加された吸殻さんを捨てた手は、あなただったのね。さようなら。




【<br >】――――灰皿

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