今世
最近聴き始めた音楽を鼓膜で震わせている
踏んだことの無い土地の地面を静かに蹴っている
風が吹いたらあれしようとか考えてた事も吹っ飛んできっとこの何時間かが何でもないまま横を通り過ぎると思うから
のぼりが揺れる程度のそよ風なんかよりもっともっともっと自転車が倒れるくらいの強い風をじっと待っていた
臆病でこそこそしてた筈の雲もやがて太陽と手を繋いで歩き始める
発車ベルの1分前迄車両沿いにホームの黄色い線をひたすら歩いて行くか留まるかを繰り返し
ベルが鳴ると同時に風が吹き抜けて僕の背中を押すから 踏み込んでしまった
成り行きで路線を検索して成り行きで目的地を作って成り行きで目的地迄歩いてこの身体を浮かす大風か吹けば、ほら
全部捨てられていけるような置いていけるようなそんな気分にさえなって、
勢いだけで身体も鞄も自転車も樹もこころも吹っ飛んで、
ああ。なんて溜息をつく間もないまま風に包まれて時間が過ぎていくのを目で追いかけている
自分が思っているよりずっと世界の全部は僕の事なんてどうでもよくて
僕は思っていたより僕の世界を誇大的に見ていたらしくてさ
じゃあ僕もこんな世界の全部、どうだっていいよ 刃渡り20センチの包丁を持ったままずっと歩いていくよいつか救いの来世が来るまで
置き場もない情動も思い出も本当は置き場を持つ必要なんてなかったこと、
僕が吐く想いも書く言葉も全部僕のものでそれは本当はあの日の僕のものだったこと、
忘れることも思い出すことも苦しくても忘れないで居ることが罪にはならずいつか救いになること、
別に綺麗な言葉に昇華したいわけではないけど、そういうのを知れたことが少し嬉しいとも思う
孤独なんだと分かったから風に吹かれたら気持ちが良くて、別に自分を厭いたいわけではないけど、
またいつか軸が隣り合う日があったなら、僕はきっと大風に吹かれながら馬鹿みたいに貴方の美しさを語るだろう。
【<br >】――――今世