MINOLTA AF MACRO 50mm F2.8 (D)
既に終わったマウントであるAマウントは、終わったが為に価格の割に性能が良いスーパーレンズの宝庫で、同じレンズでもバリエーションが多数あり最初期(1985年)まで遡ると高性能なレンズが安価に出回っています。
今回はその中からMINOLTA AF MACRO 50mm F2.8 (D)を。
1985年のαシステム登場時から存在する古参/老兵レンズで、その基本光学設計のままSONYに受け継がれた長寿レンズですが、操作性などのアップデートが重ねられた為にリリース後放置されたようなシーラカンス的存在ではありません。
MINOLTA (KONICA MINOLTA)時代、一般的な評価はAF MACRO 100mm F2.8の方が高く、50mm マクロは50mm F1.4より少々高額であった為か人気も無かったという日陰者の老兵ですが、その実力は〝スーパーレンズ〟の呼称に相応しい驚くべきものです。
50mmクラスのマクロ(マイクロ)レンズが不人気なのはMINOLTA存在時代に限らず、2022年4月現在もカメラメーカー各社で用意しているのはSONYとNikonを除くと皆無であり、実質本位なCanonはEFマウント時代にリリースしたものの20年近く刷新せず廃盤、後継レンズもリリースしておらず、PENTAXも似たような状況で、m 4/3や富士フイルムはリリースさえしておりません。
今となっては〝マクロに本気〟なメーカー以外はリリースしないのが50mmのマクロ(マイクロ)レンズかも知れませんね。
SONY版の50mm F2.8 Macroは2022年現在でも新品で購入可能な場合もありますが、MINOLTA時代は3バリエーション、SONYは1バリエーションと4種存在し、現役当時と同じく人気がない様子でF1.4クラスに比べ中古価格はかなりお手頃です。
手持ちは(D)タイプのMINOLTA最終形態で新品30Kくらいだった記憶がありますが、現在中古品は概ね数千円、SONY版でも15K程度で中古入手可能で、お手頃価格でありながら等倍撮影可能な本格派であり、その作りにも手抜かりはありません。
MINOLTA AF MACRO 50mm F2.8、フィルター径55mmと決して大きなレンズではありませんが、小さすぎる事もなく〝程良い大きさと重さ〟に感じるレンズで、SONYレンズの今に連なるFHB(フォーカスホールドボタン)と、FRL(フォーカスレンジリミッター)を装備しています。
FRLは鏡胴が伸びていない無限遠の際にLIMITにすると近接は0.25倍までに制限され、0.25倍以上でLIMITにすると0.25-等倍に制限されます。 測距制限して大ボケを抑止するだけなので、システム的に速くなる訳ではありません。
更にレンズ後部(マウント部)を見ると内部には植毛処理が施され、安価で有りながら高級レンズ並みの待遇です。
この辺りの生真面目さ、MINOLTAというメーカーが如何に良心的だったのかが判りますね。
兄貴分の100mmは最大倍率で前玉が最前まで出てくるのでフードが必要でしたが、50mmのレンズ前玉はずっと奥に引っ込んでいるので保護フィルターやフードを必要とせず非回転なので使い勝手は良い反面、フィルターを使う場合は遮光出来ないので工夫が必要。
倍率を上げる(被写体に接近する)とレンズ鏡胴はにょきにょきと5cmほど伸びて全長は倍くらいに巨大化しますw
インターナルフォーカシング(インナーフォーカス)方式というタイプではないので発生する現象ですが、インターナルフォーカシング方式だと未使用時にも伸びた分がレンズ全長に反映されるので可搬性が悪くなる反面、AFは高速になるようです。
(D)の場合、伸びた鏡胴には倍率目盛りがあり、初期型やNewは鏡胴にでは無くフォーカスリングに記載されています。
マクロレンズでは常識と言える〝ダブルフォーカジング方式〟を採用していて、ニョキニョキと伸びる鏡胴内に更に筒があってその中にレンズが収まっており、倍率によって不規則な動きをします。
決して大口径とは言えないにも関わらずマクロレンズが案外高額でAFが遅いのは、画質を重視した複雑な構造にあるんじゃ無いかなぁ…詳しい人、おしえて。
ガチなマクロ撮影では100mmの方が使い易く豊富なボケ量と相まって「ピント面はシャープでありながらボケは柔らかい」を判りやすく体現しているのですが、50mmマクロは付けっぱなしで使える身軽さが武器であり、通常は単なる50mmレンズとして使いながら気になるものがあれば過剰接近、な使い方が出来るレンズです。
一般的な50mmクラスの F1.4やF1.8では最短でも40~50cmほどしか被写体に接近出来ませんが、マクロなら被写体まで20cm、レンズ先端まで数cm、通常では目に見えないような現象まで撮影する事が出来ます。
メーカーはズームレンズの次に明るい50mm F1.8のレンズを訴求する事が多いのですが、それ、あんまり良くないと思いますよ。
明るいレンズは確かにエライと思いますが、寄れないレンズは使い勝手が悪く不便な存在で、F値によるボケ量の見苦しい増加よりも撮影距離による変化の方が撮影バリエーションは絶対に増えます。 更に、マクロ的な視点は普通に生活していると目に入らない(気にしない)モノやコトに着目する機会となり、被写体走査能力が上がります。
ついでに、F値の明るいレンズで「ピントが薄い~(喜)」とか、マクロ域のピントの薄さに比べたらたいしたことないし、露出倍数の影響で光量不足になり、更には微細なブレによるピント精度の難しさに比べたら、50mm F1.4や85mm F1.4の開放で人物を撮る方が、AFが使えて今なら瞳認識もあるので遙かに簡単なんですけど、写真歴の長い人でも開放F値に起因する被写界深度の薄さを嬉々としてコメントするのをみると、なんだかなぁ…と。
マクロ域ではフォーカスリングではなく身体の動き(揺れ)でピントを合わせますからね…薄さのレベルが違うし、通常領域の撮影とは異なる技倆も必要になります。
〝これを買えば撮れるようになる〟と宣伝するのが消費社会ですけど、ンなもん撮るヤツ(自分)が変わらなきゃ無理ですよ、実際。
釈迦に説法なんですけれども、露出倍数、倍率が上がると実効F値が低下する現象で、概ね等倍で2段、0.5倍で1段実効F値が低下します。
仮に通常距離F2.8で1/1000で適正露出だったとして、等倍にすると実効F値はF5.6に低下するので適正露出は1/250になります。
その上で、コピー用紙程度の被写界深度をダンボールくらいにしようと絞り込むと更にシャッタースピードは稼げず絞った分光量は低下してゆく…
被写界深度を得るには絞るより離れた方が効果的である事を身をもって知る事になるのですが、構図やら何やらでそうもいかず、、、
マクロの世界は本当に繊細で難しいです。
標準ズームの次はマクロ、これがお勧めですね、絶対に。
撮影(カメラ?レンズ?)に凝ると明るいレンズが欲しくなって絶対に買う事になり、標準ズームの次に中途半端なF1.8を最初に買っても後からF1.4とかF1.2が欲しくなって買い足す事は自明の理。 そうなるとF1.8は使わなくなるor使用頻度がぐっと落ちる事も明々白々。 その上、F1.8からF1.4やF1.2に道具が変わってもボケ量が増えただけで撮る写真は変わらない。
その点、マクロレンズは撮影者自身が変わる(上達するといっても良い)事によって写真を変えるパターンなのでそういった事態は起きず、結果としてレンズを長く使う事が出来ます。
最初にマクロを買っても結局F1.4とか欲しくなるんですけど、用途が違うので無駄な買い物にはなりません。
ただ、街中スナップや近接では使い易い50mmも、食事の際ついでに撮るような気楽なテーブルフォトや旅行先での景観/客室とか、イマドキなら自撮りとかは50mmという焦点距離自体が使いづらいので、そこは留意しておく必要があります。
近接に強くなるだけで、50mm = 万能、ではありません。
脱線しましたが、スーパーレンズ、MINOLTA AF MACRO 50mm F2.8驚愕の高性能ぶりをみてみましょう。
絞り解放時、周辺減光が強めですが、中心部の解像力は現在のレンズに大きく見劣りせず現役と言えます。
中央のシャープな描写は2010年代後半FEマウントのトップエンド、Planar T* FE 50mm F1.4 Z (SEL50F14Z)の1段絞りといい勝負をします。
AF黎明期、基本設計30年以上前の老兵廉価レンズの開放描写がミラーレス時代の高級高額高性能レンズと良い勝負…
Planar T* FE 50mm F1.4 ZAは1段のアドバンテージがあるので確実に1段優れていると言えるのですが、相手は30年以上前の普及価格帯レンズですから、、、
Planar T* FE 50mm F1.4 ZAの個体差か、デカくて重くて高額な割にたいしたことないのか、MINOLTA AF MACRO 50mm F2.8が凄いのか…
いずれにせよ、これがSonnar T* FE 55mm F1.8 ZAとかFE 50mm F1.8やPlanar T* 50mm F1.4 ZA SSMとの比較だったらヤバかったんじゃないかなぁ…
開放から1段絞りF4にすると描写性能は向上しますが、それ以上絞っても中央部の向上はごく僅か。 F11くらいになると少々緩くなってきますが実用範囲。 F16になると全体的に明らかに緩くなります。
もっと細かい被写体だと解像描写に違いが出るかも知れませんが、今回の場合だとPlanar T* FE 50mm F1.4 ZのMAX性能絞りF2.8-F5.6辺りと比較しても解像力不足を感じません。 バケモノじみた解像力を発揮する老兵…
高性能なのは判っていましたが、まさかこれほどまでに高性能とは思わなかった。
実のところ古典的な50mm F1.4やF1.8クラスでもF4~F5.6くらいに絞れば最新レンズと遜色ない高い性能を発揮するので、この例の場合は〝開放描写〟というのがポイントです。
但し、周辺は弱く、2段以上絞らないとクッキリシャッキリとは写ってくれません。
複写を得意とするはずのマクロレンズで周辺域が弱いのは大きな弱点で、兄貴分のAF MACRO 100mm F2.8では開放から周辺まで案外鮮明である事も考えると真ん中番長の描写傾向は尚更残念なところ。
F5.6~F8まで絞り込まないと周辺が弱いのは環境光下ではだいぶ痛いですが、その周辺の緩さは近接だと柔らかさにも繋がるし、四隅を問題としない人物撮影の実使用では大きな問題にはならないですが、弱い事にに変わりはない。
フィルム時代、周辺はトリミングしてプリントされてたし、ポジをルーペで観るような鑑賞手段でもない限り現在程周辺は重要じゃなかったんじゃないかな。
だいたいF4にしておけばどんな状況も無難にこなすので、四隅までキッチリ撮りたい時にはF5.6~F8以上に、それ以外はF4~F4.5で撮れば描写に不満が出る事は無いでしょう。
或いはAPS-Cモードにすれば周辺の弱さは完全に無視出来ます。
開放からシャープなMINOLTA AF MACRO 50mm F2.8ですが、ボケ描写に影響する羽根形状と口径食はどうでしょうか。 点光源描写をイルミネーションで確認してみます。
開放では口径食が気になりますが、F1.4クラスに比べれば影響は大きくありません。 1段絞れば大きく気にならず、2段絞れば解消します。
絞り羽根が円形を維持出来るのはF4で、F4.5になるとギリ円形と言ったところ、F5になると明確に羽根形状が露呈しカクカクが見えてきます。
9枚羽根に比べ7枚羽根は絞り耐性が若干低く、更には絞り込んでいった時の羽根形状が判りやすいです。
点光源周囲の縁取りは強くなく内部に年輪状の渦巻きもなくクリア。
馴染むような振る舞いは弱めですが偽色がなくスッキリした点光源描写で老兵且つ廉価なレンズながら現代のレンズと互角以上に張り合える上質な点光源描写です。
点光源内部に見えるポツポツは、たぶん、カビ。
使い込んだ旧いレンズなのでカビとかゴミとか結構侵入してるんですよ…
参考までにPlanar T* FE 50mm F1.4 ZA(SEL50F14Z)の点光源(開放)
50mmも100mm MACROのように9枚にして欲しかったところですが、50mmクラスのレンズで円形絞りを搭載したレンズは1993年のAF MACRO 50mm F2.8 new発売後、十数年間他カメラメーカーからは発売されず、2000年前後、AF 50mm F1.4 newと共に点光源描写の美しさはMINOLTA (KONICA MINOLTA)の独壇場だったと言えるでしょう。
まさに孤高の存在。
うろ覚えですが、円形絞りを採用したのは50mm F1.4より50mm MACROの方が数年早く、MINOLTAにとってマクロレンズの存在は特に重要だった事がうかがえますね。
MINOLTAのウリであるボケ質は、高い解像力の割に二線ボケは少ないと感じますが、全体的な溶け方はズームレンズに比べれば安定しているものの、少々固めに感じます。 マクロ域のボケ描写は溶けてしまう事が多いので〝このレンズならでは〟というような事もないと思いますしね。
タイプとしては解像力との対比でボケを綺麗に見せるタイプでボケ質自体は特筆すべき点はなく普通に感じます。
四隅の柔らかさを生かすと良いかもしんない…
人物撮影ではこんな感じ。
偽色の発生しやすい金属の反射でも点光源周囲に色づきはなくクリア。
描写の安定性を考えるとF4~F4.5で撮影しておけば破綻する事は滅多にないのですが、逆にそれ以外の絞りは状況に左右され使いづらいので作画自由度は高いとは言えないのが欠点でしょうか。
点光源形状を気にすればの話で気にならないのであれば二段以上絞っても問題ありませんが、個人的には気にするので、ポートレートではボケ質が気になる屋外より室内で使う事の方が多い。
EDレンズとかAPOレンズとかを使用していない為、絞り開放近辺ではピント前後に現れる色づき、軸状色収差が発生します。
複写用マクロレンズとしては少々物足りないかも知れませんが、過剰に目立つ程では無いし気になるなら1.5~2段絞れば良いだけなので、余り問題にする必要はないでしょう。
MINOLTA A(α)マウントの50mmと100mmのマクロレンズは共に昭和の生まれで〝オールドレンズ〟と呼称されても良い時代のレンズですが、様々な収差が〝味〟となって個性を振りまくタイプではなく、現在のレンズと遜色ない描写で良くも悪くも古臭さは感じません。
他社製AFマクロレンズはMINOLTAより後にリリースされたにも関わらず、早々に刷新/廃盤を繰り返していた事実を鑑みても、MINOLTAの二本のマクロレンズは特異であります。
まぁ、新規開発する資金が無かっただけかも知れませんけどねwww
今時のカタログ的に見栄えのするスペックは持っていませんが、研ぎ澄まされた解像力と質の高い点光源描写はMINOLTA AF MACRO 50mm F2.8 (D)ならではの高品質なもの。
MINOLTAの凄さは高級高額高性能レンズのみならず、廉価普及価格帯のレンズでも手抜きをせず上質な描写を提供していたところにもありますね。
レンズが〝神〟なのではなく〝MINOLTAが神〟なんじゃねーかと…
AF速度はニョキニョキ鏡胴が伸びる系のマクロレンズらしく速くありません。 遅いです。 とても遅いです。
少しでも快適に使用する為にFRLによる測距制限は必須ですが、先述したような〝普通に使いながら気になったら接近〟という撮影スタイルを行う際に測距制限すると「うっ寄れねぇ…」と苛つく事になり、いちいち設定を変更するのは直感的ではなく面倒くさいし忘れるしで、0.25倍しか接近出来なくても殆どの50mmより寄れるとはいえ、なかなか難しい…
人物撮影の場合は0.25倍まで寄る事は多くないので制限した方が良いです。
そうすると普通に使えますね。
今時はE(FE)マウントでしょうから、そうなるとマウントアダプターの介在で大型とまでは言えませんが全長が伸び、撮影時には保持し易くなるものの、可搬性は落ちます。 とはいえ、マウントアダプターを利用する限りは当たり前なのでここは諦めて頂くより他ありません。
他にもAF使用での機種制限や精度の問題などなどネイティブE(FE)マウントのレンズに比べて問題はありますが、数千円から購入可能な価格という重要な要素を踏まえると問題点など極々小さな事です。
世の中には〝高額だから価値がある〟という価値観もありますが、その価値基準はスーパーレンズの範疇には無い。
昭和/平成/令和と三つの年号に渡り、その間にはMINOLTA / KONICA MINOLTA / SONYと三社で継続的に販売されたαシステムの隠れたスーパーレンズ、MINOLTA AF MACRO 50mm F2.8の良さがこの程度で伝わったとは思えませんが、お手頃価格で手を出しやすいし、騙されたと思って使ってみて欲しいですね。