『ソラニン』
1本目はぽにょさん(@tfs610)のそらにんさん(@solanindayo)への愛溢れるオススメをいただいたので、2010年公開の『ソラニン』の感想を書きます。
あらすじ
音楽で成功する夢を諦めきれずにフリーター生活を送る彼氏・種田と暮らす芽衣子は、OL2年目で突然会社を辞めてしまう。不安定な生活を2人で支え合いながら、種田は「ソラニン」という曲を書き上げ、レコード会社に持ち込むが……。
雑記
監督の三木孝浩は少女漫画原作とか恋愛系の監督を多くやってるイメージ。
そして原作は男子たちの青春に大きな影響を与えてきた、浅野いにお。
僕も高校生の時、友達に『おやすみプンプン』と『虹ヶ原ホログラフ』を借りて読んだときに、自分のなかに漠然とあった「漫画像」みたいなものが崩れていく衝撃を味わったのを覚えてます。
公開当時から話題になっていた今作、ですが当時からひねくれてた僕は話題になればなるほど観る機会を逃し、本格的に映画を好きなってからはさらに拗らせて、現在に至りました。
20代でこの作品を観ていない最後の日本人という自覚を持って観ました。
感想
冒頭、就職をし漠然とした不安と不満を持ちながらも
「まぁいいや、そう自分に言い聞かせて私は毎日をやり過ごしている」
と社会の大きな流れに身を置く芽衣子とバンドを続けながらフリーターをする種田。
もうこの時点で胸にくるものがありましたが…
2人が営むワンルームのなかでの生活は、時限的な幸せとその先にある不安定さを写していて美しかったし、とても等身大でリアルだなと感じました。
ーー
そんな社会の流れに上手に乗れない2人は
芽衣子は種田の言葉で、種田は芽衣子の言葉でその社会の流れから外れます。
彼らはそれで享受する幸福が現実逃避の末のモラトリアムであると自覚しながら。
その後、表題曲であるソラニンが流れる場面があるのですが、
レコーディングブースから漏れ流れる曲、汗だくでレコーディングをする種田、ガラスに反射する芽衣子の表情。
これらを写すこのシーンは、曲への期待感とキャラクターの魅力を一気にみせるとてもいいシーンで感動しました。
また、祭りの日にみんなで花火をするシーン。
これは現在の幸せをありありと見せ尚且つ、この先の不安を想像させられるようなシーンだったので、
先を観たいけど観たくないと思わせるような仕掛けにまんまとハマりました。
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そして劇中で1番心を打たれたのはやはり種田がバイクで事故を起こすシーンです。
社会の流れから外れる(=停滞する)ことを選択し、ゆるい幸せをだらっと続けることを選択した種田。
種田は停滞することで心のどこかでは幸せを、そしてまたどこかでは毒を蓄積しているということを無自覚の内に理解していたのかもしれません。
葛藤の後に停滞することを選択したが、ふとした瞬間に自問自答をすると心から止めどないものが溢れてきて。
こういった種田の一連の葛藤から彼の最期までの部分は観ていて痛いほど共感できる部分もあったし、逆に「若いなぁ」と思いながら観たりもしていました。
種田がレコード会社で、昔好きだったバンドマンが社会に迎合している様をみて噛みつくシーンなんかはまさに「若いなぁ」なんて思ってしまったけれど、自分もあと何歳か若ければ共感できたはずだなと思いました。
全てに共感はできないけど、1つ2つが重たく刺さる。
多分観た人の多くがそう感じるんじゃないかなぁと思えるような構成ですごくよかったです。
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種田が去ったのちのシーンでは、
冒頭では朝や昼間の描写の多かったワンルームも、物語が進むにつれ暗い夜の描写が多くなります。
朝日の中の2人の部屋が真っ暗な1人の部屋に。
また種田が去った後、作中で初めて雨の描写がされます。
こういった画面全体を使った心理描写の暗喩がきれいな作品だなとも思いました。
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そして芽衣子が種田の書いた曲を歌うシーン。
芽衣子が側にいることで種田から産み出された曲を、去った種田を想い歌う芽衣子。
ここでの『ソラニン』の歌唱は芽衣子やバンドの熱量が画面を通り越して伝わってくるかのようなカタルシスがありとても感動しました。
間違いなく作中で1番
寂しさと前向きさを与えてくれる場面だと思います。
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誰もが一度は抱く、現状へのフラストレーションや将来への不安、大人たちが標す社会の流れに対する疑問。
そういったものは消化できる人はできるし、できない人はできない。
できずに停滞を選ぶ。
ただ自分が停滞を選んでも周囲は構わずに進んでいく。
そしてまた消化できない何かが蓄積されていく。
この作品ではそういった心の毒が『ソラニン』であり、
蓄積した毒が芽を出していることに対してどうしようもない想いを抱いてしまったのが種田なんだろうなと思いました。
明日は我が身!
あとがき
多くの有名な作品を後々に観たときに思うこと、
「結局面白いじゃん」
世間の熱が覚めた頃に観て、結局面白くて、誰かと話したくても今さら話せない。
なんてことをもう人生で何兆回も繰り返しているのにまた何か話題作が出た際にとる行動は「待ち」。
多分これはもう性格の根の部分なので変わりそうもないし損するのは自分だけなので良いですが、今回『ソラニン』を観て思ったのが、
「その時の自分にしか感じ取れないものがある」ってことです。
特にこういった作品はもっと若いときに観といて、何年後かに観なおす。みたいな見方ができればよりいっそう楽しめるのになぁと思いました。
まさにソラニンBメロ状態。
以上。
最後に
多分こういった機会が無かったら「なんとなく知ってるけどなんとなく観たことない映画」の内の1つのままだったと思うので、改めておすすめしてくれたぽにょさん(@tfs610)に感謝します。
2020/10/4
hyve
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