『轟轟戦隊ボウケンジャー』(2006)のボウケンシルバー/高丘映士が突き詰めきれなかった追加戦士の限界
親友がとても良き仕事をしてくれた、なんと『轟轟戦隊ボウケンジャー』(2006)の高丘映士に関する貴重な情報が得られたのである。
SNSを通して一般人が作り手と関われるようになったこと自体放送当時は考えられなかったことであり、IT革命と時代の流れの恩恵というものであろうか。
似たような設定を抱えたボウケンイエロー/間宮菜月の味方で居られる人として設定したそうだが、私の見立てでは単にそれだけではないように思われる。
ボウケンシルバー/高丘映士が抱えていた「異種族の敵と味方側の人間のハーフ」という出自を抱えた戦士は既に追加戦士の設定が模索された90年代前半に登場している。
そう、『五星戦隊ダイレンジャー』(1993)のキバレンジャー/吼新星・コウであり、彼は「歴代初の少年戦士」というだけではなく「敵と人間のハーフ」という意味でも初めての追加戦士であった。
「ダイレンジャー」自体が「ジェットマン」の変革を受けて更にその先を開拓せんという実験要素が多い作品であったが、その実験要素が特に色濃く見られたのがキバレンジャーの設定だ。
私はリアタイで「ジェットマン」〜「タイムレンジャー」までを体験しているからわかるが、90年代のスーパー戦隊において、実は追加戦士は「6人目のメンバー」という扱いではなかった。
発端となったドラゴンレンジャー/ブライは復讐鬼からスタートしているし、ニンジャマン・キングレンジャーは既存メンバーとは異なる毛色の戦士である。
「6人目のメンバー」として比較的近かったのがメガシルバー/早川裕作であるが、あれは劇中でも説明されているように「6人目」ではなく「0人目=プロトタイプ」であった。
しかも久保田博士や上層部に許可を得たわけではなかったためにしばらく謹慎を食らっていたし、認められるようになってもいざという時の助っ人でしか出てこない。
また、「カーレンジャー」のシグナルマンや「ギンガマン」の黒騎士、「タイムレンジャー」のタイムファイヤーは「6人目」ではなく「第三勢力」である。
完全な敵ではないが、かといって完全な味方にもなりきらないという立ち位置やドラマを作ることによって存在感を際立たせることに成功した。
特に黒騎士ブルブラック(ヒュウガ)とタイムファイヤー/滝沢直人は後にも先にも例がないくらいドラマの主題と密接に絡み合い、その個性が既存メンバーの団結に還元されないのである。
「6人目の戦士」としての追加戦士としての立ち位置が完全に定まったのは「00年代戦隊の始祖」である『百獣戦隊ガオレンジャー』(2001)のガオシルバーからであろう。
OPにきちんとテロップ付きで紹介されるようになったこと、また既存メンバーと似たようなお揃いのカラージャケットを着るようになったことがその証だといえる。
いわゆる「ガオジャケット」に始まるメンバー共通のジャケットは00年代戦隊の特徴を規定する要素となり、『炎神戦隊ゴーオンジャー』(2008)まで続いた。
『侍戦隊シンケンジャー』(2009)で久々の私服戦隊になるまで、00年代戦隊は楽天的で緩い集団主義の時代が続いていたが、「6人目の追加戦士」が既存メンバーに混ざったのもその1つである。
90年代戦隊だと「第三勢力」として既存メンバーに必ずしも還元されず、時に侃侃諤諤のライバルを演じていた追加戦士が00年代に入ると「ズッ友」と呼ばれるポジションに移行した。
これはすなわち追加戦士を第三勢力として扱うことの長短を90年代戦隊が模索し続けてきた結果なのであるが、その反動として00年代戦隊では追加戦士を一部の例外を除けば既存メンバーの絆に混ぜ合わせた。
それは『轟轟戦隊ボウケンジャー』(2006)も同じことであるが、高丘に関して私が惜しいと思えてならないのはキバレンジャー/吼新星・コウのリターンマッチを完全に果たしきれなかったことである。
Task42「クエスターの時代」にて高丘は最終的に自分でアシュとの因縁に蹴りをつけて「6人目のボウケンジャー」として行く道を選ぶが、この時点でキバレンジャーの失敗は回避した。
少なくともその存在感を証明しきれなかったコウとは違い、高丘は自らの意思で冒険者として冒険を続けるという道を選んだのだから、その選択自体には誰もが納得しうるであろう。
しかし、問題はその後一度たりとて高丘のメイン回がなく、単なる「6人目」以上の価値をそこに見出せず埋没してしまったかのように思われてならない。
もっともそれは高丘だけではなく菜月もそうであり、「レムリア人としての自分」を受け入れるようになったのはいいのだが、問題はその後の菜月の個人回がなかったことである。
まあそもそも「ボウケンジャー」という作品自体が「みんなが冒険バカの価値観に染まること」を是とするものであったし、00年代特有の田舎のマイルドヤンキーみたいなノリを否定はしない。
しかしそれはせっかく「タイムレンジャー」までを通して確立された「追加戦士の存在意義」に関して「ズッ友にすることでドラマを複雑にしない」という後ろ向きの姿勢だともいえる。
「ボウケンジャー」という作品自体はファン人気も高いし私も好きだが、シルバーをはじめもっと追加戦士のあり方にメスを入れれば、その名声はさらに高くなったのではなかろうか。
今や「既存メンバーと仲良しこよし」が当たり前になった追加戦士だが、そろそろまたこの辺に関してメスを入れられる戦隊が出てこないものだろうか。
まあ「ドンブラザーズ」ですらそれは成し得なかったことだからもう諦めた方がいいのかもしれないけど。