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〘掌編小説〙クサイ、クサイ、クサイ

わたしの名前はサリー。
隣にいるのは、双子のリリー。 

銀河系から遥か離れたリプシーと言う星からやってきたの。
 
なんで地球に来たかって?

それはね、わたし達の生まれたリプシー星は、
みんな魂だけで生きているの。

それで、魂だけじゃなくて
カラダを持っているチキュウと言う星に行くと、
カラダを貰って生活できると聞いて、やってきたのよ。

 
「ねえ、リリーどこに行けばいいかしら」

「そうねえ、リプシー図書館で調べたところによると、フランスの王様やお妃様がいたころの絵がキレイだったわ」

そう、わたし達はタイムトラベルなんて簡単にできるのよ。

だからおフランスに行ってステキな生活を送るわ。

「ねえ、サリー、なんか臭くない?」 
「わたしもさっきから気になっていたのよ」

「ちょっと!リリー、見て!道路にニンゲンが排出した、ええっと、なんだっけ?」

「ウンコでしょ、サリー。あまりのことに混乱してしまったのね」
「ええ、ごめんなさい、わたしったらビックリしてしまったの」

「ここは庶民が住むところだから、
宮殿に行けばキレイだし、臭くないわよきっと」

「サリーの言う通りだわ。宮殿ならあの絵で見た美しい場所に間違いないわ。
そこでニンゲンのカラダを貰いましょうよ」

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「ここがベルサイユ宮殿ね」
「サリー、わたし達は貴族として生きるのね」

わたし達は宮殿の庭を見ながら関心していた。

緑が多くて、故郷のリプシー星にちょっと似ていると思ったら涙が出かけた。
イケナイ、イケナイ、わたし達はニンゲンとして生きて行く契約をしたのだから。

すると、いきなり、

「キャ~!」っと、大声を出してしまった。

「どうしたの?サリー」
「なんか踏んだみたい。それに凄くクサイわ」

良く見るとウンコだらけだ。

ニンゲン達は長いドレスを良いことに、立ったままイタシテいたのだ。

男性はズボンを脱いで、空いているところに執事を待たせてイタシテいる。

「落ち着いて、サリー。宮殿の中はキレイよ、きっと」

「そうね、外でならわからないと思っているのかしら?宮殿の中に入りましょう」

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「ねえ、リリー、わたしの鼻がおかしいのかしら?
ここも臭いわ」

「ちょっと見て!サリー! 
宮殿の中もウンコだらけよ!」

フランスの王様や王妃は、さすがにその辺ではしていないようだったけど、
玉座から便器みたいな椅子に移動してニョウやベンを排泄している様子。

「ダメだわ、わたし達、鼻が良いからここには住めないわ」

「そうね、サリー。他の場所へ行きましょう」
「クルクルピンピン、タイムトラベル!」

サリーが呪文を唱えた。

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「リリー、ここはどこかしら?」

「ニッポンというところの平安時代にしてみたわ。
ここの十二単衣と言うキモノが美しいの。
ゲンジ物語という本もあるみたいよ」

「まあ、ステキね」
「ここは空気もキレイだし、わたし達にぴったりの場所ね💖」

「?」
「ねえ、臭くない?」

「ここにはフランスのときのようにウンコはない筈なんだけど、おかしいわね」

わたし達は魂だけなので、透明人間のように誰にでも近づける。

高貴と呼ばれるお姫さまの側に行ってみた。

お姫さまの暮らしはさぞかし素晴らしいことだろう。

『ここに香を焚きしめて』

お姫さまはリプシー図鑑に載っていたのと同じ、
複雑に重ねてある着物を着ていた。
それに、凄く髪が長い。

「ステキねえ、サリー。
黒髪があんなに長いなんてミラクルだわ」

「リリー、でもここも臭い気がするんだけど気のせいかしら?」

「えっ!やっぱりサリも臭いと思っていたの?」

「おかしいわねー。さっきの〘香〙って香水みたいなモノでしょう?」

『姫、今日は誰の命日でもないし、忌避日でもないので髪の毛を洗いましょう』

『そうか、前に洗ったのはいつだったか?』  

『半年前の12日です、姫』

『それなら洗おうか』

女官達はたちまち、部屋の中にたくさんのたらいを並べてお湯を入れる。

なんだか大きな家具の上に布を敷いて姫は寝転んだ。 

女官達はお姫さまの髪の毛をたらいに入れる。

髪の毛は恐ろしく長いので、たらいはそれだけでいっぱいになった。

『のう、わらわの吹き出物はいつ良くなるのだろうか』
 『姫、今はナツですから、皆、吹き出物ができます。秋には良くなることでしょう』

『ならば、殿にもそのように文を書こうかの』

長い髪の毛を何度も何度も櫛に米の研ぎ汁をつけて丹念に梳かしている。

そして、ナツだというのに火桶に火を入れて、
その上から髪の毛を炙って乾かしている。
中には布で拭いている女官の姿もある。

凄いニオイがするアブラのようなものをコテコテに塗っていたが、たちまち夜になってしまった。

やっと髪の毛を洗い終わったらしい。

『姫様、文を書きましたか?』
『殿にはお会いしたいのだが、吹き出物がひどくてカラダを見せられぬゆえ』

『姫様は本当に奥ゆかしいですこと。
早速使いの者を走らせますね』

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「お姫さま、どうしたのかしら?」

「今は吹き出物が酷くて会いたくないから、秋になったら会いたいって文を送ったみたいよ。」

「あら?お姫さま、もうお休みになってしまったわ


「お風呂には入らないのかしら?!」


「リリー、わたし達はお風呂が大好きだから毎日何時間もお湯に入っているけど、ニンゲンは違うのかもよ」

「ちょっと!このしおりを見て!」

「やだわ、リリー、クソ真面目に《チキュウのしおり》を持ってきたのね。
でもそういところがリリーらしいわ。
10センチもあるし、重いからわたしは持って来なかったわ」

「えーと、〘平安時代の入浴頻度週に一度〙
「週に1度!? それは無理だわ!」

「占いなどによって、入って良い日を決めて
〘湯帷子(ゆかたびら)を着たまま入り、
焼石に水を垂らして湯気を出して、そのときに出た汗を拭く〙って書いてあるわ」

「...そりゃあ、吹き出物も出るでしょうね」

「そうねえ、」

「この妙な臭気は、髪の毛のニオイと鬢付け油と、体臭とお香のニオイの混じったものなのね!」

「わたし達、お風呂好きですもの、この時代はちょっと無理みたいね」

「あー、十二単衣着てみたかったのに」

「まあ、またタイムトラベルしてみましょう」

「クルクルピンピン、タイムトラベル!」
今度はリリーが呪文を唱えた。
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「ここはどこなの?リリー」

「ニッポンはお水が豊かだから、またニッポンにしたわ。
だいぶ先まできたから、今度は臭くないわよ」

「あら、服装が違うわ」
「そうね、キモノではないみたいね」

「女の人の髪の毛も短いわよ。ここならニンゲンのカラダを貰っても大丈夫かもしれないわ!」

「もう、サリーったら、悪い癖よ。
良く観察しないと、また大変なことになるわよ」

「変ねえ、わたし達が好きなお風呂がお家にないわねえ」

「みんなどこで入っているのかしら」

「てか、リリー、ここは何時代なの?」

「センソウは避けたのよ。わたし達は争いも苦手ですもの。戦争のあとからちょっと先くらいね」

「お風呂はセントウと言うところで、集団で入るみたいだわ」

「あっ!あのお姉さん、セントウに行くみたいよ、付いて行きましょうよ」

「平和な時代ってステキね、ここにしたいわリリー」

「でも、サリー、わたしの気のせいかしら?
なんか臭くない?」

「なんのニオイかしら?」  

「お姉さんがセントウから出てきたわ!」
「つて行きましょうよ!」


・・・

「なんだかあのお姉さんからもニオイがする気がするのよ」

「さっき、セントウに行ったばかりじゃない!」

「ちょっと!リリー、見て!」




わたし達は、塀に貼られたポスターを見て愕然としてしてしまった。

「せめて、月に2回はってことは...」
「それ以下しか普通は洗っていないってことね」


「わたし達、どうしたらいいの?タイムトラベルはあと2回しかできないのよ!」

「センソウがなくて、みんなが清潔な時代へ!
クルクルピンピン!タイムトラベル!」

サリーとリリーは、呪文を唱えた。

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「ここはどこ?夜みたいでわからないわ」

「いいえ、タイムトラベルは昼間にしか移行できないのだから、今は昼間の筈よ」

「でもリリー、空を見て!」


「どういうことなの?これは」
「ニンゲンが咳をしているわ」

「さっきのしおりを出して調べてみてよ、リリー」

「そうね、ここは《チキュウのしおり》が必要だわ」

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石油コンビナートから出された黒煙で、人々は喘息になっていた。

男も女も、決まったように咳をしている。

シュプレヒコールの声もあちこちで聞こえた。

「センソウが終わって豊かになったはずなのに、
美しいチキュウを汚してしまったのね」

「どうする?サリー、わたし達はあと一回しかタイムトラベルできないのよ。」

「わかっているわ、リリー。
規定を超えたタイムトラベラーは、魂ごと粉砕されてしまうのよね」

わたし達に必要な清潔でニオイのない、悲しいセンソウもない未来に行けることを祈るしかないわ。


サリーとリリーの目が合った。

二人は双子だから似ているのは当たり前なのだが、
ニンゲンになったら、
必ず美しい容姿をしていると契約のときに天使様から聞いた。

そして、ニンゲンで経験したことを故郷のリプシー星でみんなに教えなければならなかった。

リプシー星には貨幣がなく、全ては愛のある行動、勇気ある行動が対価として支払われることになっている。

今度は間違いなく、そこでニンゲンのカラダをもらうことになっている。

「今度こそお願い!クルクルピンピン、タイムトラベル!!!」

サリーとリリーは同時に叫んだ。



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「ここはどこかしら」

「えっとー、」

「レイワ3年ですって」
リリーが《チキュウのしおり》を見ながら言った。

一番新しいせいか、情報もあまり載っていなかった。


「でも、ここは臭くないわね」


「そうね、お風呂もあるみたいだし、みんな清潔そうだし……」

「ねえ、リリー、ここってどうして老人が多いの?」

「ここはニッポンだけど、世界的に少子化って書いてあるだけで理由までは書いていないの」

「わたし達、ここでお別れね」
寂しそうにサリーが目を落とした。

ニンゲンのカラダをも貰うと決めた時代に着いたら、ただちに産んで貰うニンゲンを探して離れ離れにならなければならない決まりだ。

「何回、生まれ変わるのかしらね」

「いやだわ、リリー、何百回よ」

「本当にまた巡り逢えるのかしら?」
「そういう契約をしてきたのよ、ニンゲンの体験を全てやったら、再び出逢えるって」

「そのときはもう、姉妹じゃないのね」
「決まりでは、どちらかが男性にならなければならないからね」

「あなたをきっと見つけるわ、リリー」

「わたしもよ、サリー、あなたを絶対忘れない」

そうして、二人の魂は、生まれ変わるためのニンゲンのところへ吸い取られて行った。
まるで、なにもなかったように、人々が行き交っていた。


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あれから何回?

何十回?
何百回転生しただろう……
男になり、女になり、貧しい奴隷にもなり、王族にもなった。

今は普通の家庭の高校生だ。

記憶は無くなると聞いていたのに、わたしはリリーのことも、故郷のリプシー星を忘れたことはなかった。

夕方になるといつも空を見る癖が抜けない。

(リリーは今、どこにいるのだろう)

わたしを絶対に忘れないと最後に言ったリリーは、
どこにいるのだろう。

ため息をついて、家に帰ろうとしたときに、

「あの、宇宙がく専門学校は、こちらの道で合っていますか?」

ひょろ長い男性が、わたしに道を尋ねてきた。

その瞳に吸い込まれるように、サリーは答えた。「わたしもそちらへ行くので、ご案内しますよ(リリー)」
 
わたしの声は聞こえたかしら?

ああ、

やっと、わたし達、

リプシー星に還れるのね。



参考 花王ヘアケアサイト