エリオットスミスの曖昧な調性②Angeles (1/3, verse)
今回は、Angelesの調性を検討していきます。
今回はまずヴァース(イントロ前半と共通)の部分を見ていきます。
メロディとコードはこんな感じです。(表記は実音)
リズムは歌詞によって変わりますが、基本的にこれを2回リピートします。
(リピート時はC/Bコードがありません。)
音階について
メロディはソ・ラ・シ・レの4音から成り立っています。
これだけだと調号のつけようがないですが、コードにD7が出てくるのでファには#が付き、Amはラドミなので、ドとミはナチュラル。
これで7音が揃いましたね。
*
ソから始めて、
ソ・ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ#と並べれば、Gメジャースケールで、
ミから始めて、
ミ・ファ#・ソ・ラ・シ・ド・レと並べれば、Eマイナースケールです。
長調 or 短調?
では、コードを見てみましょう。
Gメジャーが全く出て来ない一方で、Emは使われています。
じゃあ、Eマイナーキーで一件落着。
と思いきや、どうも曖昧な感じがします。
Eマイナーキーらしくない要素
出だしからしてトリッキーです。
まず、Amで始まる以上Aマイナーキーを期待しそうになりますが、続きを聴けば勿論違います。(Amはサブドミナントだったということ)
尚、歌い出しのメロディは9thのテンションであるシだけで出来ており、Amのコードトーンであるラドミのどれにも解決しません。(水色矢印)
歌いにくくないの?と思いますが、浮遊感を演出しつつ、Aが主音でないということも主張しているのかもしれません。
(リピート時はギターで7thと9thを弾いています)
追記:少なくともライブでは歌い出しから9thを弾いているのでは、という指摘を頂きました。
*
続いて、最初のコードと二つ目のコードと繋げるとAm-D7ですが、GのII-Vにあたり当然Gメジャーコードに向かう力が強く、Gメジャーキーを示唆しているようでもあります。(EmのII-VだとF#mb5-B7)
しかも、メロディの切れ目がソの音で終わり、そこでGメジャーキーっぽく収まった感じすらします。(赤色矢印)
*
と言うか、そもそも主音のはずのミの音がヴァースのメロディに一度も使われていません!
イントロでギターが入る前にシンセがミの音を伸ばしているのは、Eが主音であることを強調する意図があるのかもしれませんね。
ここまでをまとめると、
・Gコードは出てこないし、Eマイナーキーっぽい
・でも、出だしから別の調へ行きそうな雰囲気(=トニックから始まらない)
・Eマイナーキーっぽいのにメロディに主音のミが出てこない
アヴォイドノートを含むコード
さて、調性を曖昧にする要素をもう一つ。
3小節目のEm-Em/Dなのですが、この表記は正確ではありません。
ギターで弾くなら、
capo: 5 x24030→x04030
となり、b6th(=b13th)のドの音が含まれています。
ドの音はEmコードに重ねると5thシと不協和であり、メロディで使うとしてもEマイナー/Gメジャーキーではなるべく控えるべき音です。
でも、きれいに響いているし、これがないとAngelesではない気さえします。
エオリアンモード
Eマイナースケールと同じ音から成り立ちますが、性質の違うものがあります。
Eエオリアンモードです。
初心者の方に説明するとかなり詳細な説明になってしまうので割愛しますが、教会旋法の1つでエオリアンモード(エオリア旋法)はほぼ短調だけどぼんやりとした感じと考えて頂ければ良いかと思います。
しかも、スケール上の第6音のドは避けるべき音ではなく、むしろ特性音として使用推奨です。
少なくともヴァースに関しては、こっちの色が濃いのかなと思っています。
メロディに特性音のドは現れませんが、
Am=ラドミ、D7=レファ#ラド、Emb6=ミソシド、C=ドミソ
と、全てのコードでドの音が鳴っているのもどうも怪しいです。特にD7とEmb6いう風にわざわざドを入れる必要がないので。
まとめ
ヴァースだけ見れば、Eエオリアンモードでいいのかなという気がしています。
Spotify APIはmodeの項目がある癖に長短だけでモードに対応していないので、Emということであっていると思います。
ちなみにヴァースのコード進行を度数で表すなら、
IVm(9)-bVII7-Im-Im/bVII-bVI-bVI/V-IVm(9)…という感じです。
次回はコーラスを見ていきます。