REIで働きながら見る、米国アウトドア市場 - What's REI?
前回エントリーから随分と間が空いてしまいました。2020年初夏にニューヨークに生活拠点を移し、今はTakram New Yorkでビジネスデザイナーをしながら、週に2日程度、全米最大のアウトドアショップREIのSoHo Flagship Storeで店舗スタッフとして働いています。
このシリーズでは、アウトドアの本場である米国のアウトドア市場の今やこれからをテーマに、大都市ニューヨークに住みながら、REIの店舗スタッフとして働いていて感じたこと・考えたことについて、ゆるりと発信していきます。
シリーズ一本目の今回は、日本では馴染みが薄いREIの紹介と、そもそもなぜそこで働いているのか、ビジネスデザイナーである自分がそこで働く意味とは何かについて話します。ちなみに全部読むのはちょっと、という方向けに、以下この記事の要約を作っておきました。笑
全米最大のアウトドアショップ ”REI”
REIは、ワシントン州ケント(シアトルの郊外)にHQを持つ全米最大のアウトドアショップです。REIはRecreational Equipment Inc.の略称で、「レイ」ではなく、「アールイーアイ」と発音します。2021年12月現在で、全米41州+コロンビア特別区に計174店舗を展開。米国内のどこに行ってもほぼ必ずあり、アメリカ人なら誰もが知っている国民的なアウトドアブランドです。日本のmont-bellが登山やキャンプに留まらず、クライミングや自転車、スキー・スノーボード、マリンスポーツなどの分野で、自社製品だけでなく、他ブランドのアウトドア用品まで幅広く販売している、と想像してもらったらわかりやすいと思います。最近なら、柏にフラグシップを持つAlpen Outdoorsも似ていますね。
REIでは、アウトドア用品やアパレル・フットウェアのリテール事業の他に、自社ブランドのプロダクトの企画・開発も行っています。また、アウトドア用品のレンタル事業や中古アウトドア用品のリセール事業、アウトドアアクティビティの体験ツアーサービス・クラス/イベント、アウトドアに関するエキスパートアドバイスなど、多岐に渡る事業を展開しています。
初の海外拠点REI Japanは14ヶ月で撤退
実は、日本にも2000年4月〜2001年6月までの間REI Japanがありました(参考)。東京の南町田にあるグランベリーモールのメインテナントとして入居後、REIの初の海外進出ということもあり、一時は話題になりました。しかし、業績が予測値よりも下回ったことや、90年台の第一次キャンプブームが終息してきたタイミングだったこと、東京の中心地から遠かったことなどが理由で、わずか14ヶ月で撤退。跡地にはmont-bellが入ったそうです。
REIの歴史はIce Axe(ピッケル)の輸入販売から始まった
1930年代の米国では、高品質なピッケルは20ドル(現在価格で392ドル程度)もする高額な商品でした。シアトルを拠点にアウトドアを楽しんでいたLloydとMaryは、この状況をなんとかしたいと思い、Maryのドイツ語能力を活かしてカタログを翻訳し、自分たちでオーストリアの業者から個人輸入を開始。それにより中間マージンが大幅にカットされ、高品質なピッケルを輸送費込みで3.5ドル(現在価格で68ドル程度)で販売できるようにしました。
その後、活動に賛同してくれたアウトドア愛好家の友人や同僚たちから、一人1ドル(現在価格で20ドル程度)ずつ集め、その購買力を元手に、高品質なアウトドア用品をより多くの人に届けられる事業を開始しました。それが今でも続くREI Co-op(生活協同組合)の始まりでした。この日本でもお馴染みのCo-op(生協)の仕組みは、REIらしいかつ面白いので、また別の機会にちゃんとまとめます。
REI SoHo Flagship Store
僕が働くSoHoのフラッグシップは、ニューヨーク初の店舗として2011年12月2日にオープン。今年は10周年目の記念すべき年で、先日職場でも10周年記念Tシャツやカップケーキが振る舞われたり、市内のNPOと連携した慈善プロジェクトが行われ、従業員たちがボランティアで参加していました。
REIが入居するPuck Buildingはかなり歴史が古く、ニューヨークの歴史的建造物の一つに登録されています。元々は1885年に印刷会社として建造されました。REI SoHoはそこの地上から地下の3階分を改装した3フロアを利用。内装は、天井むき出しでレンガの壁。いわゆるザ・ニューヨークな建物です。印刷工場の名残であるFlywheel(弾み車)や石板など、当時の備品もそのまま内装デザインとして使っているところにセンスが感じられます。
地上一階はレジ、アクションスポーツ(スキーやバイク)やクライミング、キャンプ、登山、ハイキングのギアが所狭しと並びます。地下一階はアパレルからフットウェア、ワークアウト・ヨガ、水泳、トレイルランニングのギアに加え、REI Co-opメンバーだけが購入できるガレージセールセクションもあります。地下二階は、スキー・スノーボード、自転車の修理やメンテナンスをしてくれるショップと、返却品を管理する部屋や従業員用のオフィス・休憩部屋があります。
なぜREIで働いているのか
さて、ようやく本題です(笑)。
Takram New Yorkで働きながら、なぜREIで働いているのか?その理由は、以下の二つに集約されます。
理由1:都市生活者×アウトドア
世界中で都市化が進み、生活は便利になる一方で、都市疲れをする人が増えています。それに呼応するかのように、ヨガやメディテーション、郊外への週末旅行など、心や身体をケアする物事への関心・ニーズが高まっていますよね。ニューヨークは世界中から多様な国籍・人種が集まり、世界に先駆けて新しい文化やトレンドが生まれるエネルギーに満ち溢れた都市です。PelotonやGetawayもニューヨークから生まれました。そこに住む生活者たちのアウトドアに対するニーズ・課題は、今後世界中の都市で同様に見られるようになるかもしれません。REI SoHoは、ニューヨーク市内のどこからでもアクセスが良く、ニューヨーク市民とアウトドアを繋ぐハブになっています。そこで店舗スタッフとして働き、見聞きした情報や顧客との対話から得た情報は、これからの都市生活者のアウトドアとの付き合い方をデザインするために有益な情報となるはずです。
理由2:米国アウトドア業界を牽引するリーダー
米国アウトドア市場の規模は日本の20倍くらいと言われています。また、直近1年にキャンプに行った人の割合は、日本は全人口の7%、米国は50%と言われています。さすがはアウトドアの本場、アメリカです。周りの友人たちを見ていても、アウトドアがライフスタイルの一部になっており、文化としての成熟度やリテラシーの高さを感じます。REIは、そんな米国のアウトドア市場を業界トップで牽引するリーダーです。小売だけでなく、リセール事業やサービス事業、慈善活動への積極的な投資など、幅広く事業を手がけています。また、アウトドアのほぼ全ての分野をカバーする守備領域の広さや、多種多様なブランドを扱う商品力によって、業界内での顔も広く影響力は絶大です。これまでは白人主導だった米国アウトドア市場において、BIPOCの人たちを巻き込んだ活動を推進したり(参考)、業界内でいち早くリセール事業に取り掛かるなど、REIがイニシアチブをとることで、業界のムーブメントになるケースも多くあります。REIで働くことで、米国アウトドア市場を網羅的かつ先端的に理解できると感じています。
ビジネスデザイナーの自分がREIで働く意味
新しい製品・サービス、ビジネスモデル、仕組みを創り出すビジネスデザイナーとして、世の中の潮流や、未来の兆しになりそうな生活者の価値観や行動様式の変化、潜在的なニーズ・課題には、常にアンテナを張るよう心掛けています。REIで働く時間は、自ら見聞きした体験を通じて、アウトドア業界における潮流や未来の兆しに関するインプットを得られるフィールドワークの時間です。アウトドア業界で新しい価値を創り、それを社会に普及させたい気持ちは、前職のスタートアップをやっていたときから変わりません。ここで得た体験をもとに、企業・組織・社会のチェンジメーカーと協業して、世の中に大きなインパクトを与えていくことが当面の目標です。
「REIで働きながら見る、米国アウトドア市場」のシリーズ第一回はいかがでしたでしょうか?今後もゆるりと更新していく予定です。ではまた!