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リセール3.0

買ったけど使わなかった。
サイズが合わなかった。
パフォーマンスやデザインが想定と違った。

REIで働いていると、様々な理由(言い訳?)と共に、返品や交換をするお客さんがひっきりなしにやってきます。ざっくり見積もって、一日に対応するお客さんの1-2割は返品目的で来店しているような気がします。アメリカに引っ越してきてからのカルチャーショックって何?と聞かれたら、おそらくこの返品カルチャーは真っ先に答えます。それぐらい多い。

REIのReturn Policyはかなりユーザーフレンドリーで、購入から1年以内であればメンバーであるなし関係なしに、返品が可能です。ただし、顧客の過失による劣化や損傷、経年劣化は対象外。返品された商品の状態の見極めはレジに立つ従業員たちの主観に任されます。返品された商品は、新品・未使用品であればそのまま店内に戻され、中古品はリセールアイテムとして、店内のガレージセールコーナーまたは、REI good&used(中古商品専用のeCommerce)で販売されます。
NYCはAppalachian Trailという米国3大長距離ハイクのうちの一つの通り道になっていて、時折バックパッカーたちが来店するのですが、旅の初めに買って2ヶ月間使い倒した靴下を、穴が空いたから交換したい、と手渡された時には目が点になりました。もちろんこの場合返品は受け付けられません。これ以外にも、買って少し使ってから返品する、ということを何度も繰り返す顧客もいたり、この返品制度をうまく利用する人も少なからずいるのも事実です。

REIでの返品率の高さを目の当たりにするにつれ、自然と米国消費者の返品カルチャーや中古市場に興味を持つようになりました。アウトドア業界を見渡しても、REI以外に、Patagonia Worn WearやArc'teryxなど多くのブランドやリテーラーがリセール事業にテコ入れし始めていることも気になっていました。今回は、この米国リセール業界のこれまでの変遷、現状を理解するために調査した結果をまとめたものです。

Key takeaways

- 米国リテール業界は今「リセール3.0」のフェーズに入っている。
- リセール3.0は、ブランド・リテーラーが自社事業としてリセール事業を展開すること。
- 中古市場規模(リセール+古着屋)は年々拡大しており、2020年で$36B、2025年には$77Bになると言われている。
- アウトドア業界では、REI、Patagonia、Arc'teryx、The North Faceなど大手が次々に参入している。

リセール市場の変遷

米国リテール業界は今、「リセール3.0」のフェーズに入っています。米国リセール市場の変遷を理解する上で、Commerce VenturesのThe Next Wave of Resale: Why We Believe Brands Will Drive the Second Wave of Secondhandがとても参考になったので、この章ではその内容を掻い摘んで紹介していきます。

Commerce VenturesのMediumをもとに筆者作成

リセール1.0:Physical reCommerce(古着のリアル店舗)

古着屋のgoodwill(出典:Vox

リセール1.0は、2000年〜2015年の期間のいわゆる古着のリアル店舗。80年代後半のグランジファッションの流れと脱物質主義の台頭により、Salvation ArmyやGoodwillなどの実店舗の古着屋が急拡大していきました。一方、当時は古着屋に服を寄付することが普通な世の中だったため、古着をファッションアイテムとして取り入れることがメインストリームになることはなかったようです。

リセール2.0:Online Marketplace(古着屋のデジタル化)

出典:Business of Fashion

リセール2.0は、2015年〜2020年の期間で、これまでの古着屋のコンセプトをデジタル化し、オンラインマーケットプレイスとして台頭してきたフェーズを指します。代表例としては、PoshmarkthredUPThe RealReal(2021年時点で全て上場)などが挙げられます。1)幅広いエリアで入手可能な商品数の拡大、2)シンプルなブラウジング体験、3)便利な自宅配送が、特にミレニアル世代とZ世代に受け、爆発的に規模を拡大していったようです。

2010年にEverlaneとH&Mが環境を配慮したコレクションを出した頃から「サステナビリティ」がリテール業界でも注目されるようになりました。エシカルな価値を打ち出した企業が増えたのもこの頃です。ミレニアル世代やZ世代は、不況な世の中で生まれ育ったこともあり、前世代に比べて価格に対してセンシティブな傾向があり、好きなブランドを安い値段で買えることや自分の古着を売れることがこの潮流を後押ししたと言われています。さらに、消費者のサステナビリティへの意識の高まりや自らが持続可能な経済活動に参画していることも後押しの要因と言えそうです。

リセール3.0:Branded reCommerce(ブランド・リテーラーの自社リセール事業)

Patagonia Worn Wear(出典:INHABITAT

リセール3.0は、ブランド・リテーラー自らがこのオンラインマーケットプレイスの流れに乗り、自社事業としてリセール事業を展開するフェーズです。2020年から急速に広まってきました。ブランドやリテーラーはこれまで、1)詐欺、2)ブランド体験の一貫性のなさ、3)自社既存事業とのカニバリを懸念して、リセール事業には参入してきませんでした。しかし、リセール2.0においてPoshmarkやthredUPらが順調に売上を伸ばしているのを横目で見て、さすがに中古市場を無視できなくなったようです。彼らが参入してくる目的は、売上増、新規顧客獲得、環境負荷の低減、一貫性のあるブランド体験の提供です。今後もオンラインマーケットプレイスの成長は続くと予測されていますが、ブランドやリテーラーだからこそレバレッジを効かせられるポイントが4つ紹介されています。

ブランド・リテーラーの強み1:既に顧客からの信頼がある
中古品を購入する消費者が気になるのは、商品の品質とそれが本物であるかどうか。オンラインマーケットプレイスは、その信頼を一から作り上げなければならない一方で、ブランドやリテーラーはこれまでに築いてきた信頼を土台に自社の中古品を販売できます。

ブランド・リテーラーの強み2:顧客獲得コストが低い
ブランドやリテーラーは既存顧客がいるため、自社プラットフォーム上で売上を作り、中古品を仕入れる仕組みが既にでき上がっています。これを一から作るとなるとしんどいのは容易に想像できますね。

ブランド・リテーラーの強み3:製品に関する圧倒的な知識
ブランドやリテーラーは既に彼らの商品ラインナップについては、当然ながら他企業に比べて熟知しています。効率的かつ正確に仕入れやタグ付けを行う方法や、マーケットプレイスではできないような商品の認証制度が確立していたり、修理・修繕能力も有しています。

ブランド・リテーラーの強み4:返品を直接受け取れるリアル店舗の保有
ブランドやリテーラーは、返品や交換ができるリアル店舗を既に持っています。つまり、店舗数が多いブランド・リテーラーほど顧客が使わなくなった商品を持ち込める接点が多いことになります。The RealRealもわざわざ返品だけを受け付けるリアル店舗をオープンするほど、実店舗の有無は顧客との関係性づくりに寄与するようです。

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今後もオンラインマーケットプレイスの成長は続くと予測されています。でももし選択肢があるのなら、既に関係性のあるブランド・リテーラー、もしくは関係性がない新興マーケットプレイスのどちらで商品を購入・返品しますか?今後、ブランド・リテーラーとの関係性を進んで選ぶ人が増えてくるかもしれませんね。

リセール市場の市場規模推移

リセール市場の変遷が少しわかったところで、市場規模の推移も併せて見てみるとどれだけ活発な市場なのかが想像できます。

thredUP 2021 Resale Reportをもとに筆者作成

オンラインマーケットthredUP2021 Resale Reportによると、中古市場は現在US$36B(約4,100億円)、2025年にはUS$77B(約8,800億円)になると予測されています。グラフを見ても分かるとおり、この急速な市場拡大は、主にリセール事業によるもので、衣服セクターに比べて11倍の早さで成長すると言われています。市場に多くの企業が参入し始め、品質の高い商品が手に入れやすくなり始めているのもその要因のようです。

Cowen Research Themes 2021 (p41)をもとに筆者作成

また、投資銀行のCowenが行ったCowen Research Themes 2021(p41)によると、今後5年間の消費傾向として中古・サステナブルファッションが伸びることも予想されています。

アウトドア業界のリセール事業

北米アウトドア業界でリセール事業を展開するブランド・リテーラーの一部(筆者作成)

米国アウトドア業界でリセール事業を展開するBranded reCommerceの代表例は、REI good&usedPatagonia Worn Wear。この2つの企業がアウトドア業界ならず、リテール業界全体を牽引しています。他には、Arc'teryx Used GearThe North Face RENEWEDColumbia ReThreadsなど。cotopaxiとNEMOは、自社でリセール専用のウェブサイトは設けていないものの、REIのプラットフォーム上でリセール市場に参入しています(参考)。隣国カナダでも、カナダ版REIであるMECもMEC GEAR SWAPを展開しています。

また、オンラインマーケットプレイスとしてリセール事業を展開している企業には、out&back(TNFの親会社VF Corporationから資金調達)、RequipperOUTDOORSGEEKGear Tradeなどがあります。番外編として、アウトドア用品のレンタルマーケットプレイスを展開するArrive Outdoorsは、おそらく各種ブランドから安く新品を買い取り、一定回数利用した商品を中古市場に流す仕組みを持っています。

個人的にはアウトドア業界のブランド・リテーラーは、リセール事業と相性が良く、さらに言えばリセール事業を強みにリテール業界を牽引していく力があると感じています。自分自身や周りの友人を見渡しても、自然との距離が近い人ほど気候変動やサステナビリティへの関心が強い。そうした人が多く集まるアウトドア業界は既にリセール事業を受け入れ、発展させていく土壌ができているからです。今後の動きから目が離せません。

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さて、今回はREIでの返品の多さに驚いた体験をきっかけに、米国リセール市場についてまとめてみました。今回は情報量が多くなり過ぎてしまうので語れなかったのですが、REIやPatagoniaのリセール事業の成功は、リセールの物流からロジ、システムまで全てを担うホワイトレーベルの「Trove」という会社の話を抜きにしては語れません。次回はこの影武者Troveについてとことん深ぼった話をしたいと思います。お楽しみに!