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2021-2022 R&B Talk 林 剛×Yacheemi

2020年のR&Bについて語り合った昨年の記事がまあまあ好評だったので、今年も、餓鬼レンジャーのタコ神様でダンサー/DJとして活動するYacheemi(ヤチーミ)さんとともに2021年のR&Bを振り返りつつ2022年の展望も交えたトークを一方的にお届けします(前回「noteでやってくれ」という声を多くいただいたので、アカウントを作りました)

今回は、事前に2021年のR&Bベスト・ソング40曲を選んだプレイリストを各自作成し(昨年末に公開)、それをベースに話を進めることに。なお、対談は2021年12月30日にZoomにて行った。最後にそれぞれの「2021年ベストR&Bアルバム20」も発表。固有名詞連発で、深い話をしているわけではありませんが、R&Bの楽しさが少しでも伝われば嬉しいです。(構成:林 剛

■メロディの復権

林剛(以下H):昨年に引き続きよろしくお願いします。今回は事前にそれぞれの2021年ベスト・ソング40曲を選んだプレイリスト(40 Best R&B Songs of 2021)を作成しましたが、擦り合わせとかしていないのに半数近くの曲がダブりましたね。
Yacheemi(以下Y):曲順も意図せず選んだのですが、前半の流れは特に似ていましたね。

H:シルク・ソニックの“Leave The Door Open”、アリ・レノックスの“Pressure”、ストークリーfeat.スヌープ・ドッグの“Jeopardy:Verbalize”、ヴィクトリア・モネイの“Coastin’”、ここらへんがツボだったと。あと、マーズの“Countless Times”とか。
Y:主要曲、主要アルバムは一緒ですよね。直前まで悩んで削ったものが被っていたりもしました。
H:リーラ・ジェイムスの“Complicated”は、ふたりともアンソニー・ハミルトンを迎えたリミックス・ヴァージョンを選んでいます。僕ら、世代はひと回り以上違いますけど、そんなふたりが共通して良いと感じた曲が結構あるということは、多くのR&Bファンに聴かれた曲が並んでいると言っていいんじゃないでしょうか。これを踏まえて、2021年のR&Bはどうでした?
Y:去年にも増して、音楽シーン全体の中でもR&Bが盛り上がっているという実感がありました。シルク・ソニックの『An Evening With Silk Sonic』やサマー・ウォーカーの『Still Over It』がビルボードの上位にランクインしましたし。
H:R&B…自分の中ではずっと盛り上がっていますが、確かに例年以上に世の中がR&Bというジャンルに意識的になった感はあった。それはやはりシルク・ソニックの影響が大きいのかもしれない。まあ、シルク・ソニックが現行のR&Bかって言われると、70年代ソウル/ファンクへのオマージュとなる企画色の強いアルバムだし、シーン云々とは無関係な突発的な作品でもあるので、別物、別格という気もしているのですが。あれ、ブルーノ・マーズもアンダーソン・パークも、ひとりだったらやらなかったんだろうなとも思うんですよね。
Y: ヴィデオも含めてパロディ要素が多いですしね。もちろんNo.1にしたいアルバムなのですが、同時に別枠にしたい気持ちもあります。
H: 自分もNo.1アルバム。ただ、「シルク・ソニックの一年でした」だけだと、サマー・ウォーカーやH.E.R.、ジャズミン・サリヴァンみたいな2020年代最前線の作品の立場は?とも思ってしまう。「シルク・ソニックのようなアルバムが出たことこそが2021年的だ」とも言えますけど。ブルーノ・マーズでいうと、『24K Magic』(2016年)でもあのテのオマージュ的なことをやっていたけど、あれは80〜90年代の気分がネタ使いも含めてメインストリームのシーンで醸成されていく中で、そこに向き合った感じがあって、シルク・ソニックはちょっと違う気が…。まあでも今年はシルク・ソニックも含めてメロディアスな曲が増えた印象がある…って、5年に一回くらい言っていますね。
Y:そう思います。
H : ふたりがプレイリストで選んだ曲を見ても思うのですが、ざっくり言うと2020年以上にメロディアスな曲が多い。マーズが出したハチロクのバラード“Countless Time”なんか特にそう。でも実はこれ、韓国のシンガー、コールド(Colde)が2019年に出した“WA-R-R”の英語詞リメイクなんですよね。US R&BとK-Pop〜K-R&Bが接近しているという話は、ガラントが韓国(や韓国系アメリカ人)のアーティストと頻繁にコラボしていたりすることも含めて以前からありましたが、その動きが本格化して、メロディの復権にも繋がっているのかもしれない。韓国のR&Bだと、EXOに属するベクヒョン(ベッキョン)が、“All I Got”というガラントみたいなファルセットを交えて歌うド直球のR&Bバラードを歌っていましたけど、こちらは逆パターンで、トーン・スティスが2019年に公開した未発表曲の韓国語ヴァージョンなんですよ。他にもケイティ(KATIE)はタイ・ダラー・サインやレヴィン・カリを招いていたり。数年前にはジェイ・パークがロック・ネイションとソロ契約した…なんて話と一緒にしてよいのかわかりませんが、R&Bというジャンルにおいて米韓の距離がより縮まっている気がする。

Y:過去にミュージックやストークリーとのデュエット曲を出していたアナレイも韓国の血が入っている人ですね。ロナー(Lonr.)と組んだ“Title”をリリースしたり、彼女もUS R&Bシーンと距離が近い。

H: 僕は韓国の音楽事情に明るいわけではないので分析みたいなことはできませんが、詳しい方によれば、韓国の音楽業界やリスナーがごく普通にUS R&B的な気分を共有しているみたいで。そう言われてみれば、韓国のシンガーやダンサーのYouTubeなんかを観ていると、US R&Bの最新ヒットや話題曲をタイムラグなくカヴァーしていたり、ダンスの音楽に使っていることが多くて。韓国でそれだけR&Bが浸透しているのはクリスチャンが多いからだと仰る方もいて、それが事実なのかどうかはともかく、リスナーやメディアも含めてR&Bフレンドリーだなとは、なんとなくですが伝わってきます。
Y:US R&Bへの憧れや空気感をそのまま映し出せることが、ストレートなメロディの復権に繋がっている。シルク・ソニックも、70年代ソウルへの憧れを衒いなく表現している部分で共通しているように思います。

H : 思えばシルク・ソニックも、アンダーソン・パークは黒人であると同時に韓国に、ブルーノ・マーズはフィリピンにルーツを持つアジア系でもあって、そうした人種的な外様というか、日本人も含めた他人種が憧れを抱く感覚で何の躊躇もなく70年代ソウルを再現しているような気がした。あれを例えば、彼らと同世代のラッキー・デイやBJ・ザ・シカゴ・キッドみたいなR&Bシンガーがやっても、それっぽくはなるけど、あそこまで徹底したものにはならない気がする。でも、そうした外様が臆面もなくやる、ともすれば文化盗用とも言われてしまうようなベタなソウル/R&Bアプローチが本家のR&Bアーティストたちにも影響を与え始めているいるようにも感じられて。あと、それとは別に、今年は特にUS以外の、人種や国籍など様々なバックグラウンドを持つアーティストが良質なR&B作品を出したという印象がある。
Y:スノー・アレグラもスウェーデン出身、シニード・ハーネットもタイとアイリッシュのハーフで英国出身ですね。
H:今に始まった話ではないけど、アメリカの黒人であることがR&Bアーティストの絶対条件ではない…と、それが作品を通して明確にされた一年だったかも。ただ、近年よく言われる“R&Bの多様化”は昔からのことで、R&Bは常に外部の音楽に影響を受けながら進化してきた。“本流”とか“王道”という言葉は誤解を招きやすいけど、ソウル/R&Bの本流、様式美みたいなものは、多様化したとしてもずっと存在している。
Y:特にR&Bは、周りを取り囲む音楽ジャンルに感化されながら進んでいく性質がありますからね。その広がりだけに終始すると、シーン全体を考えるのに少し事足りない。
H:インディ・ロックなどとクロスオーバーしながらアンビエンスを纏ったフランク・オーシャンの『Blonde』(2016年)あるいは『Channel Orange』(2012年)は間違いなく“本流”の流れを変えた作品。であると同時に、ディアンジェロの『Voodoo』(2000年)がそうであったようにジャンルを越えて絶大な影響を及ぼしたアルバムでもあって、R&Bという枠に収まりきるものではない。そして、2010年代以降のR&Bがそれだけに影響されて進化してきたわけでもない。それこそ2010年代半ばにディアンジェロが復活した際、その裏でベイビーフェイスも本格復帰して、進化ではないのかもしれないけど、揺り戻しみたいな現象もあって。近年のR&Bでも、シルク・ソニックも含めて、なんだかんだでベイビーフェイスの存在が大きくて、間接的にメロディの復権に貢献しているような印象も受ける。そうした流れが2020年代に突入する直前あたりから見えやすくなってきた。
Y:今年のサマー・ウォーカー『Still Over It』は女性R&Bアーティストとしてはソランジュの『Seat At The Table』(2016年)以来の全米アルバムチャート首位を獲得したわけですが、ソランジュの作品は多角的な語り口ができたのに対して、サマー・ウォーカーは“直球のドR&B”作品だから、また与えた影響が違う。前作ではまだ謎多き存在だった彼女も、R&Bの“本流”を担う人なんだなとはっきりしました。

H : サマー・ウォーカーのアルバムは、90年代から現在までのアトランタR&Bが地続きであることも証明してくれた。 H.E.R.は、ギャビー・ウィルソン改めH.E.R.として再デビューした際はオルタナティヴR&B的なポジションだったけど、今回のファースト・アルバム『Back Of My Mind』を聴くと、今やオルタナティヴどころか、すっかり本流の人。それこそ“フランク・オーシャン以降”がR&Bの本流になったからだとも言えるわけですが。“Closer To Me”でゴアペレの曲“Closer”をサンプリングしたあたりはオルタナティヴな人なんだなという気にさせるけど、これは地元オークランドの先輩に対するリスペクトですね。

Y:ゴアペレの“Closer”は今のR&Bに先駆けていた印象もありますね。あと、レイト90s〜アーリー00sのネタ使いが増えてきたという話題は去年も出ましたが、もう今は直接的なサンプリングを用いらなくても、その時代の雰囲気がシーンの標準装備になっている。ジョイス・ライスもジョンBの“They Don’t Know”を使った“So So Sick”こそ大ネタだけど、どの楽曲も自然体でアーリー00sの空気を纏っている気がします。

H: 引用に頼らないで2000年頃の雰囲気を醸し出してる感は確かにあります。ジャケットのアートワークも2000年前後のR&B風だった。ジョイス・ライスって、アジア系とのハーフであることやアイドル性も含めて、現代版のエイメリーですね。もっともレイト90s〜アーリー00sのネタ使いは、トーン・スティスfeat.マエタの“Something In The Water”やエルエイの“In My Corner”でカール・トーマスの“I Wish”が使われていたように、相変わらず多いですけど。
Y:カール・トーマスとドネル・ジョーンズの人気、高いですよね。トーン・スティスはH.E.R.との”When You Love Someone”でドネルの”Where I Wanna Be”も引用しています。
H:そのふたりの曲の引用が目立つあたりが、レイト90s〜アーリー00s再評価を象徴しています。サマー・ウォーカーのアルバムでもプロファイルの“Liar”(2000年)が使われていて、あと数年したらミドル00sネタが主流になるのかもしれない。

 

■Dマイルの快進撃

H:そうした中、プロデューサー/ソングライターとして、メロディの復権も含めて今の流れを作っているのがDマイルなんじゃないかと。去年の対談で「2020年のベストR&BプロデューサーはDマイル」と話していましたが、あの会話は今年にとっておけばよかったと思うほど、2021年は彼の活躍が目立った。まあでも、2020年から作っていた作品もあるのか。とにかく、仕事量はもちろん、クオリティが半端じゃない。今年こそDマイルの話をしなければいけない(笑)
Y:圧勝です。去年の対談はシルク・ソニックの登場より前ですもんね。
H:シルク・ソニックなんてユニットが出てくるなんて思いもしなかったし、しかもそこにDマイルがメインで関わるなんて。去年の対談ではH.E.R.の“I Can’t Breathe”がグラミー賞にノミネートされて…という話までで、まだ受賞もしていなかった。ラッキー・デイの『Painted』(2019年)が出たあたりから「Dマイル、最近凄いね」みたいなことは言っていたけど、検索をかけても一部のR&B系メディアくらいにしかヒットしなかったのが、今や音楽メディアだけでなく一般メディアも特集を組むほどの存在です。プロデューサーとしてのキャリアは15年超なんですけどね。そういえば、「Blues&Soul Records」誌のシルク・ソニック特集では、Dマイルの紹介記事も書きました。

Y:H.E.R.の曲でグラミー賞に続いて“Fight For You”がアカデミー歌曲賞を獲ったことも大きいですね。2020年に手掛けたヴィクトリア・モネイのアルバムでも、アーティストとしてグッと先に進んだ感じがある。
H:ヴィクトリア・モネイの最新シングル“Coastin’”はステレオタイプスの制作だったけど、彼らもブルーノ・マーズ〜シルク・ソニック絡みだから、Dマイル周辺が本当に強かった。ジョイス・ライスのアルバム『Overgrown』もDマイルがメインで制作していたし、インディア・ショーンのEP『Before We Go』もですね。駆け出しの頃のDマイルって、地元ブルックリンでフル・フォースに見初められてリアーナを手掛けたり、ロドニー・ジャーキンズのダークチャイルド一派としてメアリーJ.ブライジの曲も制作したり、先輩のもとでビッグネームと仕事をするイメージだったけど、タイ・ダラー・サインを手掛けた頃(2015年前後)からDマイルが新進のアーティストを育てていくような流れになっている。

Y:アレクサンダー・オニールの“If You Were Here Tonight”を引用したセヴン・ストリーターの“Taboo”、あとジョジョの“American Mood”もDマイルでした。メアリー・J.ブライジの新曲“Good Morning Gorgeous”では、H.E.R.の“Fight For You”や“I Can’t Breathe“と同じH.E.R.、ティアラ・トーマス、Dマイルの3人チームが集結しています。
H: Dマイルはこの15年くらいメアリーの作品に定期的に関わっていましたけど、今やメアリーに起用されたというより、メアリーがDマイルに仕事をお願いする立場になった感じ。メアリーといえば、スヌープ・ドックのアルバム『Snoop Dogg presents Algorithm』に入っていたDJキャシディとDマイルが制作した“Diamond Life”でも歌っていましたね。あれ、アル・ジョンソンの“I’m Back For More”をベタ敷きしてメアリーが歌う90年代のヒップホップ・ソウルみたいな曲で、同ネタのフェイス・エヴァンス“Sunny Days”(98年)みたいなことを今やるんだという気がしましたが、こういう大ネタ使い、オールドスクール感の打ち出し方はDマイルの作風のひとつかと思います。”Dマイル・サウンド”っていうシグニチャーはないんですけど。ラッキー・デイの“Over”もミュージック(・ソウルチャイルド)の”Halfcrazy”(元ネタはフランシス・レイ「パリのめぐり逢い」)の引用でしたし。とにかく、こんなにR&Bのプロデューサーが注目されるのも久々。「R&Bはプロデューサーズ・ミュージック」と言われてきましたが、2010年代以降プロデューサーに注目が集まることが少なくなっていった中で、Dマイルがこれだけ活躍することで話題になって、ちょっと嬉しいです。

Y:ヒップホップ出自のプロデューサー、たとえばヒットメイカがやるような大ネタ使いともまた印象が異なりますよね。
H: 鍵盤のほか何種類もの楽器を操るマルチ・プレイヤーで、生楽器の音色を大切にする人という印象。ご両親も、お父さんがズークのシーンで活躍していたミュージシャンで、お母さんはヤニック・エティエンヌ名義で活動していたシンガー。音楽一家に育った人で、6歳の時にお母さんのアルバムにDee名義でクラヴィネットやドラム・プログラミングで参加して、ホーンのラインも考案したとか。だから、シルク・ソニックのあのオールドスクール感もDマイルのセンスやアイディアが大きそう。

Y:シルク・ソニックとは同世代で(3人ともに1985〜1986年生まれ)マルチ・ミュージシャンであることも共通している。大御所のプロデューサーと組まずに臨んだ結果が、あの遊び心あふれる作品に繋がったんじゃないかと。
H:そうした中で、背後にはブーツィ・コリンズがいて、70年代フィリー・ソウル感を出すにあたっては「本物を使おうぜ!」ってことなのか、ラリー・ゴールドのような大御所にストリングス・アレンジをお願いする。アメリカのポップ・ミュージックの懐の深さというか、こういうところがたまらないですね。

■メロディの復権に貢献した裏方たち

H: H.E.R.のアルバムにDマイルが関わっていなかったのは、シルク・ソニックで忙しかったからなのかわかりませんが、その代わりにDJキャンパーが良い仕事をしている。DJキャンパーもDマイルと並ぶ現行R&Bのトップ・プロデューサーで、ここ数年「DマイルとDJキャンパーとギッティ(ジェフ・ギテルマン)が良質なR&Bを作っている」と言い続けていますが、これも2021年に様々な作品が証明してくれました。
Y : DJキャンパーは、トリー・レーンズのレーベルに所属するアトランタ出身のマライア・ザ・サイエンティスト“2 You”もプロデュースしていました。そういえば、H.E.R.の“Exhausted”にはロドニー・ジャーキンズも名を連ねてますね。
H:ロドニーはDマイルの師匠だから、そんな繋がりもあるのかと。ギッティは、バラク&ミシェル・オバマ夫妻が関与したNetflixのアニメ『We The People』(『みんなのアメリカ〜私たちが社会をつくる〜)の挿入歌“Change”のプロデュースにも関わっていた。トーン・スティスのEP『FWM』もH.E.R.人脈で作られていて、ギッティが貢献している。

Y: ギッティはアンドラ・デイfeat.レフィ・シングス“Phone Dies“のほか、シニード・ハーネット、ジョルジャ・スミス、ラッキー・デイ、dvsnにも関わっている。あと良い曲が目立ったのはトロイ・テイラー。
H:トロイ・テイラーはトレイ・ソングスの出世に貢献したヴェテラン・プロデューサー/ソングライターですが、2021年は前年以上に彼の仕事が目立ったというか、メロディラインが美しい良い曲が多いですね。イェ・アリの“Keep In Touch”やシェイド・ジェニファーの“Count Me Out”なんかもトロイがペンを交えた美メロ曲だったし、ウィズ・カリファを招いたケム“Lie To Me”のリミックスもトロイの制作。若手からヴェテランまで彼を起用するアーティストは多い。曲の冒頭にお約束のネームタグ「Troy Taylor you the goat」が入るのですぐわかる。
Y:長年コンスタントに活躍している人ですが、ネームタグの効果もあってか今年はより耳にした気がします。コリン・ホーソーソン“Speak To Me”のクイーン・ナイジャを招いたリミックス(Queen Mix)もそうだし、クイーン・ナイジャのデラックス盤『missunderstood…still』にも参加していました。現行R&Bへのメロディ復権の立役者かと。最近になって、90年代に録音していたデモEP集『The 90’s Demos』をリリースしましたね。

H : あれを出してくるところが絶好調の証。かつてはチャールズ・ファーラーとのキャラクターズとしてR&Bの名曲を量産したトロイですが、昔このふたりとカール・トーマスがフォーミュラっていうグループを組んで“Pass It Over”(93年)という曲を出していて、ここにきて元同僚カール・トーマスの“I Wish”が再評価されていることを思うと、感慨深いですね。あと、アレサ・フランクリンの伝記映画『Respect』のサントラでヴォーカル・プロダクションを手掛けていたのもトロイですよ。
Y:すごい貢献度の幅広さ! Dマイルといいトロイ・テイラーといい、裏方気質の職人たちがシーンを支えているんだなあ。
H : 彼は年齢的には結構いってるけど、DマイルやDJキャンパー、ギッティにまじって現行のメジャー・アーティストに良曲を提供している。つまり、トロイのような美メロ師が重宝される時代の再来。彼もH.E.R.同様、「R&B Is Not Dead」的なステートメントを出していましたね。
Y:クリエイターたちの気持ちはどこか通じてる、と。仕事量とクオリティで言うと、今名前が出た人たちが最前線ですかね。
H:ラッキー・デイやヴァンジェスを抱えるKeep Cool周辺、もしくはアリ・レノックスのマネージメントなどを手掛ける女性ふたりが運営するOutlihers周辺に集うプロデューサー/ソングライターとも言えるかな。Outlihersは今現在どうなっているかわからないけど、ラッキー・デイ、トーン・スティス、Dマイル、DJキャンパー、ヴァーレン・ウェイドらを抱えていて、この一派がLAを中心としたR&Bの活況に貢献しているのは間違いないです。あと、今年もKeep Coolの話をすると、総帥のトゥンジ・バログン(インタースコープやRCAのA&Rとしてケンドリック・ラマーやチャイルディッシュ・ガンビーノの出世に貢献)がデフ・ジャムのCEOになった。となると、RCA傘下のKeep Coolはどうなるのか?とも思うのですが、そのRCAのトップに、ミゲルやロー・ジェイムスを送り出したバイストームのマーク・ピッツが就任した。彼は過去にノトーリアスBIGやクリス・ブラウンにも関わっていたけど、そうした人物がレーベルの要職に就いたとくればR&Bも盛り上がるという話で。今のR&Bに関して言えばRCAは本当に強力で、Keep Cool勢もそうだし、ジャズミン・サリヴァン、H.E.R.、カリード、ブライソン・ティラーもいる。マーク・ピッツの存在は大きいかもしれない。
Y:なるほどー。今調べたらSZAやネイオもRCAですね。層が厚い。

H:一方で、アリシア・キーズが今回の新作『KEYS』をもってRCA /ソニー・ミュージックを離れたという話も。そこにマーク・ピッツの影響がどの程度及んでいるのかはわからないけど、アンソニー・ハミルトンもRCAから離れた。世代的にもフロントラインではなくなった…なんて言ったら失礼ですが。マックスウェルもコロンビアから離れてインディ(BMG)に移ったし、ジョン・レジェンドもコロンビアからリパブリックに移籍した。90年代後半から00年代に第一線で活躍したアーティストが転換期を迎えている。
Y:確固たるファンベースのあるベテランたちは、その方が心地いいのかもしれません。あと、プロデューサー流れで言うとジャム&ルイス名義で初のアルバムとなった『Jam & Lewis,Volume One』も、90年代から活躍するアーティストを招いた美メロ同窓会的な作品でした。

H : メロディ復権云々を意識したわけではないだろうけど、それを象徴するアルバムかもしれませんね。ジャネット・ジャクソンの『Control』(86年)を作る前に自分たちのアルバムを作ろうとしていたけど、曲をジャネットに取られてヒットしたので、当時は「アルバムはもういいや」ってなったと。で、35年越しのリヴェンジ。普通に良いアルバムで大好きですが、これもシルク・ソニックと同じで、2021年のシーンがどうのというものではないですね。
Y:最前線のR&Bとは別の楽しみ方をしています。ベスト・ソングにも選んだマライア・キャリーとの“Somewhat Loved (There You Go Breakin’ My Heart)”も含め、ヴェテランだからこそ振り切れるキラキラした展開はつい反応してしまう。
H:はい。シンセの使い方とかも昔から変わらないなー。メロディ復権に貢献している、貢献し続けているといえば、さっきも言いましたが、そのジャム&ルイスのアルバムにも参加したベイビーフェイス。シルク・ソニックの曲(“Put On A Smile”)も書いていたし、ラッキー・デイを迎えたアース・ウィンド&ファイア(EW&F)のセルフ・リメイク“You Want My Love”をプロデュースしたのも彼。オールドスクールな仕事が中心だけど、重要な場面に出てきますね。
Y:アンソニー・ハミルトンの新作『Love Is The New Black』で久々にタッグを組んだジャーメイン・デュプリもそのひとりですかね。マニュエル・シールとの並びも懐かしかった。
H:ジャーメイン・デュプリはアリ・レノックスの“Pressure”で、これまた懐かしいブライアン・マイケル・コックスと一緒に手掛けていますが、その意味ではジャム&ルイスやベイビーフェイス以上に現行R&Bと繋がってるのはデュプリかも。ただこれ、シャリー・ブラウン曲の引用も含めて、彼らと一緒にプロデュースしたエリートのセンスでしょうね。エリートはアリ・レノックスのために作った大ネタ使いの曲をSoundcloudにアップしていたので、“Pressure”もそこでのコラボがベースになっていそう。
Y:“Pressure”ではジョンテイ・オースティンも共作してますね。その一方で、2021年にはアンドレア・マーティンやチャッキー・トンプソンが亡くなりました。

H:いいメロディが戻ってきてる時代に亡くなったアンドレア・マーティン。主に作詞を手掛けていたと言われますが、味わい深い曲を書く人だった。チャッキー・トンプソンもメアリー・J.ブライジの『My Life』が25周年を迎えて…というところで他界。メアリーが2022年に出す新作(2月11日リリースの『Good Morning Gorgeous』)はチャッキーへのトリビュート的な何かがあるかもしれない。それをDマイルが手掛けていたら美しいのだけど。

 

■多角的なアプローチ

Y:ダンサー/DJである自分の立場から見ると、ケイトラナダとマセーゴとデヴィン・モリソンは2020年に引き続きクラブ・シーンでの人気が高かったですね。
H:3組ともジョイス・ライスの『Overgrown』に関わっていた才人たち。マセーゴとデヴィン・モリソンのコラボ・シングル“Yamz”も好調の証。特にデヴィン・モリソンは、少し前までアンダーグラウンド感の強い人だったのが、DX7とかを使った彼独特のレイト80s〜アーリー90s的なサウンドをオーバーグラウンドに持ち込んできましたね。ハーブ・アルパートと一緒に客演して制作も手掛けたシディベの“Ready Enough”も含めて、ああいうブラコンのスロウ・ジャムみたいな曲。作風は、アニメ「スラムダンク」の彩子について歌った“AYAKO”(2018年)の頃から変わっていないですね。

Y:日本に住んでいたこともあってかデヴィン・モリソンのメロディは日本人に馴染みやすいんですよね。同じく『Overgrown』に参加したマインドデザイン(Mndsgn)も含めて、ヘビーなR&Bリスナーじゃなくても反応できる。
H:シニード・ハーネットの“Stickin”にもヴァンジェスとマセーゴが客演してましたね。クラブ系の流れでは、ヴァンジェスがフォニー・ピープルを招いた“Caught Up”もキレのあるダンサーでした。あれはポモの制作か。
Y:ポモはケイトラナダとも交流のあるカナダ出身のプロデューサーで、四つ打ちのイメージが強いですが、アンダーソン・パークの“Am I Wrong”を手掛けたりもしている。シニード・ハーネットのアルバムに参加していたトドラ・Tもダンスホールに根を張る人だけど、ソロ作ではアンドレア・マーティンを全面フィーチャーしていたし、ジョルジャ・スミスやマヘリアらを通じてUKクラブ・シーンとR&Bの架け橋役を果たしている。
H : ガラントやNAO(ネイオ)とやってるカナダのスティントもそっち方面というか、サンティゴールドとかケシャを手掛けていた人でR&Bの枠に収まりきらない活動をしているけど、思いっきりメロディアスな曲を作ってくる。今回ふたりともベスト40のプレイリストに入れたガラントの“Julie”も美しいスロウで。あれ、イントロが竹内まりやの“プラスティック・ラヴ”にそっくりというか、音階を変えたような感じで。
Y:あれは狙ってますよね、完全に。

H:ガラントは日本語を学んでいて、宮崎駿監督へのオマージュとも言われる“Miyazaki”という曲も歌うほどの親日家だし、スティントも普通にシティ・ポップとかチェックしてそう。“プラスティック・ラヴ”に関しては、YouTubeを通して世界的に聴かれるようになった…という現象も含めて語り尽くされていますが。それで思い出すのが、2020年のシングルだけど、杏里の“Last Summer Whisper”を使ったジェネヴィーヴの“Baby Powder”。これを収録したアルバム『Division』も2021年に出ましたね。シティ・ポップと呼ばれる往時のジャパニーズ・ポップスがUS R&Bの流れを変えることはさすがにないと思うけど、そうした音楽がサンプリング・ソースの選択肢に加わって、今後もシティ・ポップ使いの曲が出てくる可能性はある(と話していた約1週間後、ザ・ウィークエンドの新作『Dawn FM』にて、亜蘭知子の“Midnight Pretenders“をサンプリングした“Out Of Time”が世間を騒がせた)。

Y:当時のブラコンやAORに影響されて形成されたシティ・ポップが、時を経て本国のリスナーに新鮮に受け止められるのは予想外の嬉しいムーヴメントですね。
H:ですね。あと、プロデューサーで言えばUKのインフロー。リトル・シムズ、クレオ・ソル、アデルと、2021年の話題作に彼が関わっていた。いわゆるR&Bはクレオ・ソルの『Mother』。
Y:クレオ・ソルの新作は自分もお気に入りです。各所で引き合いにされているキャロル・キングの影響はもちろん、“Promises”のイントロにはギャップ・バンド“Yearning For Your Love”を思い出したり。

H:インフローがやってるソーの新作『Nine』も快作だった。サブスクでは期間限定で聴取可能というやつ。自分はフィジカルを買いましたが、ソウル、ファンク、ヒップホップ、アフロビート、インディ・ロック…とジャンル混合で越境型のアルバムだけど、ソーも含めて彼が関わる作品にはR&B的な滋味を感じるなぁ。存在としては90年前後にジョーンズ・ガールズも手掛けたジャジー・B(ソウルIIソウル)を思い出します。あとブルー・ラブ・ビーツ。クワメ・クワテンの息子ナマリ・クワテン(NK-OK)とマルチ奏者のデヴィッド・ムラクポル(ミスター・DM)のユニットで、ブルーノートと契約して活動の幅も広げている。UKジャズの文脈で語られる人たちだけど、フル・フレイヴァのリミックスに参加したり、ルビー・フランシスの新曲“Let Me In”を手掛けて、尖鋭的かつ上質なR&Bを作っている(2022年2月25日にブルーノートから新作『Motherland Journey』を発表予定)。
Y:それこそ当時のジャジー・Bやキャロン・ウィーラーが打ち出したUKブラック(Blak)的な感覚というか、アフリカン・ルーツへの回帰は今の世代のUK勢も受け継いでますね。

H:まさにですね。アメリカの話に戻すと、今、R&Bがホットな街ってLAとカナダのトロントだと思っているのですが、それを象徴するのが、タイ・ダラー・サインとdvsnのコラボ・アルバム『Cheers To The Best』。ミックステープなんでしたっけ。いきなりシルク“Freak Me”のサンプリングで始まるアルバムで、“Wedding Cake”はウェディング・ソングにしてR&B賛歌でもあるという。
Y:“Wedding Cake”はトゥイスタとカニエ・ウェスト、ジェイミー・フォックスの“Slow Jamz”(2003年)へのオマージュでもありましたね。“Slow Jamz”は冒頭で挙げる名前がマーヴィン・ゲイやルーサー・ヴァンドロスだったのが、“Wedding Cake”ではジャギド・エッジやマックスウェルと時代が変わっているのも面白い。今の人たちが思うオールドスクールって、そこなんだっていう。
H:まさに“Slow Jamz“の現代版でありR&B版。トロントが熱いっていうのはdvsnを含めたOVOサウンドのことで、2021年はマジッド・ジョーダンの『Wildest Dreams』は、収録されたシングルも含めてメロウ&スムーズなザ・ウィークエンドって感じで素晴らしいんだけど、いまいち話題にならない。

Y : レーベルのボスであるドレイクが参加した“Stars Align”はザップ“Computer Love”、もとい2パック“Temptations”を引用したりと全編キャッチーで聴きやすいですけどね。
H : OVOといえば、dvsnがサマー・ウォーカーの所属するアトランタのLVRNとマネージメント契約を結んだそうで、そんなところでトロントとアトランタも結びついた。アトランタはR&B、ヒップホップともにホットであり続けている街。で、そのアトランタとLAとトロントが結びついたのが、LA出身のギヴィオンとトロント出身のダニエル・シーザーが客演したジャスティン・ビーバーの“Peaches”。ジャスティンはカナダ出身だけどアトランタと縁深い人で、“Peaches”も“ジョージア・ピーチ“にかけていることは、アッシャーやリュダクリス客演のリミックス(スヌープ・ドッグも客演)を出したことからも明らか。ホットなR&Bが生まれている3都市絡みのアーティストがコラボした曲という点も含めて、2021年を象徴するR&Bヒットと言えるのかもしれない。

 

■女性シンガーの活躍

H:性差でモノを語る時代ではないのかもしれませんが、2020年に続いて女性シンガーの活躍が目立ちました。2021年を代表するR&Bアルバムを並べてみた時にも気付いたのですが、パッと思い浮かぶのは、ジャズミン・サリヴァン、H.E.R.、サマー・ウォーカー、ジョイス・ライス、スノー・アレグラといった人たちの作品で。2021年はほとんど動きがなかったですが、J.コールやファレルと作業している写真をインスタにアップしていたエラ・メイも、2022年には動きがありそうです(エラ・メイは1月28日に、マスタードらが手掛けた新曲“DMFU“を発表)。

Y:いま挙がったアーティストだけでも、すごく粒ぞろいなのがわかりますね。
H:ラッキー・デイのEP『Table For Two』も女性シンガーとのデュエット集だった。あと、女性のエンパワメントを謳ったプロジェクト〈Femme It Forward〉の企画アルバム『Big Femme Energy Volume 1』も女性シンガー/ラッパーが集った作品で、キアナ・レデイ、シニード・ハーネット、アンブレイ、マニー・ロングといったR&Bシンガーたちが参加している。

Y:〈Femme It Forward〉はアルバム以外にコンサートやパネル・ディスカッションを企画して女性同士のエンパワメントを推進している。ノーマニとカーディBの“Wild Side“、キアナ・レデイとケラーニの“Ur Best Friend”といった楽曲も、MVでの表現は過激に取れるけど、根底に流れる意識は共通していると思います。
H : その意味ではサマー・ウォーカー『Still Over It』は象徴的なアルバムで、冒頭でカーディBのナレーションが入って、アリ・レノックスやSZAの客演曲を挿んで、最後にシアラの祈りが登場するという。男と別れた女友達の家に集って慰めたり一緒に怒ったりするような共闘的な作品だった。
Y:LGBTQ絡みでは、マーズや、『Big Femme Energy Volume 1』にも参加した元フィフス・ハーモニーのローレン・ハウレギも自身のセクシャリティを公にしています。マニー・ロングも“Sneaky Link”のMV上で女性同士の関係を描いたり、より自由な表現が可能になってきている。
H:ムニー・ロングのEP『Public Displays Of Affection』は今一番聴いているかもしれない。プリシラ・レネイ名義で2009年に『Jukebox』というアルバムを出していた人で、ベニー・ベランコが制作したエレクトロ・ポップな“Dollhouse”で話題になりました。当時はポップ系のシンガーという印象でしたが、アルターエゴでマニー・ロングと名乗って近年はR&Bシンガーとしての活動が目立ちます。自分は今回ベスト40ソングのプレイリストにアン・マリーと共演した“No R&B”を入れましたが、これ、すごくメロウなR&Bで、声とサウンドだけ聴いてるとウットリしちゃうんだけど、歌詞がサマー・ウォーカー並みに強烈。「Yo Listen」と言って歌い始めた途端にNワード、そしてFワードがくる。美メロと歌詞の落差が凄くて。歌唱スタイルも含めてラッパーのメンタリティに近い。“No R&B”って、「R&Bといって連想するような甘い曲じゃないよ」と。でも、タイトルに“R&B”という言葉が入っていることで、それがすごくフックになっている。

Y:恋人を奪った相手にやる仕打ちは、いわゆるR&Bの甘い世界じゃない、と。彼女はリアーナ“California King Bed”やフィフス・ハーモニー“Worth It”などを手がけた売れっ子ソングライターとして10年以上活躍しているので、とにかくストーリーテリングが上手い。リスナーの耳に留まるよう変わったタイトルをつけるのが好きだとインタヴューでも言っていたので、“No R&B”もまさにその手法ですね。今、“Hrs And Hrs”がTikTokをきっかけにバイラル・ヒットしていて、オーガスト・アルシーナを迎えたリミックス・ヴァージョンも出たりとジワジワ話題になっている。サマー・ウォーカーの新作と並んでお気に入りです。

H:それにしてもサマー・ウォーカーの新作、ぶっちゃけましたよね。
Y:ロンドン・オン・ダ・トラックとの破局がさらに彼女のキャリアを後押しした感もありますね。私生活のドラマを歌でブルージーにさらけ出していく様はメアリー・J.ブライジとも被ります。『Still Over It』はまさに現代版メアリー・Jの『My Life』と言えるのかも。見た目のギャルっぽさとディープな楽曲とのギャップも面白い。

H:本人もかつてのメアリー・J.と自分を重ね合わせているみたいなことを言ってますね。痛みや苦しみを燃料にして歌っていくタイプ。メアリー・J.、あと、70年代に不倫ソング、復讐ソングを歌っていたミリー・ジャクソン、シャーリー・ブラウン、バーバラ・メイソンあたりにも通じている。00年代以降だとジャグアー・ライトとかも似たタイプだけど、こういうディープな歌の世界って良い意味で何も変わってないなと改めて思います。そういう意味で、サマー・ウォーカーはサザン・ソウルの超正統派な後継者とも言える。もちろん音は現代のサウス、トラップ以降のそれなのだけど。

Y:彼女は社会不安障害を抱えていて、人前に出るのがあまり得意じゃない。そういった飾らないナイーヴさも現実味があって、若いリスナーが感情移入しやすいのかもしれません。内省的なメロディだから日本だと想像しづらいけど、サマー・ウォーカーの楽曲はUSのライブだと大合唱される。やはりR&Bは生活密着型のジャンルなんだなあと改めて思います。SZAやジェネイ・アイコも近いタイプのアイコンですね。
H:生活密着型という意味ではジャズミン・サリヴァンもメアリー・Jを経由して昔の泥臭いソウルに辿り着くようなディープなシンガー。実際にソングライターとしてメアリー・J.に楽曲提供していますが、デビュー時の“Bust Your Windows”みたいな仕返しソングから、あまり口にはしたくないタイトルだけど“アバズレ物語”を謳った最新作『Heaux Tales』の歌世界まで一貫している。

Y: アバズレ物語…昔の邦題だったらあり得そう。ジャズミンやサマー・ウォーカーの作品も含めて、今年の女性シンガーの作品は共闘モノが多い。アリ・レノックスとクイーン・ナイジャの“Set Him Up”は、お互い関係を持っているのが同じ男性だと発覚して喧嘩するのかと思いきや、女性同士が手を組むという共闘ストーリーでした。
H : 一方で、男女デュエットで、ジャクイースとクイーン・ナイジャの“Bed Friend”っていう、いかにもR&Bらしいセフレ・ソングもある。
Y:こういう生々しいトピックもR&Bらしさですね。
H:そうした中で、キーシャ・コールがロン・フェアと組み直した新曲“I Don’t Wanna Be In Love”を出してきて。アシャンティとのVerzuzの後にリリースした曲ですが、彼女も生々しい歌を歌ってきた人。
Y:メアリー・J.フォロワーの代表格。00年代初期の再評価の気運が高まっている今、アシャンティやキーシャの世代が活動しやすくなってるのかも。Verzuzがその役割を大きく担っているかと。あと、今年ソロ活動を始めたクロイー(・ベイリー)は、ビヨンセにも通じる女性エンパワメントなシングル“Have Mercy”を出して、クロイー&ハリーの時とは全然違う一面を見せました。クロイーとノーマニはR&Bの括りに限らずダンス・ポップ的なアプローチで象徴的なアイコンになっていきそう。

H : ティナーシェの新作『333』もダンス・ポップ的な要素があるアルバムでした。ケイトラナダ、あと、スターゲイトも関わっている。
Y : その並びで、ドーン・リチャードの『Second Line』やロシェル・ジョーダンの『Play With The Changes』も好作でした。ダンス・ミュージックの要素も強いけどヴォーカル作品として成り立っている。R&Bという枠に収めるのが適しているかわからないですが、こういった作品もR&Bリスナーの人たちに届いてほしい。ドーンは地元ニューオーリンズをエレクトロ目線で切り取るというコンセプトが良かった。

H:ドーンは未来形のセカンドラインというか、ディープなニューオーリンズ・ルーツとエレクトロなダンス・ミュージックが合体するという面白さ。ロシェル・ジョーダンのアルバムは今回、トキモンスタのレーベル、ヤングアートから出ていますね。90年代のUKレイヴ・カルチャーへのオマージュを謳っていて、ニュー・ジャック・スウィングを現代的に解釈した“All Long”は自分もよく聴きました。ヴァンジェスも90年代R&B風でありながらダンス・ミュージックやエレクトロニカなどがベースにあって、フロエトリー“Say Yes”のトンがったリメイクをトキモンスタとやったのも納得。彼女たちが所属するKeep CoolのモットーもLeft of Centerだし、オーセンティックでありながら尖鋭的という。

Y:まさにモットー通りの作品ばかり! ダンス・ミュージックでいうと、アンバー・マークはシングル曲のクオリティが高いだけでなく、リミックスがジャングルや南アフリカのアマピアノだったりと、ことごとくツボを突かれました(アンバー・マークは1月28日にファースト・フル・アルバム『Three Dimensions Deep』をリリース)。
H:その路線で行くとUKのレイ・ブラック(Ray BLK)もアフロ・ポップみたいなのをやってる。

Y:彼女は生まれがナイジェリアですしね。ダンスホールの定番“Diwali”リディムを敷いた“Over You”ではビーニー・マンを招いたりもしていました。ウィズキッドのヒット曲“Essence”でジャスティン・ビーバーとも共演したテムズも、活動拠点がイギリスで生まれはナイジェリア。アフロビーツとR&Bの中間を行くスタイルで来年はさらにブレイクしそうです。

■R&B Is Not Dead

H : 第64回グラミー賞ノミネート作品にも触れたいですが、その前にSoul Train Awards 2021のノミネート/受賞者をチェックすると、ジャズミン・サリヴァン、H.E.R.が強くて、男性だとブラスト(Blxst)やトーン・スティス、タンク、クリス・ブラウン、あと、ウィズキッドが目立つ。全体的にやはりRCA系のアーティストが多いのですが、この1年くらいはこんな感じだったかなと。で、Soul Train Awardsといえば、毎年恒例のR&Bシンガーによるマイクリレー〈Soul Cypher〉。ヴェテランや中堅に混じって新進のアーティストがひとりくらい出てきて、それが今後のシーンを見るうえでも参考になるのですが、2021年はトーン・スティスが出ましたね。彼はSJ3というヴォーカル・グループ時代から数えるとそこそこキャリアがあるのですが、この人は次世代のクリス・ブラウンだと思っています。
Y:ソロで知られるきっかけにもなった2018年の“Light Flex”のときは、まさにその路線での売り出し方でしたね。トーン・スティス以外に今回の〈Soul Cypher〉で一緒だったのは、ミュージック・ソウルチャイルド、エル・ヴァーナー、コリン・ホーソーン、ジャック・ロス。例年キュレーションを務めていたエリカ・バドゥがDナイスに代わり、トラックはアリーヤの“Rock The Boat”を使ったチルなマイク・リレー。トーン・スティスは歌もルックスも良くて踊りも上手だし、もっと爆発的に人気出ても良さそうなんですが。

H:軽やかでスムーズなヴォーカル・デリバリー。さっきも言いましたが、トーン・スティスはH.E.R.人脈がガッツリ関わってますね。で、H.E.R.が主催する〈Lights On Festival〉にも、もちろん呼ばれてて。このフェスは「R&B Is Not Dead」っていうスローガンのインパクトも大きいのだけど、現行R&Bの空気感を丸ごとパッケージしてますね。
Y:他の大きいフェスがスロウバック色強めなのに対して、〈Lights On Festival〉はまさに今のR&Bなラインナップ。このチケットがソールドアウトするという事実がR&Bの盛り上がりを表しています。

H:R&Bフェスとしては完璧。マニー・ロングやマーズも呼ばれているし、今一番行きたいフェスです。日本からだと今の状況ではハードルが高いですが…。もちろんEssence Fest.も外せないですけどね。で、トーン・スティス以外だと男性シンガーは…
Y:やっぱりラッキー・デイの勢いがすごかったですね。客演も良い仕事が多くて、Spotifyで〈feat. Lucky Daye〉というプレイリストでまとめを作ったくらい。ベイビーフェイスやEW&Fと絡んでも違和感がないし、これから世代を超えて愛される存在になりそう。2019年のEssence Fest.でインタヴューを見た時に感じた、人柄の良さが滲み出ているなぁと。
H:素朴な感じでしたよね。これはみんなに好かれるだろうなと。地元がニューオーリンズなのでリラックスしていたのかも。
Y : あと、エリック・ベリンジャーに代表されるようなハードコアR&B路線だと、ヴィドとトレヴァー・ジャクソンも濃厚なアルバムを出しました。どちらも00年代前半のオマリオンみたいな雰囲気がある。
H:オマリオンといえばサマー・ウォーカーのアルバムに参加してましたけど、今や彼も再評価される側の人なんですね。エリック・ベリンジャーは自分で曲を書いて歌うという意味で“Ne-Yo以降”感が強かったんだけど、最近はタンクぽいハードコアR&B然としたシンガーという印象が強い。今回グラミー賞の「Best Progressive R&B Album」にノミネートされたアルバム『New Light』は、ブランディ、セヴン・ストリーター、ティードラ・モーゼス、キエラ・シェアードといったゲストも含めて、R&Bの様式美を敷き詰めた作品だった。
Y:エリック・ベリンジャーは多作すぎて自分も見落としがちだったんですが、今回はメチャクチャいいですね。グラミー賞の分類で「Best Progressive R&B Album」になるのが少し違和感ありましたが。

H:そう。ハイエイタス・カイヨーテ、コリー・ヘンリー、テラス・マーティン、マセーゴなどと並んでいるのが不思議。極めてストレートなR&B作品で、「Best R&B Album」にノミネートされているジョン・バティステの『We Are』と入れ替えてもいいんじゃないかと思うくらい。だってタンクの路線だから。そのタンクもマックスウェル版“This Woman’s Work”のリメイクみたいな“Can’t Let It Show”を出しましたが、彼は徹底してR&Bというジャンルにこだわりながら20年くらいスタイルを全く変えずにフロントラインで歌っている。なにしろレーベル名がR&B Money。しかも、引退作になると言われている次のアルバムもそのタイトルで出すとか。
Y: タンクは片耳が難聴になってしまったという告白もありました。病状次第で引退が回避されると良いのですが。今年SNSで話題になった、テヴィン・キャンベル“Can We Talk”を歌う〈#canwetalkchallenge〉はタンクが発起人。名指しでヴェテランのシンガーを呼びかけたりして、改めてクラシックへの再評価を促した。R&Bシーン全体を盛り上げたいっていう思いがすごく強い人なんですよね。

H:テヴィン・キャンベルのあの無垢な歌声は歌唱力があっても真似しづらいけど、歌あってのR&Bということを思うと実りある企画ですよね。タンクは、当初イキリまくっていたジャクイースに対しても優しく接してましたね(笑)
Y:愛すべき僕らのジャクイース(笑)。そういえば最近はリリースも大人しいですね。
H:クイーン・ナイジャとの“Bed Friend”、あと客演がいくつかあって、ミックステープ・シリーズの新作『QueMix 4』は出していましたが、2022年にはニュー・アルバムが出るかもしれません。そう思うと、クリス・ブラウンの方が大人しめだった気がするんですけど。
Y:H.E.R.の“Come Through“やマリオとの“Get Back”とか客演はありましたけど、個人名義では確かに出ていない(と話していたら、年明け早々クリス・ブラウンの新作発表がアナウンスされ、シングル“Iffy”をリリース)
H : コーシャス・クレイやUKのサム・ヘンショウといったオーガニックなシンガーはどうでしょう?
Y:コーシャス・クレイは日本独自盤がP-Vineから出たり、サム・ヘンショウはトヨタのCMソングに“Church”が起用されましたね。サムは今年に出たキーヨン・ハロルド客演の“Still Broke”がすごく好きで、今回プレイリストにも入れました。インフローやクレオ・ソルとはまた違う、実にUKらしいオーセンティック・ソウル。

H:BJ・ザ・シカゴ・キッドやPJモートンにも通じる感じの。そういえばグラミー賞の「Best Traditional R&B Performance」に、BJとPJモートン、ケニオン・ディクソン、チャーリー・ビリアルがコラボしたサム・クック“Bring It On Home To Me”のカヴァーがノミネートされてますね。ドラマ『あの夜、マイアミで』へのオマージュなのですが、これはまさにトラディショナルなR&B。
Y : 楽曲の出来栄えとしてはプレイリストに入れたかったのですが、カヴァー曲ということもあり断念。ケニオン・ディクソンのアルバム『Expectations』もヴォーカル・テクニックが映えた良作でした。

H:ドラマティックで美しい。自分も結構聴いてました。アレックス・アイズレーとかV.ボーズマンといった客演陣も良くて。この人もBJ・ザ・シカゴ・キッドに通じるところがある。あと、ディクソンといえば、ロック・ネイションのディクソン(Dixson)が出したEP『Darling』もBJやビラルあたりの流れを汲む佳作でした。で、思っていたのが、ここ数年ロック・ネイションから出るR&Bアルバムが漏れなく快作だという。2021年はスノー・アグレラの『Temporary Highs In The Violet Skies』もそうだし、マエタのEP『Habits』、前年作の拡大版だけどゴスペルのインフィニティ・ソングの『Mad Love(Deluxe)』も出た。地味だけど滋味深いという。2021年のEssence Fest.(配信)でも、〈Essence After Dark〉にロック・ネイションのショウケースという形でアンブレイ、マエタ、インフィニティ・ソングがトーク&ライヴで出演していて(ホストはラプソディ)、そういう仕込みもされているんだなと。
Y:こういったレーベル・ショウケースをEssence Fest.のラウンジとかで生で見られたら最高なんですけど。
H:Essence Fest.は、R&Bに関しては信頼度100%ですから。個人的にはアンブレイの活躍に期待しています。H.E.R.の曲も書いていたニューオーリンズ出身の若き才人。あと、ソウル・ミュージックとドリル・ミュージックの融合を謳うシカゴのソンタ。以前から作品を出していますが、ティンクとの“Worth It”を収録したアルバム『Chocolit』のメロウネス、エモーショナルな美声にやられました。

Y:ソンタは林さんのプレイリストで聴くまでノーマークでした。同作に参加しているアン・マリーも新世代のストリートR&B。もうひとつ頭抜けたら人気が出そうです。

 

■ヴェテラン・アーティスト、ゴスペルなど

H :さっきキーシャ・コールのところで話が出ましたが、Verzuzはヴェテラン・アーティストの元気な姿が見られるのが良いですね。ただ、2020年はロックダウンでみんな自宅に篭って、どこにも行けないことで一体感みたいなものがあったけど、今年はもう外に出てるでしょって感じで、Verzuzも普通のライヴ中継みたいになって、そこまで熱くなれなかった。なんとも勝手ですけど。
Y:普通に有観客のコンサートじゃないかっていうツッコミどころはありました(笑)。でもVerzuzに合わせて新曲をリリースしたりと、完全にビジネス・パターンとして出来上がっているのがすごい。あと、DJキャシディのヴァーチャル・マイク・リレー(Pass The Mic)もヴェテランに再びスポットを当てるのに一役買っている。

H:アイズレー・ブラザーズvs EW&FのVerzuzが終わった瞬間に、アイズレーはスヌープ・ドッグを招いたステッピン・ソング“Friends & Family”を出しましたよね。あれ、クレジットを曖昧にしてますが、昔R.ケリーが作っていた曲のはずです。EW&Fも先に触れたラッキー・デイとの曲が出ました。あと、Verzuzとは関係ないけど、2021年はやはりジャム&ルイス、そして個人的にヴェテランの優勝アルバムはストークリーの『Sankofa』です。
Y:変わらぬ歌声、それでいて新しいサウンド・プロダクションでも全く違和感がない。そういう意味でストークリーは年齢も立場も違うけどチャーリー・ウィルソンにも近い存在になっているかも。ファンの喜ぶものを知って美味しいものを提供してくれる。その感じでいうとケムもそう。路線はずっと同じだけど古く聞こえない、R&Bらしいアイコンの在り方ですよね。

H:H.E.R.とのプリンス・オマージュっぽい曲も含めて、今回のストークリーのアルバムは聴き込めば聴き込むほど味わいが増す。ふたりともプレイリストに選んだスヌープ・ドッグとの“Jeopardy:Verbalize“はシルク・ソニック級のスウィート・ソウルだったし、2020年に出したシングルも含めてどれも完成度が高い。歌声も30年前と変わらず、伸びやかで艶やか。
Y:ソロになってから、より若返っているような気すらします。ストークリーといえばアフター7の新作『Unfinished Business』で客演した“The Day”も自分はベスト・ソングに選びました。

H:アフター7はメルヴィン・エドモンズの死を乗り越え、前作で加わったメルヴィンの息子ジェイソンも抜けて、一時EW&Fにいたダニエル・マクレインを迎えての新作。メンバーが変わっても彼らを追ってきたファンにとってはたまらない仕上がりでしょう。ここらへんは、現行R&B云々という視点は抜きにしてアフター7的な様式美を楽しみたいです。そういう意味では、アフター7とも縁深いダリル・シモンズの制作曲を含むケニー・ラティモアの新作『Here To Stay』も彼らしいソウルネスが貫かれた手堅いアルバムだった。あと、シルクのゲイリー“リルG”ジェンキンスのソロ曲“That’s My Baby”が、クリセット・ミッシェルfeat.Ne-Yoの“What You Do”そっくりなんですが、たまらなかった。ふたりともベスト40のプレイリストに選んでる!
Y:最高だからしょうがない(笑)。あとラヒーム・デヴォーンとアポロ・ブラウンとのコラボ・アルバム『Lovesick』はビートもかっこよくてお気に入りでした。彼もザ・R&Bな人ですよね。
H:ラヒームはキース・スウェットとデュエットしたくらいなので。“Can’t Nobody”ですね。こういうのはもう理屈じゃない。
Y:ジャケットのフォントが“Nobody”を収録している96年のキースのアルバムをオマージュしていて、それだけで興奮してしまいました。世代は変わりますが、ヴェテラン女性シンガーだとダイアナ・ロスが15年ぶりとなる新譜を出しました。

H:ダイアナも、昔からだけど、R&Bとかそういう次元を超えた人ですね。“Thank You”は懐かしいモータウン・フレイヴァーの曲でトロイ・ミラーが制作に関わっていたけど、チャカ・カーンも同じトロイ・ミラーが手掛けた新曲“When The Time Comes”を映画版『ジェイミー!』のサントラで披露していて。こちらは80年前後のチャカやルーファスのアップデート版という感じで、かなり好きでした。

Y:あと、リーラ・ジェイムスの『See Me』とアンソニー・ハミルトンの『Love Is The New Black』は、ふたりのポジション的にも対になるような作品に感じました。
H:“Complicated”はソウル味溢れる曲で、まさに女性版アンソニー・ハミルトンと思っていたけど、リミックスで両者が共演して我が意を得たりという感じでした。シルク・ソニックも用いていたブーツィーズ・ラバー・バンドの“I’d Rather Be With You”をモチーフにしたというか、チャイルディッシ・ガンビーノ“Redbone“をよりR&Bマナーにして歌ったような曲。

Y:プロデュースはレディシやケムでお馴染みのレックス・ライドアウトですね。ドネル・ジョーンズの新作『100% Free』も2021年作。先行シングルの“Karma“は良かったですが、随分とっ散らかった不思議なアルバムでした。H:ドネルのアルバムは、ひたすらシンセが鳴り続けるラストの瞑想曲“Meditate”とか、エキセントリックでよくわからなかったというのが正直なところです。本当に自由すぎる。でも、“Karma”はスタイリスティックスの“Payback Is A Dog”を使ったシカゴ・ステッパーズの曲で、リミックスではデイヴ・ホリスターとカール・トーマスに加えてジャクイースやRLも参加するというお祭りもありました。ジャクイースを除くと、まさにレイト90s〜アーリー00sな面々なのですが、そういえば、ドネル・ジョーンズ、カール・トーマス、デイヴ・ホリスターのシカゴ出身者同士がザ・シャイ(The Chi)というヴォーカル・ユニットを始めるとアナウンスされましたね。

Y:LSGやTGTと並ぶR&B三銃士、楽しみです。ジョデシィも再結成がアナウンスされたので、来年は男性シンガーの巻き返しがあるかも? ジョジョはソロでも新曲“Official”を出していますね。
H:ジョジョで思い出しましたが、女性シンガーのジョジョの方は、アリーヤのブラックグラウンド原盤作のストリーミング解禁と同時に、旧作がようやく正規で配信されるようになりました。ジョジョは旧作の権利をブラックグラウンドに握られて、仕方なく過去作をリレコーディングまでしたのに、このタイミングでしれっと出されて、リスナーとしても複雑な気持ちになります。
Y:ジョジョやトニ・ブラクストンらがこの件に触れない中で、解禁に前向きだったのはタンクくらいでしたね。
H:ちょっとネガティヴな話になりますけど、ザ・ウィークエンドを招いてアリーヤの新曲としてリリースされた“Poison”は、曲そのものは悪くないけど、声のピッチが変だし、故人の声を加工してまでアリーヤの“新曲”を聴きたいかと言われると、もうそういう気持ちはないというのが正直なところ。アリーヤの思い出は心のうちにそっとしまっておきたい。ザ・ウィークエンドのアルバムの中で故アリーヤの声を使いましたというくらいなら、ちょっと興奮したかもしれないけど。
Y:ブート感が否めないのと、ブラックグラウンド運営への疑問も相まって複雑な気分です。
H : ゴスペルは、正直、2021年はあまりチェックできていなくて、映画『Space Jam:A New Legacy』のサントラに収録されたリル・ベイビーfeat.カーク・フランクリンの“We Win”を繰り返し聴いていた感じです。あのクワイアの高揚感。チャート的にはシーシー・ワイナンズの“Believe For It”が上位をキープしていて、その後カニエ・ウェスト『Donda』の収録曲が上位を席巻して…みたいな感じでしたが、R&B的に響くものは少なかったかも。

Y:“We Win”は最高でした。あとは、ジョナサン・マクレイノルズとマリ・ミュージック(ジョニー&マリ)のライヴ『Johnny & Mali:Live In LA』も愛聴盤です。一時行方不明説が出回ったケリー・プライス(数日後に無事が確認)のEP『Grace』もゴスペル作でしたね。2022年にはウォールズ・グループあたりが新作を出してくれると個人的には嬉しいです。

H : ジョニー&マリは“Adulting”をプレイリストのベスト40に選ぼうかと迷いましたが、これはEssence Fest.とかでライヴを観てみたいですね。ゴスペルのアルバムではNo.1です。グラミー賞の「Best Gospel Album」にもノミネートされてますね。あと、「Best Contemporary Christian Music Performance/Song」には“We Win”と一緒に、トーレン・ウェルズを迎えたH.E.R.の“Hold Us Together(Hope Mix)”がノミネートされています。これを含めてH.E.R.は8部門ノミネート!

Y:H.E.R.は全てのジャンルで強いですねー。個人的には1部門でもジャズミンに受賞してほしい。
H : 2022年は誰の活躍、新作リリースが楽しみですか?
Y: 楽しみなアルバムとしては、SZA、アンバー・マーク、クロイー(・ベイリー)、メアリー・J.ブライジでしょうか。自然と女性アーティストだらけになってしまいましたが。
H:アンバー・マークの初フル・アルバムには期待したいですね。あと、個人的にはエラ・メイがどうくるか(先述の通り、アンバー・マークはアルバムをリリース、エラ・メイも新曲を発表)。楽しみは尽きません。

■第64回グラミー賞

※R&B関連のノミネート作は以下の通り

★Best R&B Performance(For new vocal or instrumental R&B recordings)
・Lost You / Snoh Aalegra
・Peaches / Justin Bieber Featuring Daniel Caesar & Giveon
・Damage / H.E.R.
・Leave The Door Open / Silk Sonic
・Pick Up Your Feelings / Jazmine Sullivan

 ★Best Traditional R&B Performance(For new vocal or instrumental traditional R&B recordings)
・I Need You / Jon Batiste
・Bring It On Home To Me / BJ The Chicago Kid, PJ Morton & Kenyon Dixon Featuring Charlie Bereal
・Born Again / Leon Bridges Featuring Robert Glasper
・Fight For You / H.E.R.
・How Much Can A Heart Take / Lucky Daye Featuring Yebba

 ★Best R&B Song(A Songwriter(s) Award. A song is eligible if it was first released or if it first achieved prominence during the Eligibility Year. (Artist names appear in parentheses.) Singles or Tracks only)
・Damage / Anthony Clemons Jr., Jeff Gitelman, H.E.R., Carl McCormick & Tiara Thomas, songwriters (H.E.R.)
・Good Days / Jacob Collier, Carter Lang, Carlos Munoz, Solána Rowe & Christopher Ruelas, songwriters (SZA)
・Heartbreak Anniversary / Giveon Evans, Maneesh, Sevn Thomas & Varren Wade, songwriters (Giveon)
・Leave The Door Open / Brandon Anderson, Christopher Brody Brown, Dernst Emile II & Bruno Mars, songwriters (Silk Sonic)
・Pick Up Your Feelings / Denisia “Blue June” Andrews, Audra Mae Butts, Kyle Coleman, Brittany “Chi” Coney, Michael Holmes & Jazmine Sullivan, songwriters (Jazmine Sullivan)

 ★Best Progressive R&B Album(For albums containing at least 51% playing time of newly recorded progressive vocal tracks derivative of R&B)
・New Light / Eric Bellinger
・Something To Say / Cory Henry
・Mood Valiant / Hiatus Kaiyote
・Table For Two / Lucky Daye
・Dinner Party: Dessert / Terrace Martin, Robert Glasper, 9th Wonder & Kamasi Washington
・Studying Abroad: Extended Stay / Masego

 ★Best R&B Album(For albums containing at least 51% playing time of new R&B recordings)
・Temporary Highs In The Violet Skies / Snoh Aalegra
・We Are / Jon Batiste
・Gold-Diggers Sound / Leon Bridges
・Back Of My Mind / H.E.R.
・Heaux Tales / Jazmine Sullivan

 

■20 Best R&B Albums of 2021

(順不同:フル・アルバムおよび収録時間30分以上のEP)

★Yacheemi
・Sinead Harnett / Ready Is Always Too Late
・Summer Walker / Still Over It
・Joyce Wrice / Overgrown
・Jazmine Sullivan / Heaux Tales
・H.E.R. / Back Of My Mind
・Snoh Aalegra / Temporary Highs In The Violet Skies
・Vanjess / Homegrown
・Nao / And Then Life Was Beautiful
・Cleo Sol / Woman
・Leela James / See Me
・Silk Sonic / An Evening With Silk Sonic
・Stokley / Sankofa
・Anthony Hamilton / Love Is The New Black
・Shelly FKA DRAM / Shelly FKA DRAM
・Phabo / Soulquarius
・dvsn & Ty Dolla $ign /Cheers To The Best Memories
・Tone Stith / FWM
・Vedo / 1320
・Jon Batiste / We Are
・Raheem Devaughn & Apollo Brown / Lovesick

★林 剛
・H.E.R. / Back Of My Mind
・Silk Sonic / An Evening With Silk Sonic
・Summer Walker / Still Over It
・Joyce Wrice / Overgrown
・Sinead Harnett / Ready Is Always Too Late
・Vanjess / Homegrown(Deluxe)
・Jazmine Sullivan / Heaux Tales
・Cleo Sol / Woman
・dvsn & Ty Dolla $ign /Cheers To The Best Memories
・Sonta / Chocolit
・Jon Batiste / We Are
・Snoh Aalegra / Temporary Highs In The Violet Skies
・Leela James / See Me
・Stokley / Sankofa
・Shelly FKA DRAM / Shelly FKA DRAM
・Phabo / Soulquarius
・Eric Bellinger / New Light
・Durand Jones & The Indications / Private Space
・Jenevieve / Division
・BeMyFiasco / Where I Left You

※参考までに


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