朗読版*森のおとしもの
夏秋レイ 作
「森のおとしもの」は、クラブハウスで読み聞かせの題材になっています♪
そのため、現在 このページは ト書き付きの 台本となっております(2021/08/22~)
※もとの童話のままのテキストは、ト書き付き台本の下に付記しています
※リスの部分の、リスときつねの台詞・文章を追加しました(2021/10/18)
※月の光の精は、台詞は一人ですが、複数の雰囲気で行ってください。このシーンは、約5-6分間かけ、BGMを味わいながら時間をたっぷりとるような呼吸とテンポで、他の場面よりだいぶゆっくりめで進行してください!(2021/12/09)
※フクロウ登場部分とリス登場部分の順番については、前後入れ替えはアリですが、クラブハウスイベントでは物語原作通りで行きます。
※12月のクリスマスイベントでは、カモシカの台詞が変更になります。よろしくお願いいたします。(2021/12/09)
前奏 → 『森のおとしもの』 → 配役発表
-+-+-+-+《 BGM開始・導入効果音 》+-+-+-+-
☆*゚・*:.・*:..。o♬*゚・*:..。o♬*゚・*:..*゚☆
《ナレーション》
きつねのぼうやが、たったひとりで 森の夜みちを 歩いていました。
うつむいたまま、しきりに ひとりごちながら。
《きつね》
「ええと、あれはこの辺だっけ? きのう ぼくが見つけたもの。
きのう見つけた ものはどこ?」・・・・・・
☆*゚・*:.・*:..。o♬*゚《効果音》・*:..。o♬*゚・*:..*゚☆
《ナレーション》
フクロウが一羽、かばの木の ウロに とまっていました。
おおきな お目目を 半分閉じて、きつねのようすを うかがっています。
きつねのぼうやは、フクロウに たずねました。
《きつね》
「もしもし、おじさん。あれはどこ?」
《フクロウ》
「あれ、とはなんじゃな?」
《ナレーション》
フクロウが ききかえしました。
《きつね》
「ええとね、ぼくがきのう 見つけたもの」
《フクロウ》
「ホッホー。一体何を 見つけたんじゃね?」
《ナレーション》
フクロウは 目をまるくして たずねました。
《きつね》
「きらきら光る おとしもの」
《フクロウ》
「はてさて、それは 金貨かね?」
《ナレーション》
フクロウは いいました。
《きつね》
「金貨は、きらきら 光るもの?」
《ナレーション》
きつねのぼうやが たずねました。
《フクロウ》
「あぁもちろんさ。そいつは丸くて、そしてちょっと 重いんだ」
《きつね》
「そうか。それじゃ、あいつは金貨だ。きっと金貨に ちがいないや」
《ナレーション》
きつねのぼうやは、はしゃぎました。
《フクロウ》
「だがなあ。・・・
金貨なんて この辺りに さっぱり 落ちてはいなかったがね…」
《ナレーション》
フクロウは 残念そうに そういって、” ホー. . . ” とひとつ ためいきをつくと、ふたたび 目を閉じて しまいました。
《きつね》
「わかったよ、おじさん。ありがとう」
《ナレーション》
きつねのぼうやは お礼をいって、またとぼとぼ 歩いていきました。
☆*゚・*:.・*:..。o♬*゚《効果音》・*:..。o♬*゚・*:..*゚☆
少し行くと、クルミの木を するすると降りる リスに合いました。
《きつね》
「もしもし おばさん。あれを知らない? ぼくがきのう、見つけたもの」
《リス》
「はてさて。いったい何でしょう?」
《きつね》
「ええっと、それが分からない。だけど とにかく きらきら光る、だれかのだいじな おとしもの」
《リス》
「きらきら 光るだって? そうかい。それじゃぁ それは、きっと宝石!」
《ナレーション》
リスは 目をかがやかせました。
《リス》
「クルミの味する ルビー! ナッツの においのする 真珠[しんじゅ]!」
《ナレーション》
リスは 胸のまえで 手を組み、夜空を見あげて いいました。
《きつね》
「すごいなあ。それじゃあ ぼくのさがしものは、きっと そいつら なのかもね!」
《ナレーション》
きつねのぼうやが さけびました。
《きつね》
「それで おばさん もいちどきくけど、そいつらを さがすためには、ぼくはどこまで 行ったらいいの?」
《ナレーション》
きつねのぼうやが もういちど たずねると、リスは首を かしげながら、こまったようすで こういいました。
《リス》
「そうさねぇ... じつをいうと あたしも、それをじっさい 見たわけじゃあ ないんだよ」
《ナレーション》
そうしてあたまを かきながら、リスはしばらく 森をあちこち 見わたしておりましたが、ようやくひとつ うなずくと、ささやくように きつねのぼうやに こう言いきかせました。
《リス》
「わかった、ぼうや。これは はっきりしてること。宝石なんて、このあたりには ひとつも 落ちちゃ いなかったわ!・・・そう。ひとつもね」
《ナレーション》
それをきくと、きつねのぼうやは、がっかりして つぶやきました。
《きつね》
「そう…わかったよ ありがとう、おばさん」
《ナレーション》
きつねのぼうやは お礼をいって、また とぼとぼと 歩いていきました。
☆*゚・*:.・*:..。o♬*゚《効果音》・*:..。o♬*゚・*:..*゚☆
《ナレーション》
森の奥深い 山あいに はいると、ヒゲを生やした 一頭のカモシカが、しげみを行き来 していました。
もぞもぞ 草をはんでいます。
《きつね》
「もしもし おじいさん。あなたは知らない? ぼくが きのう見つけた おとしもの」
《ナレーション》
きつねのぼうやは どなりました。けれども、カモシカのおじいさんは、耳が遠くて きこえません。
《きつね》
「おじいさん! ねえねえ知らない? ぼくの見つけた お と し も の!」
《ナレーション》
きつねは もっと 大きな声で どなりました。
《カモシカ》
「おや! こんばんは、ちいさいぼうや。どうしたんだね、こんな夜ふけに?」
《ナレーション》
カモシカはやっと、ほそながい顔を あげました。
《きつね》
「ぼくが みつけた、だれかの大事な お と し も の!…」
《カモシカ》
「え? ほう、おとしもの。おとしものが どうしたって?」
《きつね》
「おじいさん 知らない? 見なかった?」
《カモシカ》
「いやはや。さてね? いったいそれは、どんなものだい?」
《きつね》
「きらきら光る、きれいなの」
《カモシカ》
「え? キラキラ光る、とな? うぅん…。
キラキラと 光るといえば、それはもう、クリスマスの 金と銀の かざりものの あかりだよ。あちこちで 点っては消え、点っては消え…。
それが サンタクロースを そりに乗せて走る、わたしたちの しんせきを、じつに ここちよく さそうんだ。」
―― 《ナレーション》しんせきというのは、トナカイのことでした。
《カモシカ》
「しかしだね…」
《ナレーション》
カモシカのおじいさんは、考え込むと、しゃがれた声で いいました。
《カモシカ》
「街では あちこちで きらきら にぎわっているというのに、この森では さっぱりだ。どこもさびしい 枯れ葉 や 落ち葉 ばかりでな。そうさ、そんな キラキラしたもの、この森の中なんぞで 見おぼえないがね…」
《きつね》
「そうですか。どうもありがとう」
《ナレーション》
きつねは しょんぼりして、またとぼとぼ 歩いていきました。
☆*゚・*:.・*:..。o♬*゚《効果音》・*:..。o♬*゚・*:..*゚☆
いつしか、川べりにさしかかりました。
ふとったカワウソの おばさんが、きつねのぼうやの 目の前を、よちよち走って いきました。
《きつね》
「もしもし、おばさん」
《ナレーション》
きつねのぼうやが 呼びとめました。
《カワウソ》
「なんだね? あたしゃ いそがしいのよ、用事があるなら、はやくお言い」
《きつね》
「きらきら光る、おとしもの。だれかのおとしもの、見なかった?」
《カワウソ》
「きらきら光る、おとしものだって? さてね。・・・だれのものだか わからない、おとしものの ことなんか、こう いそがしくっちゃ、なにも おぼえちゃ いないけど」
《ナレーション》
カワウソの おばさんは いいながら、あごに指を あてました。
《カワウソ》
「だけども、それはいったい どういう風に、光るもの だったのかい?」
《ナレーション》
きつねのぼうやは まぶしそうに、目をほそめながら いいました。
《きつね》
「それは たいそう うつくしく、きらきら、きらきら」
《カワウソ》
「まあ…。」
《ナレーション》
カワウソの おばさんは、ふと 空を みあげました。そして振り返ると、ぼうやの顔を のぞきこんで いいました。
《カワウソ》
「こう 見えてもね。わたしゃ けっこう、おしゃれ なんだよ」
《ナレーション》
それから、つんとはった 胸を指さして、いいました。
《カワウソ》
「ここにつける 金ボタン、まえからほしいと 思っていたのさ。もしも、それが 金ボタンなら、どんなにか あたしに 似合うだろう。・・・
・・・
…だけど そんな高価なもの この森になんて 落ちちゃあ いないものね。
・・・
そう、落ちてなんか いや しないのさ!」
《ナレーション》
カワウソの おばさんは、そういって 首をふり、ビロードのような しっぽをひるがえすと、また湖の方へと、かけ出して いきました。
《きつね》
「わかったよ。ありがとう、ひきとめて ごめんなさい」
《ナレーション》
きつねのぼうやは あきらめて、とうとう いま来た道を、引き返すことにしました。そして、すっかりしょげた しっぽをふるわせ、歩き出した その時です。
~~~~~《BGM Change》~~~~~
※ 注)ここからは 時間経過が ゆっくりと...
《ナレーション》
サラサラサラ……ふと、森の木々の葉が ざわめきだちました。
おや…。あれは なんでしょう。
何か こがね色の光が チラチラ、ぼうやの行く手に ゆれているでは ありませんか。
《きつね》
「おかしいな。さっきとおった ばかりの道なのに。こんな チラチラするもの、あったっけ?」
《ナレーション》
きつねのぼうやは 首をかしげ、おもわず 目を みはりました。
そう、道のまん中を くりぬいた、小さい 水たまりのなかを、そよそよ そよぐ 風にふるえ、何かが そっと うごめいています。……
見ると、ちいさな 水たまりに、あわい 金色の 光の束が、木々の葉をすかして、そぉっと 射し込んでいるのでした。
きつねのぼうやは、そのふしぎな 光の束を、空へ空へと、たどっていきました…。
《効果音 or BGM断片挿入》
と、それは 夜のやみに こうこうと光る、お月さまへと とどきました。
・・・・・
キラキラ光る、おとしもの――それは、水たまりに映る、月あかりの精たちだったのです。
《きつね》
「ねえ きみたち、この水たまりで 何をしてるの?」
《ナレーション》
きつねのぼうやが たずねました。
《月あかりの精》
{水浴びしているのよ}
《ナレーション》
月あかりの精たちは、いっせいに こたえました。
その よくひびく声は、キラキラと、水たまりいちめんに こだまして、黄金の光を ぶつけあいながら、やがて幾重もの輪を ひろげていきました。
それは、お月さまが、ご自分の使いを、光の束の すべり台を つたわせ、こうして 森の水浴び場に 降ろして、遊ばせていたのでした。
《きつね》
「ぼくはてっきり、だれか 森に住んでるひとの、おとしものだと 思っていたよ」
《ナレーション》
きつねのぼうやは 笑っていいました。そして そっと たずねました。
《きつね》
「ねぇもし、ぼくが きみたちを ひろったら、きみたちは お月さまへ、かえれなく なってしまうの?」
《月あかりの精》
{拾ってみたいなら 拾ってごらん?}
《ナレーション》
月あかりの精たちは、わらいはじけて いいました。
《月あかりの精》
{わたしたちは 逃げるのが上手なの。いくらすくっても、つかまらないわ}
《ナレーション》
また別の声が いいました。
《月あかりの精》
{私たちの かがやくからだは、ここにいても、お月さまのもとへ、いつでもあっという間に かえれるのよ}
《きつね》
「ほんと?」
《ナレーション》
きつねは おどろきながら、ちょっと くやしがりました。
《きつね》
「じゃ、つかまえてみようっと!」
《ナレーション》
きつねのぼうやは、手をのばしました。
《効果音》
―― チャポン・・・……水たまりに手をいれると ――
《効果音 or BGM断片挿入》
・・・・・
《ナレーション》
月あかりの精たちは、あっという間に 飛びちって、ちりぢりに 分かれると、楽しそうに 笑いました。
そして わぁぁん…… その声と光は、しばらくの間ずっと、こだまして いました。
森ぢゅうに。耳の中に。――
そうして いつしか、また もとどおり、水にうつる お月さまの姿に、ゆらゆら かえって いるのでした。……
水たまりを ふるわせていた 風は、いまはもう すっかり 止んでいました。
辺りも、しんと 静まりかえっています……。
・・・・・
《キツネ》
(ほんとだ……さよなら、妖精さんたち)
《ナレーション》
―― きつねのぼうやは そう、ひとりごちました。
水たまりの 奥の奥、お月さまの姿を のぞきこみながら。
《効果音》
ホーホー… ホーホー…
《ナレーション》
―― フクロウの声が 響いています…。
《きつね》
「ぼく、もう かえらなくちゃ!」
《ナレーション》
きつねのぼうやは、あわてて身をおこすと、ほっとひとつ ためいきをついて、今来た夜道を、ひきかえしていきました。
水たまりの お月さまは、もうキラキラと おしゃべりしなく なったけれど、
夜空にたかく 浮かんでいる、もうひとつの お月さまは、いつまでもいつまでも、きつねのぼうやを 追っかけて、
転ばないよう 夜道を照らし、明かりをともして くれていました。・・・
=========================
森のおとしもの 原文ママ 版
【森のおとしもの】
きつねのぼうやが、たったひとりで 森の夜みちを歩いていました。
うつむいたまま、しきりにひとりごちながら。
「ええと、あれはこの辺だっけ? きのう ぼくが見つけたもの。 きのう見つけたものはどこ?」
フクロウが一羽、かばの木のウロにとまっていました。
おおきなお目目を半分閉じて、きつねのようすを見ていました。
きつねのぼうやは、フクロウにたずねました。
「もしもし、おじさん。あれはどこ?」
「あれ、とはなんじゃな?」
フクロウがききかえしました。
「ええとね、ぼくがきのう見つけたもの」
「ホッホー。一体何を見つけたんじゃね?」
フクロウは目をまるくしてたずねました。
「きらきら光る落としもの」
「はてさて、それは金貨かね?」
フクロウはいいました。
「金貨は、きらきら光るもの?」
きつねのぼうやがたずねました。
「あぁもちろんさ。そいつは丸くて、そしてちょっと重いんだ」
「そうか。それじゃ、あいつは金貨だ。きっと金貨にちがいないや」
きつねのぼうやは、はしゃぎました。
「だが、金貨なんてこの辺りに落ちてはいなかったがね…」
フクロウは残念そうにそういって、ホー とひとつためいきをつくと、ふたたび目を閉じてしまいました。
「わかったよ、おじさん。ありがとう」
きつねのぼうやはお礼をいって、またとぼとぼ歩いていきました。
少し行くと、クルミの木をするすると降りるリスに合いました。
「もしもしおばさん。あれを知らない? ぼくがきのう、見つけたもの」
「はてさて。いったい何でしょう?」
「ええっと、それが分からない。だけどとにかくきらきら光る、だれかのだいじなおとしもの」
「きらきら光るだって? そうかい。それじゃぁそれは、きっと宝石」
リスは目をかがやかせました。
「クルミの味するルビー! ナッツのにおいする真珠!」
リスは胸のまえで手を組み、夜空を見あげていいました。
「わあすごい。それじゃあぼくのさがしものは、きっとそいつらなのかもね!」
きつねのぼうやがさけびました。
「それでおばさん もいちどきくけど、そいつらをさがすためには、ぼくはどこまで行ったらいいの?」
きつねのぼうやがたずねると、りすは首をかしげました。
「そうさねぇ じつをいうとあたしも、それをじっさい見たわけじゃあないんだよ」
そういってあたまをかきながら、りすはしばらくこまったように、森のあちこちを見わたしました。
それからようやくささやくように、きつねのぼうやに言いきかせました。
「わかった、ぼうや。これははっきりしてること。宝石なんて、このあたりにはひとつも落ちていなかったわ!」
それをきくと、きつねのぼうやは、がっかりしてつぶやきました。
「そう…わかったよ、ありがとう、おばさん」
きつねのぼうやはお礼をいって、またとぼとぼと歩いていきました。
森の奥深い山あいにはいると、ヒゲを生やした一頭のカモシカが、しげみを行き来していました。
もぞもぞ草をはんでいます。
「もしもしおじいさん。あなたは知らない? ぼくがきのう見つけたおとしもの」
けれども、カモシカのおじいさんは、耳が遠くてきこえません。
「おじいさん! ねえねえ知らない? ぼくの見つけたおとしもの!」
きつねはちょっとどなりました。
「おや! こんばんは、ちいさいぼうや。どうしたんだね、こんな夜ふけに?」
カモシカは、ほそながい顔をあげました。
「ぼくがみつけた、だれかの大事な落としもの…」
「え? ほう、おとしもの。おとしものがどうしたって?」
「おじいさん知らない? 見なかった?」
「いやはや。さてね? いったいそれは、どんなものだい?」
「きらきら光る、きれいなの」
「え? キラキラ光る、とな? うぅん…。キラキラと光るといえば、それはもう、クリスマスの金と銀のかざりもののあかりだよ。
あちこちで点っては消え、点っては消え…。それがサンタクロースをそりに乗せて走る、わたしたちのしんせきを、じつにここちよくさそうんだ。」
―― しんせきというのは、トナカイのことでした。
「しかしだね…」 カモシカのおじいさんは、考え込むと、しゃがれた声でいいました。
「いまはクリスマスの時期じゃぁない、あと半年もあるからな。それにそんなキラキラしたもの、この森の中なんぞで見おぼえないがね…」
「そうですか。どうもありがとう」 きつねはしょんぼりして、またとぼとぼ歩いていきました。
いつしか、川べりにさしかかりました。
ふとったカワウソのおばさんが、きつねのぼうやの目の前を、よちよち走っていきました。
「もしもし、おばさん」 きつねのぼうやが呼びとめました。
「なんだね? あたしゃいそがしいのよ、用事があるなら、はやくお言い」
「きらきら光る、おとしもの。だれかのおとしもの、見なかった?」
「きらきら光る、おとしものだって? さてね。だれのものだかわからない、おとしもののことなんか、こういそがしくっちゃ、おぼえちゃいないけど」
カワウソのおばさんはいいながら、あごに指をあてました。
「だけども、それはいったいどういう風に、光るものだったのかい?」
きつねのぼうやはまぶしそうに、目をほそめながらいいました。
「それはたいそううつくしく、きらきら、きらきら」
「まあ…。」 カワウソのおばさんは、ふと空をみあげました。
「こう見えてもね。わたしゃけっこう、おしゃれなんだよ」
おばさんは目を見はると、つんとはった胸を指さして、いいました。
「ここにつける金ボタン、まえからほしいと思っていたのさ。もしも、それが金ボタンなら、どんなにかあたしに似合うだろう。
…だけどそんな高価なもの、この森になんておちてやしないものね。そう、おちてなんかいやしないのさ」
カワウソのおばさんは、そういって首をふり、ビロードのようなしっぽをひるがえすと、また湖の方へと、かけ出していきました。
「わかったよ。ありがとう、ひきとめてごめんなさい」
きつねのぼうやはあきらめて、とうとういま来た道を、引き返すことにしました。
そして、すっかりしょげたしっぽをふるわせ、歩き出したその時です。
サラサラサラ……ふと、森の木々の葉がざわめきだちました。
おや…。あれはなんでしょう。何か黄金色の光がチラチラ、ぼうやの行く手にゆれているではありませんか。
「おかしいな。さっきとおったばかりの道なのに。こんなチラチラするもの、あったっけ?」
きつねのぼうやは首をかしげ、おもわず目をみはりました。
そう、道のまん中をくりぬいた、小さい水たまりのなかを、そよそよそよぐ風にふるえ、何かがうごめいています。
…… 見ると、ちいさな水たまりに、あわい金色の光の束が、木々の葉をすかして、そぉっと射し込んでいるのでした。
きつねのぼうやは、そのふしぎな光の束を、空へ空へと、たどっていきました…。
と、それは夜のやみにこうこうと光る、お月さまへととどきました。
キラキラ光る、おとしもの――それは、水たまりに映る、月あかりの精たちだったのです。
「ねえきみたち、この水たまりで何をしてるの?」
きつねのぼうやがたずねました。
{水浴びしているのよ}
月あかりの精たちは、いっせいにこたえました。
そのよくひびく声は、キラキラと、水たまりいちめんにこだまして、黄金の光をぶつけあいながら、やがて幾重もの輪をひろげていきました。
それは、お月さまが、ご自分の使いを、光の束のすべり台をつたわせ、こうして森の水浴び場に降ろして、遊ばせていたのでした。
「ぼくはてっきり、だれか森に住んでるひとの、おとしものだと思っていたよ」
きつねのぼうやは笑っていいました。そしてそっとたずねました。
「ねぇもし、ぼくがきみたちをひろったら、きみたちはお月さまへ、かえれなくなってしまうの?」
{拾ってみたいなら拾ってごらん?}
月あかりの精たちは、わらいはじけていいました。
{わたしたちは逃げるのが上手なの。いくらすくっても、つかまらないわ}
また別の声がいいました。
{私たちのかがやくからだは、ここにいても、お月さまのもとへ、いつでもあっという間にかえれるのよ}
「ほんと?」
きつねはおどろきながら、ちょっとくやしがりました。
「じゃ、つかまえてみようっと!」 きつねのぼうやは、手をのばしました。
―― チャポン・・・
……水たまりに手をいれると
―― 月あかりの精たちは、あっという間に飛びちって、ちりぢりに分かれると、楽しそうに笑いました。
そしてわぁぁん… その声と光は、しばらくの間ずっと、こだましていました。森ぢゅうに。耳の中に。
―― そうしていつしか、またもとどおり、水にうつるお月さまの姿に、ゆらゆらかえっているのでした。
…… 水たまりをふるわせていた風は、いまはもうすっかり止んでいました。辺りも、しんと静まりかえっています……。
(ほんとだ……さよなら、妖精さんたち)――
きつねのぼうやはそう、ひとりごちました。
水たまりの奥の奥、お月さまの姿をのぞきこみながら。
ホーホー ―― フクロウの声が響いています…。
「ぼく、もう かえらなくちゃ!」
きつねのぼうやは、あわてて身をおこすと、ほっとひとつためいきをついて、今来た夜道を、ひきかえしていきました。
水たまりのお月さまは、もうキラキラとおしゃべりしなくなったけれど、夜空にたかく浮かんでいる、もうひとつのお月さまは、
いつまでもいつまでも、きつねのぼうやを追っかけて、転ばないよう夜道を照らし、明かりをともしてくれていました。・・・