心理学ガール #07
カテゴリーエラー
僕は心理学部の大学4年生。ここは大学会館地下にあるイートインコーナー。僕とハルちゃんはうまい棒を食べながら話をしている。
ハル「先輩。前回は、催眠や催眠状態は概念だって話で終わりましたけど」
僕「そうだったね。心理学は心の科学とも言われるけど、”心”も概念とも言えるからね。」
ハル「概念って言葉がいまいちわかりません」
僕「概念ってのは、一つ一つの現象の共通点をまとめて名前を付けたって感じかな。概念って言葉は、哲学とかでも使われるから、我々心理学徒は”構成概念”と言おう」
ハル「構成概念……どっかの講義で出てきたかもしれません。細かいことは覚えてないですけど……」
僕「具体的に話をしよう。心理学的構成概念の代表的なものは”知能”なんだけど、ハルちゃんは、知能と聞いてどんなことを想像する?」
ハル「そうですね。記録力があったり、計算が早かったり、話すのがうまかったりが思い浮かびます」
僕「うん。確かに、それらは知能を表してそうだよね。ちょっと意地悪な質問をするけど、知能ってどこにあるかな?」
ハル「えー、記憶とか計算は脳が行なっているものなので、脳にあるんじゃないですか?」
僕「脳に関係しているのは間違いないけど、脳に”ある”っていうは具体的にはどういう意味?」
ハル「うーん。脳の一部分に記憶があって、脳が活発に動くことで計算が早くなったりするんだと思うんですけど……電気信号みたいな感じになちゃうから、それが”ある”のかって言われると困ります」
僕「もしかしたら、記憶とかは脳の一部分に”ある”のかもしれないけど、それはあくまで知能の一部であって、”知能”自体は脳にはないということはわかるかな。物理的にというか生理的にというか、いずれいせよ脳のどこかに知能があるわけではない。それでも、僕らは知能というものを感じているのだけど、それを直接計測できないから、間接的に目に見える脳を含めた人間の行動パターンや行動傾向から”知能”を構成していこうとするのが、構成概念なんだ」
ハル「なんとなくわかります」
僕「構成概念はたくさんあって、”体力”とか”不安”とかも構成概念になる。ここで気をつけなくてはいけないのは、”体力”も”不安”も”知能”は普段が僕らが使う言葉でもあるということ。だけど、心理学における学問的な対話の中では、より限定的な意味で使われるというか、厳密に使わなくてはならない」
ハル「確かに、どれもよく使われる言葉ですもんね」
僕「そうなんだ。それなのに、同じ意味では使わないことがあるんだ。例えば、”態度”って構成概念があるんだけど、これは、心理学的には、ある物事に対する好き嫌いみたいに使われることがある。僕のハルちゃんに対する態度ってのは、普通の会話と、心理学的対話では意味が違ってしまうことがある」
ハル「先輩の態度、少し知りたいですけど……って、なんか、催眠の話をしていて、ずっと言葉の使い方の話になっちゃってますね」
僕「とっても大事だからね。さて、以前、催眠状態は”ない”って言ったけど、構成概念としては”ある”ものなんだ。って、わけわからないよね」
ハル「ちょっと、そうですね……」
僕「ちなみに、構成概念と心理学的測定の話は、心理学研究の根本となる話で、心理学の研究の中でも間違っていることがあったりする。これは、僕の話よりも、渡邊芳之先生の論文「心理学的測定と構成概念」と「心理学における構成概念と説明」を読んだ方がいいかもしれない。とりあえず、これを読んでみて」
ハル「わたしに読めますかね」
僕「ハルちゃんなら読めると思う」
ハル「やってみます……」
僕「次は、その論文について、まとめるような話をしよう」
ハル「なんか、本格的ですね」
僕「3年生から始まるゼミって感じだね」
ハル「そうなんですね。じゃあ、わたしの予行練習みたな感じだ」
僕「うんうん。僕は教えれるほどではないかもしれないけどね。それでも、楽しくはできるんじゃないかな」
ハル「わかりました」
僕「よろしく頼むよ」
ハル「じゃあ、今日はこれで」
僕「バイバイ」
僕とハルちゃんは、別れてそれぞれも目的地へと向かった。