映画・アニメ好きへ贈る!バンドアニメの到達点「BanG Dream! It’s MyGO!!!!!」を語る①作品紹介
2023年6月末。初回3話一挙放送という珍しいスタイルで始まった夏クールの新作アニメーション。タイトルは
「BanG Dream! It’s MyGO!!!!!」
BanG Dream!略してバンドリ。この7年以上続くプロジェクトの名を冠する新作として送り出された本作ですが、その内容はこれまでのシリーズとはあらゆる意味で一線を画すものでした。
とにかくすごいオリジナルアニメ
これまでとは明らかに異なる方向性
本作は新キャラクターたちが主人公の完全新規の物語です。世界観こそシリーズ共通で、過去作のキャラクターたちも登場するのですが、あくまで知っていればニヤリとできる程度に抑えられており、シリーズ未見の方にも配慮されています。
ですがそれ以上に、これまでとは何やら様子が違う……!
本作も「少女たちが出会いやバンド活動を通して絆を深めていく」「物語を彩る楽曲とライブシーン」といった雛形そのものは踏襲しているのですが、とにかく人間関係が一筋縄ではいきません。
旧バンドでの思い出、謎に包まれた動機、後から輪に入る疎外感、バンドに求めるものの違い……過去に縛られた彼女たちが過去に突き動かされて、その結果振り回され、すれ違い、迷い、傷つけ合ってしまいます。
それはもう泥だらけの傷だらけで、前作主人公が追い求めた「キラキラドキドキ」からは程遠い有り様です。おそらく過去作を知っている人ほど困惑するのではないでしょうか。
ところが、ただいたずらに拗れているわけではないのが本作の凄いところ。
彼女たちは現実の我々と同じように、見えている景色も言葉の解釈も様々。伝え方も目的も様々。そんな一人一人が血の通った人間として丁寧に描かれることで、そこで起こる問題や反応に説得力が生まれ、明かされない動機には想像が掻き立てられます。
メタな言い方をすれば、リアリティラインが引き上げられているのです。それにより彼女たちの悩みもより現代的かつ等身大なものとなっていて、本心とは裏腹な言葉もバシバシ飛び交います(メッセージアプリでブロックされているか確かめるキャラクター初めて見た……)。
そのため衝突も繰り返すのですが、それも登場人物たちが”自分勝手”に行動しているからこそです。
自分勝手に行動する彼女たちが何を考えているのかは、必ずしも言葉には表れません。声色や仕草の変化、彼女たちが何にこだわり何に怒るのか、そういった言葉にしない余白からいろんな気持ちを想像できることも、繰り返し観たくなる本作の大きな魅力の一つになっています。
この物語を動かすのは徹頭徹尾彼女たちであり、そこには奇跡も、魔法も、ありません。自ら動かなければ状況も動かない。でも動けば動くほど迷子になってゆく。そこに訪れる、出会いがもたらす小さな変化。そうして少しずつ変化してゆく関係と内面がまた新たな展開を呼び、それを乗り越え成長してゆく姿に胸を打たれるのです。
タイトルに不安がある人へ
本作はタイトルのためか、シリーズ未見では取っつきにくさを感じるかもしれません。3DCGを用いたアニメーションという敬遠されやすい要素を持っていることも確かです。
しかし、本作を楽しむにあたっての予備知識は一切必要なく、また3DCGも2Dと調和したすごい映像になっているため、完全に独立した一つの作品として十二分に楽しめるようになっています。シリーズ未見の人にこそ観てほしい作品です!(ファンは当然必修!)
3DCGに苦手意識がある人も、1話を見れば印象が変わるのではないでしょうか。とりわけライブシーンでは実写でも作画でもお目にかかれない3DCGならではのカメラワークが満載なので、そんなライブシーン目当てに視聴するのもありです!
もちろん、本作がきっかけでバンドリコンテンツに興味を持ってもらえたならいちファンとしても嬉しい限りなのですが、それ以上に、これほど魅力的な作品がタイトルで敬遠されてしまうことがもったいないと感じるのです。
ちなみに、筆者は名前の通りシリーズの(特にアプリゲームの)ファンという立場ではあるのですが、同時にいち映画・アニメ好きとしてこれまで多くの作品に触れてきました。そんな立場としても、いや、そんな立場だからこそ、本作は自信を持っておすすめできる作品です。お金は貰ってないので忖度なし!ただ働きなので安心してください!(?)
映像作品におけるライブシーンの到達点
アニメーションの描写における表現の一つに「説得力」という言葉があります。戦闘シーンの臨場感、朝露を纏う木々の美しさ、感情を揺さぶる声の震え。そういった、観客を強引に引き込んでしまう力強さ。本作のライブシーンには、そんな説得力がありました。
物語の進行に応じて変化する燈の心情を綴った歌詞は、むき出しの感情を吐露する独白であり、告白です。そんな歌詞を息を切らしながら歌うライブシーンもまた、告白シーンであり、救済シーンでもあります。そして、燈の歌に”あてられた”メンバーの演奏と視線が、ステージをさらに一段上の熱へと連れてゆくのです。
中でも、本作の終盤にはとあるライブシーンが待ち受けているのですが、そこでの5分間はもはやアニメに留まらず、バンドや音楽をテーマにした映像作品の一つの到達点とすら呼べるものだと思いました。
これまで紡いできた物語がステージ上に収斂し、スポットライトを浴びて花開く瞬間の熱。音を重ねるたびに心も重なり、言葉を交わさずとも音一つ、視線一つで繋がる彼女たちだけの世界。そして訪れる救済に、すべてはこの瞬間のためにあったのだと理解するのです。
その時、ステージは互いの心に互いの心が流れ込む共鳴のるつぼとなり、画面を越えて押し寄せる海嘯のように、ぼくの心まで飲み込まれてしまったようでした。
物語、表情、セリフ、歌詞、歌声、音楽、アニメーション。どれもが持っている心に訴えかける力が掛け合わさり、何倍にも膨れ上がって押し寄せる感情。きっと誰が欠けても辿り着けなかった景色——これは本作がただのバンドアニメではない、バンドリだからこそ辿り着くことができた景色だと確信しています。
音楽とは、バンドとは、ライブとは何か。ただの演目や音の連なりではない、とても大切な瞬間。その答えの一端をここに見たような気がします。
本作を観た後は音楽への親しみが増し、以前より生活と音楽の距離が近くなっていました。
耳にはまぶたがない
これはフランスの作家、パスカル・キニャールが残した言葉です。
この言葉は音楽が持つ暴力性への憎しみを綴ったものですが、ぼくはあのライブシーンに同じ言葉を重ねずにはいられませんでした。鼓動まで左右するリズム。歌となることで胸に直接届いてしまう言葉。あの瞬間、逃れることのできない圧倒的な力に蹂躙されているようでした。
しかし、あのシーンにおけるそれは、ぼくには祝福に感じられたのです。言葉を凶器とするかは使い方次第なように、音楽もまた、使い方次第。そしてあの時感じた力は、ぼくの心を強く掴んで離さない、とても温かな力でした。
「歌って伝わる気がするよね。上手に言えないことも。言葉以上に、気持ちが」
その時の歌詞を一部引用します。
気持ちが届くまでうたう、不器用な叫び。
この歌が、”あなた”の胸に間に合いますように——
ぼくはきっと、この物語を一生忘れることはないでしょう。それだけとても大切な物語になりました。
これについては個人的事情が深く絡んでいることは否定できません。登場人物たちの生き方とぼくの人生の重なり、そしてこの物語に影響を受けたことでぼくの人生に訪れた変化。ぼくの人生は確かにこの物語と出会って変わったのです。
それでも、この物語はきっと、それぞれに違う事情を抱えた誰かの胸にも届くと信じています。なぜなら「耳にはまぶたがない」のですから。
全ての映画・アニメ好きへ捧ぐ
祥子に何が起こったか
本作は、旧バンドの発起人であり、脱退により旧バンドを事実上終わらせた本人でもある少女・豊川祥子の、脱退を余儀なくされた秘密「少女に何が起こったか」が物語の核として進行します。
登場人物はもちろん視聴者も彼女の動機を想像するしかなく、その受け止め方の違いに彼女たちの個性が光ります。そして、それにより起こるすれ違いは必然的に立体感を持ち、そこに生まれる影が物語に深みを与えているのです。
この秘密は戯曲『ゴドーを待ちながら』や、それに影響を受けた邦画の一つである『桐島、部活やめるってよ』などを思わせる「姿を現さないまま物語の中心にあり続ける」仕掛けに近いものとなっていて、そこにも面白さを感じました。
すべての道はCRYCHICに通ず……!
みんなを誑かし、みんなの運命を狂わせ、そして自らも運命に翻弄される少女は、この物語における運命の女であり、紛れもなく影の主役と言えるでしょう。
そして、彼女がこれから身を投じる運命の行方は——
華麗なるそよりん
本作を語るうえでもう一人欠かせない存在があります。それは先述の少女と同じく旧バンドのメンバーであり、旧バンドが忘れられない少女・長崎そよ。本作の登場人物たちの多くは過去にバンドで負った傷が癒えていないのですが、中でも彼女は、過去をやり直すべく孤独な航海に身を投じています。
一度壊れてしまったものを追い求める旅。それは今に背を向けることでもあり、必然彼女の旅は日の当たらない孤独なものとなってゆきます。それでもなお過去を求めずにはいられないのは、そこに彼女にとってかけがえのないものがあるから——
遠き日の光を求めて流れに抗い続ける彼女もまた迷子の一人であり、この物語の大切な主役なのです。
本作の魅力はそうした異なる立場の人間が作り出す群像劇にもあります。
どこに焦点を当てるか、誰の視点で観るかでも別の一面が見えてくる本作は、きっと観た人によって全く別の物語に見えているかもしれません。
僕と契約して、一生バンドしてよ!
ところで余談なのですが、アニメには3話が視聴継続のターニングポイントという一つの定説があります。今日では少し時代遅れの説かもしれませんが、本作はそれを(結果的に?)初回3話一挙放送という力技で解決しています。
そして本作でも、3話はいろんな意味で物語への視点が変わる重要な回となっており、アニメーションとしても唸る演出があるので、それを確かめてやろうと乗り込む心構えで観るのもありです。
この「3話目の転換」に加えて「ピンク髪の少女が契約を迫られる」「明るいOPとは対照的に暗めに進行する話」と言えば、主人公がOPの姿に変身するまでは観てほしいとの誘い文句で人に勧める人が続出したとかしなかったとかで話題の、伝説的な魔法少女作品を思い出さずにはいられませんでした(10年以上前の作品なので古典として言及しても許される……はず。アニメ作品なので一応タイトルは伏せておきます……)。
それを踏まえて、ぼくがこの作品を知人に勧めるとしたら、OPの状態になるまで、あるいはライブをするまでは観てほしいと伝えるかもしれません。
……やはり意地が悪いでしょうか。もちろん、それにより観たことを後悔させない自信はあります!返金保証です!でも、そんな勧め方は必要ないとも思います。なんたって最初から面白いのですから。
それでも、どうしてもこの沼に引き込みたいのなら、やはり公式推奨?の3話までの一気見をおすすめします。そうなればあとはこっちのものです!そのまま山場のライブシーンまで駆け抜けましょう!
閑話休題
本作も、きっと伝説の作品たちの一つとして語られる日が来るでしょう。それだけの魅力を持っていると確信していますし、とりわけライブシーンは、これまでの人生で出会ったことのないカタルシスをもたらしてくれました(伝説の映画『セッション』を彷彿とさせる、丁寧に積み上げたものが一気に昇華される驚きがありました)。この感想も、その一助になれたら嬉しいです。
と言っても、これだけ言葉を尽くしても、本作の魅力の一かけも伝えられていないかもしれません。それだけすごい作品なのです。百聞は一見にしかず。あとはぜひ、あなた自身で体験してほしいです。きっと後悔はさせません!
そんなわけで、現在は無事に最終回を迎えた「BanG Dream! It’s MyGO!!!!!」
毎週放送時間に画面に釘付けの生活を送ること3ヶ月。今年の夏はバンドリと過ごした夏になりました。本編の季節も夏を舞台にしているため、きっと夏が来るたび思い出すかもしれません。
まだまだ語り足りないので、先の展開を含んだ感想も5回かに分けて更新していきます!
パート2は変化球として1話視聴時のモノローグ形式の感想です。そちらもネタバレなしなので、気になった方はぜひ!そしてぜひ本編も観てもらえると嬉しいです!
※追記
ちょこちょこ手直ししました!
そして現在、ABEMAにて#1~#13全話一挙配信中です!無料です!
期限は9/15(金)から一週間!みんな観て……!
https://abema.tv/channels/abema-anime-3/slots/CVX6evyqxQed2X