平和な昼下がりのスーパーマーケットでの光景
スーパーマーケットって、買うものを決めてから行くことが多いので、10分かからずに買い物は終わるんだけど、それじゃ味気ないので、いろいろなコーナーを見て回ったりする。たまに衝動買いしっちゃたりして困ることもあるんだけど。
今から3、4か月くらい前に行ったときかな、その時は午後の時間帯で、夕飯の買い物にはまだ早い時間帯かなってことで、お客さんもそんなにいなかった。
いつものように店内を見て回っていると、どこからか女の子の泣き声が聞こえてきた。気になって泣き声のところへ行ってみると、泣き叫んでいる女の子、それを叱るお母さんがそこにはいた。女の子はぱっと見3、4歳くらいかな。
お母さんが鬼の形相でしきにり
「ノー! ノー!」
と言っている。外国人の親子だった。会話を聞くとどうも英語ではなさそうだ。
女の子をよく見ると、小さい体で何か大きなものを抱きしめている。
なるほど、どうやら買ってほしいものがあって、お母さんにお願いしたんだけど、ダメだったようで泣いているみたい。
いずこも同じなんだなー、私も子ども頃、欲しいものがあって駄々をこねたことがあって、その度に叱られていたなー、なんて懐かしい気持ちになっちゃった。
はてさてこの女の子は何を欲しがっているのか気になって、よく見てみた。
場合によっては、
「どうれ、おじさんが買ってあげようか!」
なんて言っちゃおうかなって思ったけど、変質者に思われたくないし、そもそも英語をはじめとして外国語なんかしゃべれないことに気づいて、思いとどまった。
女の子は白い容器を抱きしめていた。お菓子の箱でもないし、何なんだろう、興味がますます高まる。だって、そのスーパー全体に聞こえるような大声で泣き叫んでいるわけだから、よっぽど欲しいに違いないわけだよ。
この女の子の心をわしづかみにしているものは何なのか、それとなく買い物するふりして角度を変えるんだけど見えない。見えないとますます見たくなるのが人の悲しい性なわけで。
すると突然、お母さんが業を煮やしたのか、女の子から強引に抱きしめているものを取り上げた。
見えた!
「え?ん?」
お母さんが取り上げた白い容器は発泡スチロールの容器で、その中にはあふれんばりに冷凍された「鮭のカマ」が入っていた。
う、うん、確かに鮭のカマは脂がのっていて美味しいよね。普通の切り身より好きだったりする。ご飯のおかずに最高だよ。
でも、3、4歳の女の子が、あらん限りの声を張り上げて泣きじゃくって欲しがるもんじゃないよ。
結局、その鮭のカマのパックは元あった場所に戻されて、女の子は買ってもらえなかった。
強引に女の子を引っ張っていくお母さん、寂しそうに去る女の子、その光景を見つめる鮭のカマ。平和な昼下がりをそこに感じた。
ただ、戻された鮭のカマは心なしか寂しそうな様子だった。