ドラマーの右足 あの「ペダル」ってどうなってるの?
ドラマーさんはもともと持っている知識があるので、一旦動画を見てからの方が読みやすいかもしれません。(ほぼ同じ内容ですが)
ドラムペダルのはじまり The Original Ludwig Pedal
ダンスミュージックを中心に「キック」というのはその音楽の根底となる重要なファクターであり、ドラムセットという楽器に興味がある人にとって興味深い部分ではないでしょうか?1909年、今一般的にドラマーが使っているペダルの原型がドラムメーカー Ludwig&Ludwig社から発売されました。
「原型」と言ってますが、バスドラムを足で打つ機構は1887年頃からあります。昔のドラムペダルのパテントをまとめてくれているサイトもあります。インターネットの一番幸せな使い方。
The Original Ludwig Pedalというペダルは、足を置くフットボードやヒールプレート、フットボードからフェルトビーターを回転させるためのリンク機構や、ペダルを戻すためのスプリング、太鼓の枠に取り付けるクランプなど、現代のペダルに必須とされる機能を備えた人類史に残るフットペダルです。
1929年の世界大恐慌であらゆる会社が倒産しましたが、Ludwig&Ludwigも経営難に陥り、Connに買収されました。Connが打楽器部門を廃止する1955年までLudwigさんはLudwigという名前をブランド名に使えない契約でした。そこでLudwigさんは「WFL」というドラムメーカーを別に立ち上げます。WFL立ち上げとほぼ同時に発売したペダルが、Speed Kingというペダル。その後1955年 Ludwig Drum CompanyとしてWFLがLudwigの名を取り戻します。
一番左は、Ludwig Drum Companyになってからのスピードキング。高橋幸宏さんのドラムテックをしている土田さんにお借りしたものです。真ん中のが黒銀と言われる2010年頃まで発売されていたもの。一番右は日本では2021年に購入できるようになった最新のSpeed King。他のペダルとの違いはバネをカムで押す機構で、フレームにスプリングが内蔵されています。これにより、スプリングが引っ張りにより切れるトラブルを回避しています。実際にSpeedKingのスプリングはかなり丈夫です。
Ludwigと並んで重要なドラムブランドに、Leedyという会社がありました。
一時は世界最大のドラムブランド。そのブランドの最高級ペダルProfessional Drum Pedalは非常に美しい造形です。シンメトリーな構造に惚れ惚れします。
LeedyもLudwigと同時にConnに買収されており、Leedy部門のトップだったジョージ・ウェイ・ハリスンというドラム界の超重要人物の影響で、アメリカだけでなく、ヨーロッパのドラムメーカーへの影響も大きいメーカーです。よく見るとこのペダルはフットボードからのプレートまで一体化しており、このようなスタイルを「Solid Footboard(またはone-piece Footboard)」と言います。対して、フットボードとヒールプレートが分かれているものは「Hinged Heel」と言います。実はSpeedKingはヒールのパーツを調整することでHingedHeelにする機能を備えており、このあと続く「ドラマーの好みに合わせる時代」の先駆けとも言えます。
LeedyのX-Lも、長年発売され続けた名機です。
駆動部の構成でチェーンドライブ、ベルトドライブという言葉が80年代にできたのですが、その後「ダイレクトドライブ」という言葉が生まれました。実は1930年代からこのような駆動部のペダルがありました。
今使っても、遜色ないスムースな動きです。昔のペダルと今のペダルを比べると動きは昔のものでも驚くほど問題ないのですが、ノイズ対策をしないと録音には不向きかもしれません。
ドラマーの好みにセッティングする時代 Rogers Swiv-o-matic
新しい考え方が出てきたのはこのペダルの登場が大きいでしょう。
本皮ドラムヘッドメーカー→ドラムメーカーという経緯をもつRogersのSwiv-o-maticというペダルです。これも長く販売されて度々マイナーチェンジもされているのですが、今回は短めに話をします。
通常スプリングの強さ、ビーターの長さしか変更できなかったペダルに対して、ビーターの角度、ヒンジの位置、フレームの高さを変更できる。というフットペダルにセッティングの幅という概念を足したペダルです。
よく観察すると、The Original Ludwig Pedalへのリスペクトを感じるペダルとも言えると思います。戦前からのペダルデザインを60年代に一度総括しつつ、次の時代を照らしてくれたという感じでしょうか。
それまで設計者がペダルの踏み心地を決定していたところから、ドラマーに委ねられる部分が増えて行きました。
残念ながら現代では、Solid Footboardスタイルのペダルは殆ど販売されていません。そろそろ、復活させるドラムブランド出てくるんじゃないか?と思っています。
フットペダルの構造を知ることで理解が進む
いろいろなペダルが出てきたと思いつつも、The Original Ludwig Pedalから、基本構造はずっと以下の形です。
リンク機構の用語でいうと
A…従動節 follower
B…中間節 connector
フットボード…原動節 driver
ヒールヒンジ…固定節,静止節 fixed link
ドラムのペダルで話題になるのは
・従動節の形状
・中間節の素材や長さ
・フットボードの長さや重量バランス
です。
前述のように昔はエンジニアが決めていたバランスをユーザーが変えられるようにもなっています。各所の長さ、重さ、そして、各軸の滑らかさ等がペダルにとって重要な部分となり、各メーカー各商品がこのバランスをアレコレ工夫するわけですが、フットボードの高さ変化わずか50mm程度の中で、あのペダルが踏みやすい、あれは難しいみたいな話になります。
先程のSwiv-o-maticのAとBの部分を見るとBの部分に革ベルトを使い素材の自由度を上げて、Aの部分をカム形状にすることで、フットボードの行き帰りでスプリングの緊緩に対してのアプローチしている事に気が付きます。
ドラムペダル界のゲームチェンジャー
Martin Fleetfoot Pedal 下の写真は5001というone-piece footboardバージョンですが、5000というHeel Hingedのモデルもあります。Martin Fleetfoot自体は40年代頃から作られているそうですが、写真の私所有のものは60年代かな?と思います。
Martin Fleetfoot社からドラムハードウェアのメーカーだったCAMCO社へ型やライセンスが譲渡され、CAMCOブランドやOEMしている老舗ドラムメーカーGretsch等でこのタイプのペダルが発売されることになりました。The Original Ludwig Pedalと共にMartin Fleetfoot Pedalはドラム史に残ったほうが良いと思いますが、名前が有名なのは「CAMCO」であり、今発売されているペダルの99%はCAMCOタイプと言っても過言ではありません。この記事ではMartin Fleet Footからdwまで続く5000という品番をとりGretschのFloating Action 4995も含めて「5000ペダル」ということにします。*5000ペダルの詳細情報は以下のPodcastもおすすめです。
私は「ペダルの世界史と日本史は違う」という話をする事がありますが、現在、CAMCOというブランドをTAMAという日本のドラムメーカーが持っていまして、80年代にCAMCOというペダルがTAMAから発売されている為、混同が起こります。アメリカ人が言うCAMCOペダルと日本人が言うCAMCOペダルは別物な可能性がある事は、ペダルを先輩から学ぶうえで注意する必要があります。
さて、5000ペダルの権利や金型は、1972年に創業したドラムメーカー「dw」に引き継がれます。
5000ペダルの重要特徴として
・6角シャフト→カムの形を変えることができる
・ロッカーカムでビーター角度の調整ができる
・シンプルで緩まないスプリング調整機構
・ラジアスロッドをフレームの高い位置に取り付けることでヒールが浮かない高い安定性
・フットボードより少し右にオフセットされたビーターマウントとクランプ
70年代にNYのドラムショップでCAMCOなどの5000ペダルにチェーンとスプロケットを使って改造し、本革ストラップまたはナイロンベルトからチェーンにして、スプロケットで受けるという形を作りました。これにより、だれでも簡単にセッティングできるシンプルで丈夫なフットペダルが完成しました。これ以降発売されるペダルの殆どが、このペダルのマイナーチェンジのようになります。
まさに、ペダル界のゲームチェンジャーでした。
ドラムセットは好調なアジアメーカー。実は、フットペダルは苦戦
チェーン&スプロケットに改造された5000ペダルを見て、YAMAHAやPearlは真似をします。Pearl P-800の独立ヒンジを見ると他の5000インスパイアペダルよりも影響が強い事がわかります。パテント的に、チェーン&スプロケットにできないので、PVC/PET系のベルトとホイールの組み合わせになっているようです。1980年dwがdw-5000Cというチェーンドライブのペダルを発売します。(SONORなどヨーロッパのペダル軸もありますが今回は割愛)TAMAもチェーンドライブのTAMA CAMCOを発売し、日本ではベルトトライブのYAMAHAやPearlに対して、チェーンドライブのTAMAという図式になっていきます。
TAMAはDP145のようなUSA CAMCOタイプのカムパーツ+チェーン+ロングフットボードのペダルを発売したり、フットボードの長さもUSA CAMCOの様に短いものとRogersのように長いものが混ざって行き、90年代バンドブームになるとドラム楽器情報も錯綜。オリジナルへの敬意を想像する材料もない状況が続きます。
アジアのドラムメーカーが「品質の割に安い」まさにMADE IN JAPANな存在としてアメリカでのドラム売上を延ばしていくわけですが、ペダルのブランド力としては「ドラムセットを買ってきた時に付いてきたペダル」くらいのポジションなようです。
日本でのみ名機と言われるFP700シリーズ。アメリカ目線でみたらその評価も納得だけど、内容としては頑丈で良いペダルです。
YAMAHAの720や710はあれだけ評価されているけど、なぜか評価されないP-800。内容的には遜色ないと思いますが、やはりヤマハFP720の評価的には樋口宗孝さんが使用していたという部分が大きいのかも知れません。
2012年に数量限定で復刻した TAMA CAMCO 専用WEBサイトを作ったり盛り上がりました。 チェーンペダルといえば、ジャズドラマーのエルヴィン・ジョーンズが有名ですが、TAMAのエンドーサーとしても活躍しました。このあたりの人間関係も調べてみると楽しいです。
青山純さん愛用という事で人気が高かったTAMAのHP145。あまり話題に登りませんが、カムコ的な偏心カムパーツとチェーンの組み合わせかつ日本人に人気なロングボードという組み合わせでした。
dwが圧倒的にすごかった
アメリカのドラムメーカーGretsch、Ludwig、Slingerlandなどの存在感が薄くなり、アジアメーカーが目立ちながらも「ペダルはdw」というイメージは非常に強かったようです。ドラムセットはPearlやTAMAを使いながらもペダルはdwというケースをよく見ました。あのラジアスロッドの継承者でありながら「アンダープレート」というパーツでフレームとヒールプレートを固定するなど、改良にも抜かりがなかったです。
dw人気は日本目線で言うと、わっとんさんの存在もかなり大きいです。「深大寺しんぷるてくのろじ~研究所」という理系ドラムサイトを運営されていて、dwのボールベアリングヒンジの優位性を日本人にわかりやすく伝えた方です。今はFacebookページで運営していらっしゃいます。当時メーカーの開発者の方からも、このWEBサイトの話題が出ていました。わっとんさんの実験記事を読んでいた当時、その後一緒に動画配信する日が来るとはまったく想像できなかったですね。
「フットボードとヒールプレートをつなぐヒンジにボールベアリングを使う」1995年に取得したこの特許をdwは使いまくります。フットボードの横ブレのなさなど、購入時に圧倒的なポジティブなイメージを作る事に成功し、80年代に一度固定したスプリング下部を再稼働させる事で2003年発売したdw9000シリーズが大ヒット。
チェーンとナイロンベルトが選べ、USA CAMCO的な偏心形状から、スプロケット的な円形にセッティング可能。アジアメーカーが、アイアンコブラ!フライングドラゴン!エリミネーター!という商品名をペダルにつけている間に、dw-9000PBは発売し、長い間アジアドラムメーカー各社はdw-9000的なペダルを追い続けることになります。
dwは店頭で購入したくなる。さらに、その後の満足度も高い。という商品を発売したのです。
カムパーツやビーターマウントが、シャフトと独立しているフリーフローティングローターなど、ドラマーの心にぐっと来るポイントを抑えながらも、一番大きなポイントはスプリング下部の機構のおかげでスプリングの効き始めが滑らかになるんですよね。CAMCOのときはスプリング調整値ネジを下から固定するだけだったのですが、1980年のdw-5000C発売時に上下から固定してしまったんです。実はそれがあまり良く なかったという事を2003年に自ら回収することになります。*上のネジを取り外すというハックは存在していまして、思い当たる方は是非真似してみてください。
dw-9000のフットボードはショートボードなのですが、2010年くらいにロングボードの流れがきました。SONORのパーフェクトバランス、TAMAのスピードコブラ、dwも5000と9000にXFというロングボードのモデルを発売。YAMAHAもFP720を日本限定で復刻しましたし、フラッグシップFP9シーリーズはロングボードです。フットボードが長くなると重量は重くなるので、返りやヒンジの耐久性に関しては不利になるものの、踏む場所が多ければつま先からカカトまで使える足の範囲が広くなります。
MAPEXのファルコンシリーズというペダルを見てみましょう。
ということで、この記事「案件」となっております。
っていうか私、楽器屋の社長ですからね。
MAPEXは台湾のKHS傘下のドラムブランドです。楽器スタンドのHERCULESやブルースハープのHORNER、コンサートパーカッションのMajesticもKHS傘下ですね。日本人の印象より大きなブランドで、日本の輸入代理店がKIKUTANI MUSICさんに変わったので、今後の流れに期待しています。
フットボードの長さはロジャースタイプでYAMAHA FP720や、dw-9000XFと同じくらい。真円カムのチェーンドライブ。(オプションでダイレクトドライブやナイロンベルトドライブに変更できますが日本での取り扱いは未定)
9000を思わせる丸シャフトに見えますがビーターホルダーの位置に切り欠きがあります。(もちろん、フローティングローターではありません)
バスドラムのフープへのクランプ。バスドラムの足の長さで打面の角度を決めることができますが、このクランプなら、調整範囲を広くとることができます。
スプリングの上下にベアリング付きのハブを装備。踏みはじめのスプリングの効きがソフトになります。
ビーターの角度を調整するネジです。無段階で振りかぶる角度を調整できます。
フットボードの高さを調整するには、ここのネジを緩めてカムの角度を変更します。
ビーターの重りを付けることができます。0g→10g→20gと10g単位で増やせます。
こんなに調整出来る場所があったら初心者の人は困惑してしまうかも知れません。
そこで、一つランクを落とした製品を見てみましょう。
PF1000より簡易版ですが、クランプする角度が可変できます。
ビーターアングルの調整ができて
上部にのみボールベアリングをつけています。さらに下位モデルよりクイックな戻り感。フィールとしてはメタルが好きな人にあらかじめチューニングされているように感じます。補助ペダルを備えたダブルフットペダルのスタイルにあったフィールに感じました。ビーターの角度浅めでスプリング強めセッティングですね。
さらに下位モデルがありまして
ビーターウェイトが入っていないのでビーターは軽い感じですね。
アコースティックな感じの現場で樹脂面を使うと小さな音でもハッキリして良い感じ。
クランプを閉じるネジがフットボードの下にあるので頻繁につけたり外したりする人なら上位モデルが良いかもです。ちょっとした事ですけどね。
セッティングはビーターアングル調整ができれば良いんです!ビーターの長さとアングル調整とスプリングの調整。これだけ抑えておけば充分。
よくある形とはスプリングの絞りが逆なのが可愛いですね。上位のP810の上部のみベアリングが付いた形より、こちらの方が動きはゆったりしていてクセを感じないので、殆どのドラマーはこれでOKだと思います。
さて、同じメーカーの3シリーズ見てみましたが、ちゃんとしたドラムブランドのペダルならば最下位グレードのものでも実用性は充分。上位機種になると、「踏み心地」が変わってきます。軸受の質が高くなると、動かしていて心地よい。高級なペンと高級な紙で字を書く感じでしょうか。これは大切なポイントで、先程のdw-9000のヒットも「心地よさ」が重要でした。
「ドラマーって、なんか足でドンドンドコドコやってるなぁ」くらいの解像度の方もこの記事を読めば、かなりドラムのペダルに対して詳しくなったと思います。しかし、知識があっても、全然ドラム叩けなかったらちょっと。
そこで、シライミュージックではドラム教室もやっています!愛知県豊橋市周辺の方。是非、ドラムをはじめてみませんか?
シライミュージックのYouTubeのメンバーになるとドラムコミュニティのサポーターになれます。ペダルの話もドラムコミュニティで出てきた話の一部です。ドラムの深い話してみたい!という方は、是非登録お願いします!