開歌-かいか-「花歌-はなうた-」制作ノート①
楽曲制作を担当させてもらっている6人組ガールズグループ「開歌-かいか-」の1stミニアルバム「花歌-はなうた-」。
4月にリリースされる予定が、コロナの影響で配信のみ先行、盤(フィジカル)では発売延期となっていました。
彼女たちとしては初めてのミニアルバムリリースから世界規模の苦難に見舞われてしまったわけですが、開歌は在宅で出来ることに何でもトライする姿勢でこの期間を駆け抜け、6月16日、つまり明日、アルバムは無事リリースにたどり着きました。
リリースおめでとうございます。
このミニアルバムには、intro含む7曲が収録されていて、全曲の作詞作曲、制作を担当しています。
自分としてもアルバム作品1枚を通してタッチできたのは自分の作品以外では初めてのことで、刺激的でした。
最初に提示された「とにかく、彼女たちの歌が主役なんだ」というテーマに、自分なりに最大限のアンサーを見つけ出そうと『歌の咲く島』から『ポプラ』までいろんな曲やアレンジを試しました。
その都度、最高のビートやグルーヴを打ち返してくれる歴戦のミュージシャンたちと、ブレずに創造的な場を作ってくれたスタッフ、そして歌と向き合って自分の物にしてくれたメンバーの頑張りと成長に感謝しています。
本当に、アイドルファン、音楽ファン、いや、音楽は道でたまに耳にするくらいです、もう長い事CDとか買ってないな、という人にまで聴いてもらいたい。
よろしくお願いします。
…というわけで、楽曲制作的なライナーノーツを書こうと思って前振りが長くなってしまったけど、ここまでで読み終わってもOKです。
ここからは、極力楽曲制作的な視点に絞って書いてみようと思うので、その辺そんなに興味ないなーという方は気にしないでください(繰り返しますが主役は彼女たちであり、歌なので、これはオマケって感じです)。
と言っても、僕は音楽理論とか機械の事はほとんどわからないので、感覚的な話も多くなると思います。
『歌の咲く島』『セミロング』については以前書いてるので(個人的には、『歌の咲く島』『セミロング』も合わせて1年で生まれた8曲で一つの作品群、という風に考えています。)、今回のアルバムの6曲について。
ちなみに、全曲共通で「花歌」用に、リマスター、一部リミックスしています。
『星雲少女』
開歌の曲は、ある程度のテーマ性の発注(たとえば「夏の曲」とか「フェスで刺さる曲」とか)を持って作ることが多いのですが、星雲少女はそういった物が特になく、ある意味一番天然で作った曲。なので改めて振り返ると季節感もそこまで無いです。
この楽曲の原型を作った時のことははっきり覚えていて、2018年12月7日のオワリカラ大阪FANJtwiceワンマンの本番前の楽屋で、思い浮かんだサビのメロディと歌詞を携帯のメモに吹き込みました。「新しくってかけがえのない未来を見に行こうよ」。こんな真っ直ぐな言葉、嘘みたいです。でも、これを本当に歌える声があったら、そんなグループに出会えたら、それで勝ちじゃないか。そして、彼女たちにはそれが出来る予感がありました。
タイトルは「星雲少女」に。(ちなみに僕はとてつもなく大きい物と、すごく身近な物が共存している世界が好きなんです。DAVID BOWIEの「ライフ・オン・マーズ」という曲で、それまで酒場で喧嘩していた人々から、視線がフッと「火星に生命はあるのだろうか」と飛躍する瞬間にたまらなく感動するからです。)
そのあと、何度かAメロBメロを推敲して、イントロのユニゾンから花開くようにハーモニー、そしてスキャット、ブレイクビーツなAメロの流れ、自分の中で完全に景色が見えるところまで行けました。
バンドでのアレンジへ。バンドメンバーはオワリカラで10年来の相棒である鍵盤・カメダタク。黒猫チェルシーのリズム隊であるベース・がっちゃん(宮田岳)、ドラムス・けいちゃん(岡本啓佑)。そしてアコギは、フォークデュオ蜜で活動するはっちゃん(橋詰遼)。
テーマは、とにかく「シンプルに」でした。フィルも、おかずも極限まで減らして、ただそこに音を定着させるだけで良い。その分、一つ一つの音を美しく録りたい。これが命題でした。特にドラムの音は大きなテーマで、すでに『歌の咲く島』でサクライケンタさんによる洗練されたビートが鳴っている。そこに並んで負けないような、繊細で強靭な生音のヤツ。
Dから出たアイデアは「ドラムを極限までバラバラに録る」という物でした。その実現性を検討した結果、キック、スネア、ハイハット……、ドラムを最小単位まで解体して、あとで再構築する、という所にたどり着きました。
「そんなことして意味あんの〜?」と思うかもしれないけど、ドラムというのは生楽器なのでスネアを録るマイクにも、キックを録るマイクにも必ず他のパーツの音が入ってしまう。こういうのを「かぶり」と言います。このかぶりの量の調整でドラムの音は劇的に変わります。例えばロックなら、この被り大きめでドラム全体がラウドに鳴るようにするし、最近の流行りだと被りを極力殺して残響の少ない「デッド」な音を目指す。しかし、どんなにデッドにしても、他のパーツを叩いている以上、必ず「かぶり」は発生するわけですが、では「そもそも叩かなかったら」?かぶりは発生せず、スネアの音像にはスネアだけの、キックの場所にはキックだけの、理論上最大限クリアな音が鳴ります。
しかしこれだけだと、じゃあ打ち込みで良いじゃないか、という話になります。(この話長いけど、もうちょっとお付き合いください)
ただ人間には人間にしか出せないビート感というのがあり、けいちゃんはそれがとても気持ち良いドラマーです。そこで、曲に合わせて、他のパーツは完全にミュートorダミーにした状態で一曲を通して叩くのを各素材分繰り返し、それらを組み合わせてドラムセットを再構築したのが「星雲少女」のドラムトラックです。これ、ドラマーの負担も、時間的な制約もすごいんですが、けいちゃんとエンジニアまきおくんがやりきってくれました。なんか別々の工場で作ったパーツを組み合わせたら、一台の車が出来上がるような感じですかね。
(youtubeのコメントか何かで海外の方が、「スネアの音がグレイトだね!」みたいなことを書いていて、「せやろせやろ」と思ったりしました。)
そして最後にこの曲の忘れてはいけない要素が、イントロから1曲を通して途切れることなくループするピアノフレーズです。これだけは、生音ではなく打ち込みです。バンドで録った生音のトラックに、サクライケンタさんのループが加わって、「星雲少女」のトラックは完成しました。
「星雲少女」の音源はメンバーのボーカルも独特の空気が出ていると思います。なかなか再現できない、この日しか出せない表情というのが出ていると思います。
「星雲少女」はたぶん比較的「良い」と言われる事の多い曲ですが、僕的にはかなり天然に近い曲なので「あ、これ良いんだ」という不思議な感じでもあるんですが、たしかにライブで6人が星雲少女を歌う姿を見ると、開歌が歌ってくれて良かったなぁと思う魅力があります。
『さふらん』
こちらもバンド生音の楽曲で、9月発表の秋の歌です。火照った夏の喧騒から、静かな秋の入り口へ、少しクールダウンする切なさに、10月に薄紫の花を付ける「さふらん」という花はぴったりな題材でした。
少しピアノ強めのレトロな曲調で、「セミロング」が80sだと、「さふらん」は60s〜70sって感じでしょうか。シティポップまで行かないニューミュージックくらいの、新宿までいかない中央線っていうか、渋谷までいかない井の頭線っていうか、その辺の質感です(わかってもらえるか)。バンドメンバーは「星雲少女」と同じですが、バンドマン的には「さふらん」はナチュラルに十八番のノリだと思います。意外とクラップとか入りそうなノリでもあるので、いつかこの曲でクラップを求めたりしても良いかなと思います。
冒頭のピアノリフが曲のフックになっていますが、このコンプ感強めのピアノの音はカッコいいです。ジュリー(沢田研二)などに楽曲提供した大野克夫さんが、自作曲のデモを収録した「幻のメロディー」というアルバムシリーズがあるんですが、そこで大野さんが弾くピアノの音がなんかすごくて。デモだから、当時の質の高くない録音機材で録ったとかの理由があるんだと思うんだけど、ピアノのコンプ感がエグくて「この音良いなぁ」と思っていました。ちょっとそのイメージに近くて、万事OKです。
さて、この曲は、かなり複雑なハーモニーを持った曲で、最大で6声以上出てくると思います。「いや、難しすぎるだろ」という声もありそうですが、この曲「音源での面白さを最優先にしよう」というテーマでスタートしたので、重ねるだけ重ね、さらに定位(PAN)も遊びまくってます。イヤフォンで聴いてみてください。
60年代のフィリー・ソウルのアルバムとかって、「このミキサー、この時ブッとんでたんでは?」というような信じられない定位してます。変な位置からコーラスが飛び出てきたり、リズム隊が左右に振り切れてたり(これはステレオ黎明期ゆえという理由もあるけど)。でも、それが現代の耳で聴くとファニーで面白く聴こえたりするわけで。「さふらん」は奇をてらったわけではなく(その辺は嗅覚あるので)、ただ一般論はちょっと取り除いて、一番面白い音像目指そうぜ、というのがありました。これが客観的にどういう効果が出てるのかという結論には至ってないんだけど、アルバムの中で良いブリッジになってたら良いなと。
「さふらん」はダンスが印象的で、ちょっとレトロなダンスが目に楽しいです。「さふらん」には色んな歌唱技法が入っていて、ライブで歌いこなすのが一つのハードルみたいな所があるので、成長がよくわかる曲、みたいなダービースタリオン的な面白さもあるかもしれません。
『かいかのMUSIC』
2019年の夏は、TIFで「ゆびさきに向日葵」を披露して、@JAMでこの「かいかのMUSIC」を披露するという流れでした。どちらも夏の曲ですが、真夏日のポップスと、宵闇のダンスミュージックという二つのテーマで制作しました。
「かいかのMUSIC」は、ダンスミュージックですが、音を減らして「足し算の"面"のダンスミュージック」ではない、「引き算の"点"のダンスミュージック」というテーマです。海外のヒットチューンの音の少なさ、リズムの新しさが製作陣の念頭にありつつ、フェスで初めて見たみんなをビビらせて踊らせたいって感じでした。
指で机を叩いてリズムを作って、もうローリングストーンズの「悪魔を憐れむ歌」みたいなアーシーなノリのデモを作りました。そのトライバルな感じが、夏祭りのイメージを想起させたのかな、と今初めて気づきました。
こういうギチギチのリズムに言葉を選んで乗せる作業は面白くて好きなんですが、「眠れないのは擦れた親指と中指が痛くって」というのがカチッとハマって曲のイメージが出来ました。(この曲のリズム、メンバーは最初本当に苦戦してました。)
そこからサクライケンタさんによるアレンジで、ばりばりソリッドなトラックへと変貌しました。天才です。
そのサクライケンタ印のトラックに、がっちゃんの粘ったベースが絡んできて、サビでリズムがけいちゃんの生ドラムに入れ替わる。
この辺の無機質と有機質が次第に入れ替わって、冷えた金属がだんだん熱を帯びて赤く発光していく感じ、そこにクラップが織り重なって見たことのない世界へ浪漫飛行IN THE SKYです。
ロック、ファンクテイストなギターリフも入れました。一応本職の一つなんですが、開歌の曲でこの曲だけなんです、ギター歪んでるの。それも、最後の最後だけですけど。
サビの歌詞は、最初「I GOTTA MUSIC」だけでした。しかし曲の熱量の高まりとともに、「あなたの音楽」、「開歌の音楽」、そして「わたしたちの音楽」になっていきました。
ライブの盛り上がりを見ると、まさしく「わたしたちの音楽」なんだと思います。メンバーもかっこいいです。
「開歌のダンスミュージック」は今後もテーマです。
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