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九月十二日( 火)ポンペイ遺跡とイタリアンバーガー
本日の朝ごはん
朝食。ドリンクは柿崎さんが昨日飲んでいたのを真似して、ラテ・マキアートを注文。クロワッサンガチャの中身は練乳くらい甘いクリームとチョコレートが大量だったので、ラテはノンシュガーで飲んだ。
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イタリアでの食事は野菜や果物が不足しがち。毎日ビタミン剤を飲んでいるが、できることならナチュラルに摂取しておきたいので、スーパーで買った紙パックのフルーツジュースを飲む。
日本だと一日分の野菜がとれる便利なジュースがコンビニとかで買えるけど、こちらではまったく見当たらなかった。私が見落としているだけなのだろうか。
前にこのバイトで来た人が、日本から野菜ジュースを大量に持ってきたという話を聞いていたが、その気持ちが今ならよくわかる。
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吉原ツアーでポンペイ遺跡を観光しよう
今日から本格的に観光を開始。佐渡島組から船でイスキア島に渡って一泊してくるプランに誘われたが(どれだけ島が好きなんだ)、とりあえずはナポリ周辺を観ておきたいという気持ちが強い。そういえば私はナポリの茶色いジェノベーゼが食べたかったのだ。
そこで吉原さんである。吉原さんは飴細工職人になる前、イタリアンレストランの厨房で働いていた人。その前にはイタリア放浪の経験があり、ナポリにもしばらく滞在していたそうだ。そんな吉原さんが引率する観光ツアーがあるようなので、そちらの一行に混ざらせてもらうことにした。
本日の目的地はポンペイ。よくわからないが大きな遺跡があるらしい。奈良みたいなところだろうか。
このホテルの最寄り駅であるカソリア・アフラゴーラ駅(Casoria-Afragola)までは、ゆっくり歩いて二十分。一人だったら躊躇するような近道の路地を、そっと通らせていただく。この集団はなんだ、という視線をベランダや物陰から若干感じる。怪しいものではありません。怪しいか。
この辺りは頑丈な塀で囲まれた集合住宅が多く、車のハンドルに防犯用ロックがついているのもチラホラと見えた。改めて気を引き締める。
駅の券売機で言語を選び(もちろん日本語はないので英語)、ターミナル駅であるナポリ中央駅(Napoli Centrale)までの切符(1.8ユーロ)を購入。
日本のような改札という概念はないらしく、打刻するマシンに切符を入れて、そのまま電車に乗る。たまに駅員さんのチェックがあり、切符を持っていなかったり、打刻がなかったりすると、かなりの額の罰金をとられるシステムらしい。
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ナポリ中央駅までは一駅だけで、乗車時間は十五分ほど。青い電車の車内は未来のような格好良さだったが、乗り心地はなんだかザリザリしていた。
イヤホンではなく音を出して音楽を聴いている人、電話でずっと話している人がいるけれど、そんなことは誰も気にしていない。犬連れの人、自転車持参の人も普通に乗り込む。自由度が高い。
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ここまでは国営鉄道のトレニタリア(Trenitalia)で、ここから先は『EAV』という民間企業のチルクムヴェスヴィアーナ鉄道(Ferrovia Circumvesuviana=ヴェズヴィオ周遊鉄道)となる。
大阪駅から梅田駅に移動するように、駅ビルを地下に降りてガリバルディ駅 (Garibaldi)へ。ゼータガンダムのモビルスーツみたいでかっこいい名前だなと思った。
チケット売り場でポンペイ・スカビ駅(POMPEI SCAVI=ポンペイ発掘現場)までの切符(3.3ユーロ)を購入し、この駅にはある改札でガチャンと打刻してからホームへと降りる。切符の購入や道案内はすべて吉原さんと美桜ちゃんに任せてしまったが、本来は自分で試行錯誤することに旅をする意味があるのだろう。今はガイドツアー付きの団体旅行状態だが、もう少しイタリアに慣れてきたら一人旅をしてみたいなと思いつつ、単独行動中に財布やスマホを盗まれたらどうしようという心配をしてしまう。
線路にはたばこの吸い殻がたくさん捨てられていて、落書きだらけの電車が止まっていた。すっかり遠足気分ではあるが、今まで以上に警戒心を高めつつ、スリ対策の紐をつけた財布とスマホを確認する。
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ポンペイ遺跡へと向かう列車のホームは、たくさんの観光客で溢れていた。なにもわかっていないのだが、どうやら世界的に人気の観光地らしい。
黒い鉄仮面のような急行に乗り込み、ぼんやり窓の外を眺めていたら、こんもりとした山が二つ見えた。吉原さんの話だとヴェスヴィオ山(Il monte Vesuvio)という火山で、ここが西暦七九年に大噴火をして、その火砕流によって地中に埋もれた街がポンペイ遺跡なのだとようやく知る。
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ポンペイ遺跡は大きかった
三十分ほどでポンペイ・スカビ駅に到着。
人波に流されながら出口へ向かうとチケット屋さんがたくさんあり、こ
こで入場券を買うのかなと思ったら、ガイドツアーの申込所のようだった。
英語やイタリア語でガイドをされてもわからないのでパス。
なんとなく上野公園周辺を思わせる売店の並んだ道を進むと、『SCAVI DI POMPEI』と書かれた建物が見えてきた。ポンペイ遺跡の入口だ。
19ユーロを払って入場すると、果てが見えない規模の巨大な遺跡で驚いた。どれだけ広いのだと地図をもらって確認する。どうやら上野公園くらいありそうだ。
これだけの街が火砕流によって埋もれたのかという驚き、発掘作業は大変だろうなという感心、ここをたまたま見学できるという喜び、また噴火したらどうしようという不安、様々な感情が一気に湧き上がる。最近だと一九四四年にも噴火をしているらしい。
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ここの見学にどれだけの時間が必要なのかピンとこないのが、とりあえず二時間半後に集合ということで一旦解散。地図によると右端に大きな円形闘技場があるようなので、そこを目指してみる。
石を積み上げて作られた柱や壁の残骸、雨の日は一段下がったところに水を流したという道路、当時の生活を想像させる家々、文化の豊かさを感じる共同浴場や壁画。
建築素材が木ではなく石だからこそ、ここまで当時の面影を残しているのだろう。チンドン屋の二人は立派な劇場に大興奮していた。
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この日はものすごく暑く、日陰の少ない遺跡を巡るには過酷な天気。持ってきた飲み物がすぐになくなってしまう。日本と違って自動販売機などなく、このままでは倒れるぞと焦っていたら、遺跡をそのまま利用したような水道があった。
みんなが水筒などに水を入れているので、きっと飲める水だろうと信じ、空になったペットボトルに汲ませていただく。足元では見たことのない茶色いハチも水を飲んでいた。
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一時間半ほど見学しながら歩いて、ようやく目的地の円形闘技場に到着。
同世代の日本人ならかなりの確率で『ジョジョの奇妙な冒険』の第二部を読
み返したくなる空間に声をなくす。
どのような戦いがこの場所で行われていたのかはよくわからなかったが、ピ
ンク・フロイドというロックバンドがここでライブをやったらしいというのはよくわかった。このコロシアムをぐるりと囲む通路が、ピンク・フロイドのミュージアム状態なのである。
まっすぐ縦に伸びた巨大な松の木の下で、大きな松ぼっくりを拾ったら、松脂で指がペトペトした。イタリア出身の落語家がいたら、林家ポンペイという名前になりそうだなと急に思った。
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二時間半ではまったく足りず、戻りの道は早歩きとなった。観られたのは
全体の三分の一といったところだが、それでも規模感や空気感に圧倒された。
私はまったく予備知識なしでポンペイ遺跡を訪れてしまったが、もし行か
れるという人がいたら、148ページに及ぶ日本語版公式ガイドがサイトで
無料公開されているので、一読しておくことを強くお勧めする。私はまだ
読んでいないけど。
http://pompeiisites.org/wpcontent/uploads/Pompeii_JA.pdf
イタリアンバーガーと生ビール
遺跡を出たのが十四時。どこかで昼食でもと思ったが、どの店もかなり強気な観光地価格だったので挫折。どの国にもあるエッチなお土産物を遠目に冷やかす。
帰りの電車で、途中の駅からアコーディオンと太鼓を持った二人組が乗車してきて一曲弾いた。じっくり観ているとチップを要求されるので、みんなが
そっと目をそらす。
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ナポリ中央駅でハイネケンの看板を掲げたビアバーに入り、遅めの昼食と早めの飲酒。イタリアなのでイタリアンバーガーとビールのセットを注文(12.9ユーロ)。
生ハム、モッツアレラチーズ、トマトなどがどっさり挟まっていたが、ソースはなぜかバーベキュー味。
柿崎さんが食べていたカルボナーラのスパゲッティは、ソースの卵が割とポソポソしていて、意外とこういうものなのかもと思った。
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ちょっと高級なスーパーでお買い物
最寄り駅からの帰り道、ちょっと高級なスーパーがあるという話をタケちゃんから聞いていたので寄り道してもらった。
デコ(Deco)という店で、入り口の横には立派な魚屋さんがあり、サーモン、タイ、シイラ、タチウオ、ボラ、イカ、タコ、エビ、アサリ、ムール貝、アンコウ、サメガレイ、オジサン、ガンギエイなどが並んでいて興奮する。
せっかくなので一度くらいは海鮮系ビジホ料理にも挑戦してみたい。どうせならエアビーで広いキッチンのある家を借りようかと一瞬考えてしまった。
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野菜売り場はコナドと同じく量り売りだが、自分で選んで秤に乗せてシールを印字する方式ではなく、店員さんに「これをこれくらいください」と注文するスタイル。試しにトマトを三つほど買ってみたら2ユーロだった。
寝酒のビール、つまみのピスタチオ、自分へのお土産としてポルチーニオイルなどを購入。
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本日の夕ごはん
夕飯は今日もパスタにした。トマトと挽肉のソースに五回転ほど捻りの入ったショートパスタ。セコンドは鶏手羽元のローストが二本とフライドポテト。
イタリアの鶏はサイズが大きいのか、手羽元が見たことのない大きさで食べ応えがすごい。あるいは鶏ではない鳥なのかも。手羽元一本とアンチョビの効いたピザ一切れを交換する。
直径三十センチくらいあるボリューミーなピザは、イタリア人でもなかなか食べきれないらしく、耳の部分を大胆に残している人が結構いた。
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この日はスーパーで買い物をしたので、夕食後にまたベランダに集まって軽く飲んだ。
砕いたパルミジャーノ・レジャーノや、クラッカーに乗せたブルーチーズをつまみつつ、イタリア産の赤ワインを飲むという贅沢。
柿崎さんが買ってきた、ライスクラッカーと書かれた歌舞伎揚げみたいなお菓子が辛くて大不評だった。
遅れてやってきた仙丸さんの奥さんのゆきさんが、クセのあるグラッパをストレートでガバガバ飲んでいた。
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本日のオンラインアルバム
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詳細情報・ご購入先
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※同人誌「芸能一座と行くイタリア(ナポリ&ペルージャ)25泊29日の旅日記」のNote版です。紙の本や電子書籍に関する詳しい情報は以下よりどうぞ。
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芸能一座と行くイタリア25泊29日の旅日記
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