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九月十一日(月)こっそりとキノコスープを作る休日

本日の朝ごはん

ようやくイタリアに来て初めての休日。ただ休みといっても、だいぶ前にサイゼリヤで食べた茶色いジェノベーゼを探して食べるくらいしかテーマがな
い。
この機会に溜まりまくっている原稿でも書こうかとも思ったのだが、みんなが近くのスーパーマーケットなどを探検しにいくというので、パソコンを立ち上げずそっちについていくことにした。ほら、Wi-Fiもつながらないし。

朝食はいつもと同じく一階のバール。違うのは柿崎さんが普段着なところ。昨日覚えたカプチーノと、緑色のクリームがちらっと見えるクロワッサンを注文。中身はピスタチオのクリームだった。珍しく予想通りである。
柿崎さんはラテ・マキアート(Latte macchiato)という、聞いたことはあるけれど実態がよくわからないドリンクを頼み、泡立てた温かいミルクにちょっとエスプレッソを垂らしたものを手に入れた。私が前に頼んだのはカフェ・マキアートだっけ。この辺りのルールがまったく覚えられない。

本日の朝食セット
ラテ・マキアートだそうです

今日こそは蚊に食われてなるものかとズボンの下にパジャマを履いていたら、無防備な顔を刺されてしまった。結果、余計痒い。ここには私よりよっぽど露出の高いイタリアーノも多いが、蚊に刺されない体質なのだろうか。

近所のホームセンタ―とスーパーマーケットに行く

十時にホテルを出発し、普段着の飴職人、独楽職人、チンドン屋について買い物へ行く。それにしても道に落ちている犬のウンコの量がすごい。
最初に訪れたのは、四階建ての古いマンションの一階にある『GO SHOP
PING』という中華系の方が経営しているお店だ。
パッと見は町の雑貨屋くらいの店構えなのだが、奥行きがとてもある建物で、必要なものはなんでもここに売られていた。立派なホームセンターじゃないか。
しかもここはイタリアなので、キッチンバサミなどの調理道具がすべてかわいらしく、いろいろと買いたくなってしまう。だが旅はまだまだ序盤なので、必須アイテムの虫よけスプレーだけで我慢。

ちょっとした雑貨屋だと思ったら違った
かっこいい虫よけスプレーを購入

続いてはコナド(CONAD)という大きなスーパーマーケットへ。このようにホテルから徒歩圏内にホームセンターやスーパーがあるのは、何度も『FESTIVAL DELL'ORIENTE』に参加している吉原さんによれば、かなりのレアケースなのだとか。いちいちバスに乗らないと買い物にも行けないホテル
も多いが、そういうホテルのほうが食事は充実しているらしい。

このスーパーも生ハムとチーズの売り場スペースが驚くほど広く、そして
品揃えが素晴らしかった。海に面したナポリらしく、魚介もいろいろ売ら
れていて心が躍る。量り売りの野菜も全部おいしそうだ。
ここなら三時間くらいは余裕でいられる。毎日来たい。
こちらでは舶来品となる醤油とか寿司を買おうとすれば当然高いが、地元の食材である生ハムやチーズは驚きの安さ。ビールやワインも酒税がないのではと疑う程に安い。
ちょっと前に『出張ビジホ料理録』という小説を同人誌で出版した。福田空(ふくだそら)という会社員が主張先のビジネスホテルで、こっそり地元の食材を料理して一人で食べるという話だ。
ここに並んだ魅力いっぱいの食材を前に、俺の中に住むリトル福田空が騒ぎ出す。部屋に冷蔵庫もないのに、ついいろいろと買いまくってしまった。

徒歩圏内にこんな立派なスーパーがあってうれしい
チラシを眺めているだけでも楽しくなる

お会計は日本のコストコなどで体験したことのある、レジ前のベルトコンベアみたいなレーンに並べる方式。合計金額はだいたい聞き取れないので、レジ機の表示をチェックするか、見えなければ適当に多めに出す。現金払いはやっぱりもたつくので、ピっと支払えるタッチ決済のクレジットカードがあると便利。
みんなで小さいジャイアントコーンみたいなアイスを食べながら、ニヤニヤしつつホテルへと戻る。今日の昼食は自炊に挑戦だ。

イタリアンなキノコスープを作ってみる

柿崎さんはどこかに外出中。
溜まっている洗濯物をビデでジャブジャブと洗ってから、一人でこっそり『福田空ごっこ』をスタートさせる。調理場はベランダのテーブルだ。

愛用のトラベルクッカーであるカシムラの『TI-190』を取り出し、『FUNGHI MISTI TRIFOLATI』と書かれたキノコなどの詰め合わせを入れる。立派なマッシュルーム、知らない黄色や白のキノコ、真っ赤なミニトマト、イタリアンパセリ、赤唐辛子、みじん切りのニンジンのセットだ。
森でみつけた知らないキノコを食べる勇気はないけれど、スーパーで買ったやつなら安心して試すことができるので助かる。
これを煮込み用のセットだと思って買ったのだが、確認したら炒め物用だったけど、トラベルクッカーは炒め物ができないので煮る。

ここに追加する食材は、生ハムの切り落としとトマトペースト。トマトと唐辛子と生ハムの赤、キノコの白、イタリアンパセリの緑という配色が美しい。これは食べられるイタリア国旗なのではと興奮していたらペーストをこぼした。

日本のスーパーではちょっと見かけない色彩の鮮やかさ
トマトペーストを盛大にこぼした

トラベルクッカーをAC220〜240Vモードに切り替え、Cタイプへの変換プラグを噛ませてコンセントに差し込み、焦げ付かない程度の水を加えて煮る。もちろん窓は全開にして、できるだけ匂いがこもらないようにする。料理をした形跡を一切残さないのが、このビジホ料理のマナーである。

電源を入れてしばらくすると、フツフツと煮えてキノコからたっぷりと水分が滲み出てきた。ちょっと気になるのは、刻んで入れた真っ赤な唐辛子である。トマトみたいな色だから、そんなに辛くないだろうと試しに齧ってみたところ、舌を閻魔に抓られたくらい刺激的だったので全部取り出す。確認してよかった。

煮込んでいる間に、一緒に買ってきた赤ワイン、蟠桃(ばんとう)という平たい桃、スライスされたパン、桃ヨーグルトをテーブルに並べておく。桃がかぶった。

イタリアのコンセントはC型
楽しくなってまいりました

キノコがしっかり煮えたところで最後の仕上げといこうじゃないか。
これだけでも十分おいしそうだが、福田空はこれくらいじゃ満足しない。ここに『FORMAGGIO GALBANONE AFFUMICATO』と書かれた柔らかいチーズをたっぷりと投入。どんなチーズなのかはまったくわかっていないが、キノコにトマトに生ハムにチーズの組み合わせなのだから、これはもう絶対にうまいはず。味付けは少量の塩のみ。試しにチーズをそのまま食べてみたら、さけるチーズの味がした。

謎のチーズは熱が加わると、理想的な柔らかさでとろけてくれた。これを硬いパンにたっぷりつけていただくと、一気に福田空スイッチが入って感情が激しく溢れだした。

「チャオチャオグラッチェ、ありがとうイタリア〜。複数のイタリア産キノコからあふれ出るうま味成分の洪水を、濃厚なトマトペーストがしっかり受
け止めて、そこに生ハムが贅沢なコクと歯ごたえをプラス。スモーキーな香
りを纏ったとろけるチーズは料理全体を二段階自分好みの味へと引き上げる魔法のアイテム。そして忘れてはいけないのが全体を引き締める唐辛子の程よい辛み、イタリアンパセリが与える香りのアクセント。これぞ俺のイタリアン。ナポリの厳しい残暑を煮詰めたビジホ料理にマンマ・ミーア!」

イタリアの食材はポテンシャルがすごいね
平べったい蟠桃がおいしかった

いやー、最高に楽しい。スーパーで適当に買い求めた食材を煮ただけで、ここまでイタリアンな味になるのかと驚いた。安い赤ワインとの相性がまた最高。
デザートに用意した蟠桃は皮が柔らかく、丸かじりをすれば甘くてジューシーでちょっとスパイシー。
緑黄色野菜がちょっと足りないので、犬の散歩道から外れた場所で摘んだスベリヒユという野草をサッと茹でて栄養補給。単体で食べておいしいものではないので、マヨネーズも買ってくればよかった。

みんなで持ち寄るランチ会


イタリアで初めての自炊にすっかり満足したところで、スマホを確認するとLINEのメッセージが溜まっていた。どうやらホテルにある広いベランダに、みんなが集まって食事をしているようだ。せっかくだから自作のトマトキノコ鍋の残りを持って合流させていただこう。
各自がスーパーで買った食材やお酒をテーブルに並べて、ようやく顔と名前が一致してきた皆さんと乾杯。いただいたスライスしたての薄い生ハムが、口の中でとろけていった。

集まれる場所がるっていいですね

本日の夕ごはん

ベランダでの宴会は十六時頃まで続いたのだが、二十時にまた夕飯を食べる。
日替わりパスタはチーズとハーブを絡めたペンネ。セコンドは豚ロース肉を煮るか蒸すかしたものにブイヨンのソースをかけたもの。付け合わせはフレンチフライ。
厨房からの「トマトを使わなくてもうまいイタリアンは作れるんだぜ!」というメッセージを受け止めながら、おいしくいただかせてもらった。

ピザを選んだ人からマルゲリータを一切れもらったのだが、さすがはイタリアの国民食だ。モッツアレラチーズとトマトの組み合わせがパーフェクト。
明日はピザにしようかな。でも日替わりのパスタも気になってしまう。

薪の石窯だからこその焼き上がりが見事
これが本場のマルゲリータ
日替わりパスタはチーズとハーブのペンネ
本日のセコンドに豚肉とポテト

これだけ散々食べておきながら、ずっと気になっていたジェラートを帰り際に注文。チョコミルクとピスタチオをコーンでお願いすると、笑顔が素敵なヒゲのお兄さんが、滑り落ちるギリギリのラインでこんもりと盛り付けてくれた。

イラスト:スケラッコ

部屋に戻り、酔い覚ましにかじりついた真っ赤なトマトは、しっかりと肉厚で食べ応えがあり、甘さよりも旨味が強く感じられた。これがイタリアのトマトなのか。
さすがに今日は食べ過ぎた。

本日のオンラインアルバム

https://photos.app.goo.gl/Capa6CHTaECxtMiA6

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