ここでもベートーベンとクリムトに会える!元宮殿内のウィーン演劇博物館
ウィーン市内には50以上の美術館・博物館がありますが、その中から今日は、観光に便利な好立地にあるのに、なかなかマニアックな響きのする「演劇博物館」をご紹介します。
よほどの演劇好き、オペラ好きでなければ足を踏み入れない専門的な博物館のように見えますが、実は内部にはベートーベンが指揮棒を振ったコンサートホールと、クリムトの絵画があり、演劇ファン以外が素通りしてしまうにはもったいない建物です。
演劇博物館はオペラ座のホーフブルクの間に位置する貴族の元宮殿内にあります。17世紀の第二次ウィーン包囲後に建てられた最初のバロック様式宮殿と言う歴史ある建物。ファサードは、シェーンブルン宮殿やカールス教会を手掛けた有名な建築家フィッシャー・フォン・エアラッハによるものです。19世紀以降貴族のロブコヴィッツ家の所有になったため、現在でもパレ・ロブコヴィッツと呼ばれています。
演劇博物館の入るパレ・ロブコヴィッツのファサード
博物館に足を踏み入れると、立派な入り口ホールに目を奪われます。「ヘラクレスの泉」と階段は、この建物が宮殿であったことを思い起こさせます。ウィーン会議の時には、舞踏会会場として提供されていたということで、想像が膨らみます。
入り口ホールのヘラクレスの泉。
この宮殿の数々の持ち主のうち、フランツ・ヨーゼフ・マクシミリアン・フォン・ロブコヴィッツは演劇と音楽の庇護者としても知られ、ベートーベンのパトロンでもありました。フレスコの天井画が美しい2階の「エロイカの間」では、ベートーベンの第三交響曲(「エロイカ」,1804年)と第四交響曲(1807年)が演奏されました。初演時はベートーベン本人が指揮台に上がった、まさにここがそのホールです。
エロイカの間は今ではコンサート会場として使用されてます。
エロイカの間の天井画
また、この博物館には、クリムト絵画「ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)」が常設で展示されています。全裸の女性が待っ正面を向き、鏡を掲げる姿は、当時は大きな論争を巻き起こしました。
「ヌーダ・ヴェリタス」の展示。
演劇博物館とは一見関係ないように見えるクリムトの絵画が所蔵されているのは不思議ですが、この絵画はクリムトの擁護者であったヘルマン・バームが1900年に買い取り、その後その妻の手でこの博物館に寄贈されたとのことです。絵画の持ち主とその来歴も興味深いですね。2階に上がって右側の展示室なので、お見逃しなく。
この博物館はオーストリアの膨大な演劇やオペラに関する資料を保有していて、二つの特別展でその一部を公開しています。オーストリア国立図書館、オペラ座博物館などの所蔵品を集めた膨大なコレクションは、劇場好きにとっては必見です。
特に圧巻なのは、モーツァルトの時代の劇場機構の模型。マシーンテアターと呼ばれる仕掛けをふんだんに用いて観客を驚かせるタイプの劇場は、舞台上に描き割りを何枚も吊り下げる仕組みや、大量のロウソクで舞台を照らしていた様子が、模型を見るとよくわかります。
他にも、バロック時代の舞台衣装、歴史的な舞台の模型、仮面やパペットなど、舞台上で使用された小道具などの展示は非常に興味深く、オーストリアの演劇文化の歴史と伝統を感じさせます。
演劇に関しても非常に興味深い展示ですが、ベートーベンやクリムトの足跡を感じることができる博物館です。演劇に興味がない方も、ぜひ足を踏み入れて、ウィーンの美術や音楽の歴史を肌で感じてみてくださいね。
(2017年1月執筆)