
試されている~あるいは~競争の意味
●「試されている」
今日はボクが好きな詩と短いお話を紹介します。
「試されている」 宮沢章二
-走りぬく
-やりぬく
-生きぬく
そんなありふれて言葉たちを
ひとり 胸に刻みつけようとする日が
ぼくらの暮らしには 必ずある
ありふれて言葉のように見えるけれど
ほんとうは これらの言葉によって
ぼくらの日常も そして 生涯も
ひと知れず 試されているのだ
-ー 走り抜く やりぬく 生きぬく
自分の方向を 自ら そう決めたとき
進む道を美しく照らしてくれる虹が
こころの目に はっきりと見えて来る
●「競争の意味,あるいは価値について」
次は絵本作家の五味太郎が書いたお話です。
五味太郎さんは「競争の意味,あるいは価値について」という文で,
なぜ友だちと競争しなくてはならないのだろう?
と,次のように考えています。
以下引用 ――
たしかに人間は競争するのが好きです。
そして大人は子どもに競争させるのが好きです。
好きなだけでなく,競争は必要だと思っている人が多くいます。
それは「競争によって進歩する」という考えが人間にあるからです。
競いながらたがいに上達し進歩し,競い合いの中で工夫し向上するというような考え方です。
だいぶ長い間にわたって,その考え方で世の中が進んでいるようでした。
そして,確かにそれも当たっているふしがあります。
競っているうちにうまくなった,
勝ちたくて頑張っていたらおもしろくなった,
負けて悔しかったので工夫するようになった,
などということはよくあることで
競争そのものが悪であるとは言えないでしょう。
ただ,競争がつまらないのは,
自分にとって必要もない競争を周囲から強いられるからであって,
なんの目的のために競争しているかちっともわからないというような場合です。勝っても負けてもなんの意味も価値も,それこそ進歩もないという競争です。
競争に勝つことだけに意味があり,
負ければただがっかりというような競争,
競争のための競争です。
競争がつねに価値がもてる方法がただひとつあります。
自分と自分が競争することです。
自分の理想や目標,あるいは自分の好み,趣味,興味に対して自分で競う。25メートル泳げるようになるのが目標なら,
その目標を立てた自分に競争する。
泳げないうちはまだ負け,泳げたら勝ち。これは価値があります。
自分が満足できる歌い方ができるまで自分と競う。
途中で他人がほめても,自分が気にいらなければ負け。
音楽の先生がいい点をつけなくても,自分がステキと思えば勝ち。
これはすごい。
きびしいけれどカッコいい。
それをあえて友だちと競争するなら,
「どちらが自分にきびしく自分と競争しているかを競争する」ということになりましょうか。
―― 引用終わり。
●あなたにとっての「競争」とは?
宮沢さんの詩,五味さんのお話はどうでしたか。
中学生のあなたも,毎日なにかの「競争」をしているかもしれません。
授業,テストの得点,部活動,恋のレース,行事…
あなたは毎日なにかを「試されている」のかもしれません。
なんか,こう書いてしまうと,毎日何かに追われているようで,息苦しくなる人もいるかな?だとしたら,ごめんなさい。
でも,毎日少しずつ,何かを追いかけているのだとしたら,その先に見える景色がどんなものか,少し楽しみになるかもしれませんね。
ボクはいつも,この詩や文を読むと,スッと背筋が伸びるような気がして,好きです。
―― 以上です。これは2学期,それも10月頃に発行することが「定番」の学級通信です。五味太郎さんの本からはこれ以外にも多くの文を紹介しているし,道徳や進路学習にも役立てています。体育大会や文化祭,合唱コンクールなどの行事の前に発行することもあります。
『じょうぶな頭とかしこい体になるために』(ブロンズ新社)『大人問題』『さらに・大人問題』(講談社文庫)などは,特におススメです。