ずれ落ちる靴下、ドイツのリキュール、ただ唐揚げが食べたいだけなんだけどな(2024年4月15日の日記)
自転車に乗り、15分で駅に着いた。自宅から駅までは自転車で15分かかることがこれまでの経験でわかっていたので、つまりは正常に駅に到着したということだ。異変を見つけたら引き返さなければならないから、正常に到着できてよかった。駅に来たのは駅にある商業施設で靴下を購入するためであった。
去る2024年1月6日、私はAmazon.co.jpにおいて、10足で1,512円の靴下を購入した。長さがくるぶし下くらいのショートのものである。なぜ当該靴下を購入したかというと、その前にユニクロで購入していた厚手の靴下が、洗濯をする度にその黒い繊維の塊が他の洗濯物に付着することになっていたからである。私は一人で暮らしているので、洗濯をする度に私の靴下の黒い繊維が私の他の洗濯物に付着していることについて、またかよー、と思って払い除ければいいだけであるが、もし人と暮らしていて、私の靴下の黒い繊維を人の洗濯物に付着させたり、逆に人の靴下の黒い繊維が私の洗濯物に付着していたりしたら、お互いに不快だろうと思われ、人と暮らしていて不快だと思われる事案を、一人で暮らしているんだし誰にも迷惑をかけてないから別にいいやと継続してしまうと、その感覚に慣れてしまって、やばい人間に成り果ててしまう可能性があることに思い至り、思い切って当該厚手の靴下を処分して真っ当な人間になると決断し、従って、Amazon.co.jpにおいて10足で1,512円の新たな靴下を購入した、というわけだ。安いし。しかし、この靴下、実際に履いてみると黒い塊が出ないのはよかったものの、私の足に合ったサイズのものを購入したつもりが、実物はやや小さく、これを履いて街を闊歩していると段々と靴の中でかかとから脱げてきてしまう代物であった。最初のうちは靴下がずれ落ちる度に立ち止まり引っ張り上げて直していたが、近頃では面倒になってずれ落ちたまま歩行していた。この靴下を履いて私は様々な場所に行った。新宿、渋谷、池袋、八王子、平塚、横浜、熊谷、魚の品揃えのよい近所のスーパーマーケット、大きなまんまるのチャーシューが食欲をそそる地元で人気のラーメン屋、寡黙な店主がセレクトした本が並ぶセンスのよい小さな書店、立派な盆栽が並ぶ大人のムード漂う夜の飲み屋、市内を一望できる広々としたホテルの最上階──。それら全ての場所に私は靴下をずれ落としたまま行った。恥ずべきことである。ちなみに当該10足入りの靴下は5足だけ使用して、残りの5足は履かずにメルカリで売った。そのため、メルカリで購入した人も靴下がずれ落ちたままその辺を歩行している可能性があり、恥ずべきことである。靴下がずれ落ちたまま歩行すると単純に不快だし、なにより靴下がずれ落ちている異常な状態をそのまま継続してしまうと、その感覚に慣れてしまって、やばい人間になってしまうから、こうやって新たな靴下を購入しに駅の商業施設にやってきた、というわけだ。
私は私がそもそもどのような靴下を履きたいのかよくわかっておらず、YouTubeで然るべきキーワードで検索すると、お洒落で声がよく通り滑舌もよいお兄さんが「ソックスは白のロング一択」みたいなことを述べている動画があり、それを履きたい、と私は思った。だから新たな靴下というのは白のロングのことである。
私はユニクロの民なので、まずは駅ビル4階にあるユニクロに立ち入った。しかし、前回のように洗濯の度に繊維が他の洗濯物に付着する物品を購入するといけないと思ったこともあるし、近頃では私は無印良品の民なので、駅ビル3階に降り、無印良品に入店し直した。靴下コーナーにて白を3足、黒を3足選んだ。白の靴下というのは汚れが目立つことが経験上わかっていたので、普段の例えば近所の魚の品揃えのよいスーパーマーケットに行くときなどのどうでもいい時には黒を履いて、どうでもよくない時には白を履こうと思った。そうすれば白はあまり汚れず、どうでもよくない時に履いて然るべき状態が長く保たれるだろう。1000円引きになっていた黒のパーカーも買おうかどうか迷ったが、黒のパーカーはもっとかっこいいスペシャルなやつが欲しいなと思い、購入を見送った。もっとかっこいいスペシャルなやつというのが私はどのようなものなのかわかっていないが、なんだかそのように思った。
靴下を買えて満足した私は、そうだ、酒を買おう、と思った。隣の商業施設の1階に酒売場があったはずだ。翌日に人と会うことになっており、その人物が誕生日とのことで、何か贈り物をした方がいいように思われた。人に何かをかこつけて贈り物をする際の最も適切な方法は、所望の物をその当人に直接尋ねることであろう。不要なものを贈っても喜ばれるどころか不快に思われかねないからである。だけどなんか我々はサプライズで独りよがりな贈り物をしたくなっちゃう。これは観測する限り性別を問わない。1年前にも誕生日近くに会ったが、特に贈り物をすることはなかった。あれから1年が経ち、コミュニケーションを重ねる中で、「Aからチョコレートを貰ったが、甘いの苦手だから煎餅とかの方がよかった」「Bからトイレットペーパーを貰ったが、紙質がざらざらしており使用するのが難しい」「Cからアップルウォッチを貰ったが、お金に困って1ヶ月で売った」「Dからスタバのドリンクチケット700円分を貰ったが、そもそもコーヒー飲まないし、700円分を一度に使い切るのは難しい」などという知見を得ており、その他の様々なファクターを総合して考えるに、酒だ、と思ったというわけだ。パリピ御用達のリキュールを購入した。悪くない選択だったと思うが、「Eからリキュールを貰ったが、甘いの苦手だっつってんじゃん。アップルウォッチの方がよかった」という知見が誰かに開陳されている可能性は否定できない。
ついでにご自宅用のリキュールも購入した。薬草みたいなやつがたくさん入っているらしいドイツの酒である。SNSにおいて「ドイツの養命酒と呼ばれていて、きわめて健康によい」と紹介されていて、飲んでみたいと思った。私は2ヶ月ほど前から禁酒をしており、しかし、近頃ではわりと酒を飲んでいる。禁酒したての頃は厳密に禁酒をしていたが、基準がだんだん緩くなってしまって、今や独自のルールで禁酒を運用している状態である。禁酒における全ての法は弛緩する傾向にある。人類の話をしている。現在のルールは下記である。
・家で飲まない
・1日で発泡酒500mlが上限
・なんか飲みたい時は1000mlまでは許容
・土曜日は家で好きなだけ飲んでもいい
・日曜日も家で好きなだけ飲んでもいいかも
・家で飲まない
ルールの骨子である。家で一人でリラックスした状態で飲酒をするからついつい飲みすぎてしまうのである。かと言って、「絶対に飲まない」というルールにしてしまうと逆に飲みたくなってしまうのであり、「家で飲まない」が落とし所であった。従って、ここで言うところの飲酒とは、スーパーやコンビニの帰り道で歩きながら飲む酒のことである。いい大人が歩きながら発泡酒を飲むことはやばい人間の発露である可能性が大いにあるが、家で飲みすぎてガチでやばい人間になるよりはまだマシなのではないかと考えている。
・1日で発泡酒500mlが上限
2023年11月に厚生労働省が発表した「飲酒ガイドライン」によれば、生活習慣病のリスクを高める飲酒量として、1日当たりの純アルコール摂取量が「男性40g以上」「女性20g以上」という基準が示されている。純アルコール量20gというのは、アルコール度数5%の缶ビール500mlに相当する。仮に私が男性なら当該500ml缶を2本、女性なら1本まで飲むことができるだろう。
・なんか飲みたい時は1000mlまでは許容
上述の通り、仮に私が男性なら当該500ml缶を一日に2本、女性なら1本まで飲むことができるから、仮に私が男性なら、なんか飲みたい時には1000mlまでは許容されるだろう。
・土曜日は家で好きなだけ飲んでもいい
人は2週間に一度とか1ヶ月に一度とか定期的に徹夜をすることによって、身体に敢えてストレスを与え、より健康になることができる、という本当かどうかわからない言説を聞いたことがある。その考えに基づけば、人は1週間に一度くらいは過剰な飲酒をすることによって、より健康になることができるだろう。だから、毎週土曜日は家で好きなだけ飲んでいい、ということにした。
・日曜日も家で好きなだけ飲んでもいいかも
日曜日というのは一般的に休みなのであり、それにもかかわらずなぜ私は酒を飲んでいないのだろう? という至極真っ当な疑問を抱いてしまい、反駁の余地が全くなく、従って日曜日も家で好きなだけ飲んでいいかもしれない、ということになっているが、あまり飲まないようにはしている。
時刻は16時。まだ何も食べておらず、空腹であった。出先でとてもお腹がすいているのだけれど何を食べたらいいのかよくわからず結局何も食べないまま帰宅する、ということが私にはよくある。しかし、この日の私には明確に「唐揚げが食べたい」という欲求があった。心情を正確に記述すれば「ただ唐揚げが食べたいだけなんだけどな」である。ただ唐揚げが食べられる場所ってあまりなくないですか? あったとしても唐揚げだけ食べて退店するのって気が引けないですか? 唐揚げ定食? 否、定食ではなく、ただ唐揚げが食べたいのである。スーパーマーケット? 否、揚げたての唐揚げが食べたいのである。コンビニ? 否、コンビニエンスじゃないやつが食べたいのである。居酒屋? yes,居酒屋で単品で注文するという手もあるがyes居酒屋に行ったらyes酒を飲んじゃうじゃんyes。ただ唐揚げが食べたいのである。「ただ唐揚げが食べたいだけなんだけどな」を頭の中で唱えながらブックオフに行き、Nintendo Switchの戦略シミュレーションゲーム群をチェックしたり、藤野可織の短編小説集『ファイナルガール』を購入したりし、退店すると16時40分、いよいよ空腹が死活問題になりつつあり、「ただ唐揚げが食べたいだけなんだけどな」などという悠長な考えは捨てなければならない腹の状況になっていた。腹というか、胃が「いい加減に何かをください」と哀願しているように思った。少し離れたところに排骨タンメンがメニューにあるタンメン屋があり、そこでご飯を食べようと思った。このタンメン屋のタンメンには、厚生労働省が一日の摂取目標として提唱している350gの野菜が山のように盛られている。同時にスープはきわめて濃厚で、普通に食べれば、厚生労働省が「健康日本21(第三次)」で推進する塩分摂取目標7g未満を大きく上回るように思われ、結局このタンメンを食べた方が健康なのか食べない方が健康なのかよくわからないことになっている。かつて入店した際の記憶だと、プラス290円で唐揚げ+ライスのセットがあり、唐揚げはこぶしサイズのでかいものが3つ、ライスは山盛りで出てくるのであり、290円でその辺の定食屋の唐揚げ定食1食分以上のボリュームであり、どうかしている。気は確かか?
気が確かかどうかわからないタンメン屋を目指して歩行している途中、奇妙な光景が目に入った。いつも行列の絶えないラーメン屋に行列がなく、しかしながら、暖簾が出ていた。営業中であるにもかかわらず誰も並んでいない。このような光景を見るのは初めてであった。当該ラーメン屋はいわゆる二郎系というやつで、我が県には三大二郎系みたいなものが存在する。某市の麺屋某と、某市の某旨と、ここのこれである。特にここのこれは方方から店主が「天才」と崇められているのがよくインターネット上で観測される。ここのこれは昨年の一時期、長期に渡って休業していた。この大人気店が長期休業とのことで界隈はざわついた。ここのこれが長期休業した理由について、「店主がラーメンを作るのがほとほと嫌になったから」ではないかという噂を私は耳にした。本当かよ。やがて営業は再開され、営業再開を待ち望んでいたジャンキー共が一同に店に押し寄せ、その行列は空前絶後なことになっていた、との噂を聞き、やがてそのほとぼりも冷めたようだ、という噂も聞いていた。
五差路の複雑な横断歩道を渡り、店に近づき、誰も並んでいない店内を眺めてみると、普通にお客さんがいて、席が2席空いていた。私はこの機会を逃すまいと入店し、食券を購入しようとした。たしか、かつては700円だったか800円だったラーメンが1000円になっていた。もしかしたらこれが誰も並んでいなかった原因かもしれない。2席のうちの1席に着席し、スマートフォンを取り出していつから値上がりしたのかを調べようとSNSで店名を入れて検索すると、つい15分くらい前の投稿で「スープの味が決まらないとかで1時間待たされてんだけど」というのが見つかり、もしかしたらこれも誰も並んでいなかった原因の可能性がある。ラーメンはロット通りに私の左側の遠方から私に向かって順に整然と提供されていった。私は「にんにく少なめ、野菜マシ」をコールしようと思っていた。普段野菜を食べる習慣がないため、外食で野菜を補っており、このようなラーメン屋においては野菜を摂取する絶好のチャンスだ。私の直前、左隣の男は「野菜なし」とコールした。おいおい、丸腰で炭水化物の大群に挑もうというのか? 私の「にんにく少なめ、野菜マシ」のラーメンが着丼した。すごいボリュームだ。山のような野菜に肉厚の肉。まずは野菜を全部食べる。次に肉を全部食べる。それから麺を全部食べる。このような食べ方をすると太らない。エビデンスは俺。麺がごわごわで茹で時間が相当短いのが窺える。たしかに前のロットが提供されてから我々のロットが提供されるまでの時間が異様に短かった。私は食べるのがわりと早い方だが、さすがこの店に来る練達の猛者、同ロットの戦士たちは異様な速さで食べ終えてどんどん退店していく。急かされたわけではないが、胃に入りそうになかったので、私はあと一口分を残して退店した。左隣の丸腰勇者と同じくらいのタイミングであった。私の右隣の者は半分くらい食べて悶絶している様子であった。外には5人程度並んでいた。
帰宅し、まずは既存のずれ落ち靴下を全て処分した。これで二度と靴下がずれ落ちることはないだろう。そして、買ってきたドイツのリキュールをくつろぎながら飲んだ。一見、前述した平日は家で飲まない旨のルールに反しているように思えるかもしれないが、当該リキュールは「ドイツの養命酒と呼ばれていて、きわめて健康によい」代物であるから、酒にはあたらない、と私は考えている。厚生労働省も言っているように、酒は健康に悪い。本日は山のような野菜350g以上は摂取したと思うし、お出かけもしたし、いい一日だった。翌日もいい一日になるだろう。この原稿は平日の昼間に自宅でウイスキーストレートを飲みながら書かれている。
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