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見えないお化け、ハロウィンノベルパーティー2024最終話
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#ハロウィンノベルパーティー2024
最終日のお題「ハロウィン」は、前作において「可愛いお化け+ハロウィン」で書きました。ですので、いよいよ、これがラストです!ラストなので、いつもより千文字多いです。よろしくお願いします。
#見えないお化け
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見えないお化けの名前はソウタ。
ずっと昔から人間の世界にいたが、誰にも気づかれずに過ごしてきた。
ソウタは小さな町の片隅、古い図書館の影の中に住んでいた。見えないということは、いつも孤独で、誰かに話しかけることもできなかったし、話しかけられることもなかった。おまけに、時間が経つにつれて、触れられるものも減ってきていた。昔は紙をめくるくらいはできたが、今では風に舞う葉っぱすらも触れない。完全に消えてしまう日が近づいていることを、ソウタはぼんやりと感じていた。
「誰か、僕に気づいてくれないかな…」
ソウタは夜になると、図書館の外にふらりと出て、人々に気配を感じ取ってもらおうとした。でも、どれほど近づいても、彼の姿も声も誰にも届かなかった。無力感が募り、心が少しずつ薄れていくのを感じるたび、ソウタはさらに焦りを感じた。
しかし、ある夜のことだった。町の静かな路地を歩いていたとき、小さな男の子が立っていた。名前はタケル。その子は、何かを探している様子で、あたりをキョロキョロと見回していた。
「どうしたのかな?」
ソウタはその子に近づいた。もちろん、タケルは彼の姿を見ることができない。けれど、ソウタはただその場に立って、タケルを見つめ続けた。すると、タケルはふとソウタのほうをじっと見つめ、何かを感じ取るように、首をかしげた。
「そこに…誰かいるの?」
ソウタは驚いた。長い間、誰にも気づかれたことなんてなかったのに、この子は何かを感じ取っている。もしかして――ソウタは思い切って、タケルに少しでも自分の存在を伝えられないかと考えた。しかし、物には触れられないし、声をかけることもできない。どうすればいいのか悩みながら、ソウタはただタケルの周りをふわりと漂い続けた。
すると、タケルはソウタに手を伸ばした。
「なんだろう、すごく不思議な感じ…」
その瞬間、ソウタははっとした。タケルが感じているのは、自分だ。消えかけている自分の存在が、この子にはわずかに感じ取れているんだ。
ソウタは必死になって、タケルにもう少しだけでも自分の存在を知らせたかった。図書館の窓際に飾られている古い本が、風にそよぐようにほんの少しだけ揺れていた。その光景を見たタケルは驚いた顔をして、さらにソウタの存在に気づき始めた。
「もしかして、お化けなの?」
ソウタは無言で頷いたつもりだった。タケルはその場で立ち尽くし、しばらくの間、ただ感じ取ろうとしていた。
「見えないけど…でも、ここにいるんだよね?」
ソウタは心の中で叫んだ。
「そうだ!僕はここにいる!」
だが声にならない叫びが、タケルに伝わるわけもない。それでも、タケルはしばらくその場に佇んだあと、ぽつりと呟いた。
「一緒に帰ろうよ。僕のおうちに。」
その言葉に、ソウタは涙が出そうになった。見えないし、物にも触れられないが、誰かが自分の存在を感じ取ってくれたということ。それは何年、何十年もの孤独な時間の中で、唯一の救いだった。
タケルはソウタを家に連れて帰った。
タケルには友達がいなかった。ソウタは心の中で、タケルにずっと寄り添う決心をした。夜になると、タケルが寝ている間、ソウタはその傍にいて、そっと見守った。タケルは見えないお化けの存在を受け入れ、いつしか二人の間に見えない絆が生まれていた。
「今日学校でね…」
「うんうん」
ソウタの声は聞こえなかったが、不思議と会話は成立していた。
ソウタは消えることなく、タケルの心の中に生き続けた。
「僕、困ったことがあってね……」
タケルはソウタに胸の内を話した。誰にも見えないが、確かに存在するお化けとして、タケルと一緒に新たな日々を送っていた。ソウタは、タケルに頼られながら、消えかけていた体がだんだんとはっきりした形になりつつあることを感じていた。このまま、見える存在になれるのではと、期待していた。ソウタはタケルの心の支えになっていた。必要とされていたのだ。
昼間はタケルが学校へ通い、夜になるとソウタはタケルの傍らにいた。タケルは、学校であったことや、その日頑張ったこと、それに対する反省点などを話すようになった。日に日に、その目に光が宿っていった。
ソウタは感じていた。タケルが強くなり、自分がタケルにとって必要不可欠な存在ではなくなりつつあることを。タケルと一緒に過ごし始めた頃、体は存在感を増していった。でも、今は違っていた。
タケルが笑顔を取り戻し、友達もでき始めた。すると、ソウタの体は、いったん回復していたというのに、徐々にまた、消えていく感覚が、日に日に強まっていった。最初はその変化に喜びを感じていたが、だんだん寂しくなっていた。
ソウタの世界は、タケルとの見えない絆でかろうじて繋がれているだけで、かつて感じた孤独が再び押し寄せ始めたことが恐ろしかった。
ある晩、タケルはいつも通りベッドに横になり、眠りにつこうとしていて、ふと窓の外を眺めた。星の光が静かに揺れている夜だった。タケルはいつものようにソウタに話しかけた。
「君、最近はどう?僕、今日は学校で……」
タケルはいつも通り話し始めたが、ふと言葉を切った。ソウタの気配が薄れていることに気づいたのだ。見えない存在とはいえ、長い間一緒に過ごしてきた彼には、ソウタがここにいるかどうかがわかる。だが今夜は、ソウタの存在がほとんど感じられなかった。
「ソウタ?」
タケルは不安げに呼びかけた。だが返事はない。返事がないのは当然だったが、ソウタ自体がそこにいないように感じた。タケルは慌てて起き上がり、部屋の中を見回したが、やはり何も見えない。けれど、かすかに感じていたソウタの存在も、感じられなかった。
「僕、何か間違ったことをしたの?」
タケルは問いかけた。すると、ふわりと風が揺れるような感覚が彼の頬を撫でた。それはソウタの最後の応えだった。タケルは静かに涙を流しながら、それが何を意味するかを理解した。ソウタは、もうすぐ完全に消えてしまうのだ。
「ソウタ、行かないで。僕にはまだ、君が必要なんだ」
けれど、ソウタはすでに限界に達していた。自分が今この瞬間、タケルにさよならを告げるべき時が来たのだと感じていた。
「僕は、ここにいたんだよ」
ソウタは最後に思い切って、自分のすべての力を使って伝えた。もちろん声にはならなかったが、タケルにはそれが聞こえた気がした。タケルは涙をぬぐい、静かに頷いた。
「うん、僕には分かってるよ。ありがとう、ソウタ」
その瞬間、ソウタは穏やかな光の中に溶け込むようにして完全に姿を消した。もう誰にも見えないし、触れることもできない。ただ、タケルの心の中にだけ、その存在が確かに刻まれた。ソウタは、これで良かったのだと理解していた。タケルが一人でも生きていけるように成長したこと、それがソウタにとって何よりの救いだった。
タケルはその夜、静かに眠りについた。ソウタは消えたが、二人の間に交わされた見えない絆は、永遠に彼の中で生き続けた。