秋と本から始まる物語、シロクマ文芸部
#シロクマ文芸部
#秋の本
#秋と本から始まる物語
秋と本……その言葉の響きに、深く冷えた空気と静寂の中に佇む図書館での光景が浮かぶ。
木々が枯れ葉の衣をまとった、赤や黄色、焦げ茶の色彩が、本棚の本の背表紙のように積み重なっている。
秋の午後、私は図書館で借りた一冊の本を手に、公園の木のベンチに腰掛けていた。時が止まったように、誰もいない園内には、風に舞う枯れ葉の音だけが微かに響いていた。私は本を開いたまま、その空間に溶け込むように微動だにせず、ただ活字を目で追い続けていた。
私の指先がページの角をなぞる。ページの繊維の感触が、乾いた冷気に敏感に触れるたび、遠い記憶が断片のように現れては消える。
紙の微かなざらつき、ページをめくるわずかな空気の動き、そしてそこに書かれた文字が一瞬、私の脳に吸い込まれては、私自身が物語の一部に取り込まれる。
ページの奥深くで、私は誰かの目で世界を見ていた。
読み進めるほどに、意識は徐々に頁の隙間へと沈み込んでいく。周囲の景色は知覚から遠のいていき、やがて物語の海へと全身を委ねていた。私の目は動いているが、そこに映るものはもはや頁上の文字ではなかった。
そこには、ただ言語だけがぼんやりと漂い、過去に誰かが発した声が波紋のように空間を満たしていた。
その声の断片を拾い上げようとしたが、滑り落ちて指の間から消えていく。
これほどまでに感動しているというのに、私はこの物語の本質を、まだ、掴めていないのだろうか。
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