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この中にお殿様はいらっしゃいますか、毎週ショートショートnote、410字

街道で、駕籠かきと護衛の武士に、俺は声を張り上げた。

「この中にお殿様がいるのか?」

「貴様、何者だ? 無礼であるぞ!」

俺は笠をゆっくりと持ち上げ、顔を晒した。家来たちは驚愕の表情を浮かべた。

「お、お殿様…」

今の俺の姿は、まさしくお殿様そのものだった。俺は商人として巨万の富を築き上げたが、どれだけ財を積んでも、所詮は商人。権力を持つには及ばない。そこで、南蛮人の呪術師に全財産をはたき、殿様の姿そのものに変えてもらったのだ。

「余が本物の殿様だ。その駕籠の中にいるのは偽物だ」
俺は刀を抜き、駕籠の布を突き破って刃を深く差し込んだ。駕籠の中からうめき声が聞こえ、続いて「偽物の殿」が転げ落ちるように地面に倒れた。

「この偽物の死体をどこかに捨ててこい」

そう家来たちに命じると、俺は悠々と駕籠の中に収まった。胸を躍らせながら、しばらく駕籠に揺られていると、急に駕籠が止まった。そして、大きな声がした。

「この中にお殿様がいるのか?」

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(410字)
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